重すぎる決意
格納庫に着いて直ぐアーサーは見つかった。
カーライル中尉の情報通り、シンセシスー1の腕のパーツの前で座り込んでいたからだ。
「何をしているのアーサー?」
「見ての通り座っているだけだ」
以前のアーサーからは想像出来ない冷たい反応。
(様子が変わり過ぎて、もう誰だか分からないわね……)
「座っているのは目の方だと思うけどな。いい加減、元に戻れって。そんなにギスギスしてたらみんな困るだろ? 英雄様がご乱心ってな」
カーライル中尉が場を和ませようと、おどけて見せる。
だが、アーサーは鋭い眼光で睨み返した。
「それが上官に対する態度ですか? カーライル中尉? 軽口は謹んでもらえませんか?」
「何だよ、いつもの様にオリヴァーさんって呼んでくれないのかい?」
「必要ないでしょ。今のあなたには」
「その通りだ。必要なのは俺じゃない」
「なら、何故聞いた?」
「俺じゃなくてアーサーに必要だからさ。いつもの様にオリヴァーさんて呼んで、笑って見せろよ」
アーサーが高圧的な態度を取ったが、カーライル中尉は一歩も引かなかった。
(アーサーが階級で圧力をかけようとするなんて……でもカーライル中尉が頑張ってくれている)
カーライル中尉は諦めていない。
だから、凛は二人の会話を黙って見守る事にした。
「戦争をしているのだ。我々の仕事は笑えるものではない」
「そんな事はお前以上に知ってるよ。でも、普段の生活まで神経質になる必要はないだろ?」
「そういう甘い考えだから仲間を失うんだよカーライル。敵は何時、誰の命を狙っているか分からないのだ。今もこの世界の何処かで、誰かの命を奪い続けている」
「そうかもしれない……だけど、アーサーが何処の誰だか知らない奴の命に責任を感じる必要はないだろ?」
「ありますよ。奴らを滅ぼす職に就いていながら、滅ぼし損ねていますからね」
「奴らを滅ぼす職だって……違うだろ! E.G.軍はファングを滅ぼす為に作られた組織ではない!」
「それは建前ですよ? 我らアースガバメントの敵はB.o.Dが保有する軍隊、ファングなのは明白ですよ。他に敵対する組織がありますか? 無いですよね? 世界政府に属さないファングだけですよ。まさかとは思いますが、テロリスト程度を敵だなんて事は言わないですよね?」
「敵だろ、テロリストだって!」
「なら、テロリストも滅ぼせばいい。ファングの次にね」
「滅ぼすって! アーサーは宇宙の民を虐殺するつもりなのか!」
「別にそこまでは言ってませんよ。我々が滅ぼすのはファングです。私の前で兵器を手にした愚か者だけですよ。宇宙に住む民の全てがファングに参加するというのであれば、宇宙の民を虐殺するというのは間違っていないですけどね」
「そんな事が許されると思っているのか!」
「許されますよ。我々は軍人で、戦争中なのですから」
「俺は戦争犯罪を許せない……だからアーサーが暴走したら俺が止めるからな」
「出来ますか? 私より階級が低く、弱い貴方に?」
「やってやるよ! もう、諦めねぇ。こんな情けない俺を信じてくれた奴がいるんだ!」
カーライル中尉が肩で息をする。
興奮気味に矢継ぎ早で話をしたから息切れをしたのだろう。
カーライル中尉は伝えたい事の全てを言い切った。
それでもアーサーには想いが伝わっていない様に見える。
「凛さんですか? カーライルに何を吹き込んだんですか?」
「吹き込んだって……アーサー変わっちゃったね」
「変りもするさ。目の前で何人も殺されればな」
「今のアーサーをアランが見たら悲しむわよ」
「故人が悲しむ事は無い」
アーサーの声が一段と低くなる。
(故人だって? アーサーはアランが死んだと思っているの? 一番一緒に戦ってきて、一番信頼していると思っていたのに……)
凛はアランが生きていると信じている。
だから、アランを死んだ事にしているアーサーを許せなかった。
「勝手に殺さないでよ!」
「レイモンド・バージェス……あの男は私に匹敵する実力者だった。損傷した機体で勝てる相手ではない」
「それでも、アランは想像を超えた戦い方で勝ってきたでしょ」
「工夫で何とかなる戦力差ではない。アランだけではない、友軍のアルダーン部隊も全て撃墜されただろう。E.G.軍宇宙センターと通信が出来ないのは知っているな? 打ち上げ支援をしていたウォルフ技師長も戦死したって事だ」
「整備班の皆は生きてるって信じてるよ」
「そういう甘さが今回の事態を生み出した。大丈夫だろう、何とかなる、そう言い続けた末の末路だよ……」
「不安な時は誰だってそう思うわよ。希望を持つことは悪い事じゃないよ」
「希望を持つのは悪い事ではないよ。でも、それは他者の話だ。私は希望を持つのではなく、希望そのものにならねばならない。私がE.G.軍の英雄、アーサー・グリントだ」
「そんなの誰も望んでいないわよ」
「望んでいるさ、私自身がね。作戦会議の時間だ。ブリッジに向かいますよ」
アーサーは凛とカーライル中尉の返答を待たずに、ブリッジへ向かって行ったーー




