凛の父
廊下で隣を歩くアーサーを見ると、苦しそうに肩で呼吸している。
「大丈夫かアーサー?」
「大丈夫な訳ないだろ。生きる伝説、第1次宇宙戦争<灰かぶりの夏>最強のパイロットが僕達を殺そうと狙っていたんだぞ!」
アーサーが興奮しながら言った。
「殺そうと? 司令のご機嫌を取っているだけの情けない相手に見えたけど?」
凛が疑問の声を上げる。
フィオナ艦長も不思議そうな顔をしている。
直接戦闘を行わない二人は殺意に疎いのだろう。
福山少佐の殺意に気付いていなかったようだ。
「あの男は隙を見せたら、僕達を殺すつもりだった……アランは平気だったのか?」
「平気に決まっている。だから気にせず司令と話せた。アーサーが殺意に敏感だったとは知らなかったよ」
「アランは何で殺意を受けて平気なんだ? あの男の殺意は異常だった!」
「死に勝る殺意はない。アーサー、殺意じゃ人を殺せないんだよ。まぁ、あの男を侮って死んだら後悔するかもしれないがな」
「アラン……君は……」
「しっかりしろアーサー。アイツは過去の英雄だ。今は俺達の英雄の方が凄いって証明してみろよ」
「そうよ。アーサーの方が立派な英雄なんだから。自信をもってね!」
凛も落ち込むアーサーを励ました。
「ありがとう二人共。今回はプレッシャーに負けたけど、戦場では負けない様に頑張るよ」
「それでこそ聖剣カリバーンを手にした英雄様だ!」
「整備班のモノマネしないでよ凛ちゃん。恥ずかしいだろ?」
「落ち込んだ時は、恥ずかしいくらいの対応が丁度いいのよ!」
明るく振る舞う凛と対照的にアランは暗い気持ちになった。
(落ち込んだのは凛もだろう。だから無理をして明るく振る舞っているのか? 過去に何があったんだろう?)
アランは気づかない内に凛に興味を持ち始めていたーー
*
崔司令と話をした翌日、アランは凛の部屋を訪れていた。
「アランが私と話がしたいなんて珍しいわね。ついに私の魅力に気づいちゃったのかな?」
「それはない」
「もう帰ってもらっていいかな?」
「それは困る」
「仕方ないわね。何を聞きたいの?」
「父親の事だ。何故拒絶した?」
「他人に話す事ではないわ」
凛の拒絶の言葉を聞いて、アランは反省をした。
(プライベートな事だ、言いたくないのも当然か。深入りし過ぎたな)
「そうか、そうだよな……邪魔したな」
「いいよ」
立ち去ろうとしたアランを凛が引き留めた。
「どうして?」
「私、アランが孤児だったって知ってるのに配慮出来ていなかったから。私の対応、アランにとっては気分悪かったよね」
「気にする事じゃない。不幸な奴は腐るほどいる。そんな奴らを全て気にしていたらキリがない」
「腐るほどいなかったよ。少なくとも私の周りにはね……」
凛が目をつぶった。
アランは、凛がこれから話す事が不幸な話なのを感じ取った。
だから、凛が話始めるのを静かに待った。
5分程経っただろうか、ようやく凛が話し始めた。
「私が幼かった頃、母が倒れたの。直ぐに父に電話したわ。それしか出来なかったから。でも、父は救急車を呼びなさいって言って電話を切ったの」
「それで救急車を呼んだのか?」
「呼ぼうとしたわよ。でも救急車は呼べなかった」
「呼べなかった? 何故だ?」
「電話出来なかったの。ショートカットの1番が母、2番が父。それが私が電話出来る相手の全てだったから」
「そんな事分かっていただろう。それなのに親父さんは放置したのか?」
「そうよ。そして母は亡くなった。直ぐに病院に連れて行っていれば死ななくてすんだのにね」
「それで、凛を責めたのか?」
「父は何も責めなかったわ。私は何で助けてくれなかったのか問いかけたの。父は言っていたわ。重要な商談があったから仕方がない。日本の未来の為だって」
「日本?」
知らない言葉を聞いて、アランは思わず疑問の声を上げた。
「そう、日本よ。かつてこの地にあった国よ。今いるState1も、昔は東京って呼ばれていたって知っている?」
「知らないな。俺は学校で教育を受けていないからな。良く分からないが、親父さんは日本の未来の為に頑張っていたのだろう」
「そうね。母が亡くなった後も、日本を再興するって言い続けていたの。一企業の社長が国を興すなんて不可能なのに……」
「だから、凛は大望を語る相手を嫌っていたのか……」
アランはハワイでの会話を思い出していた。
(俺は凛の事を理解していなかった。いや、そもそも知ろうとすらしてなかった。何を偉そうに語っていたんだ俺は!)
もっと凛の事を知っていれば、別の言葉をかけられていたのではないか……
「父が夢じゃなくて、身近にいた母を見てくれていたら良かった。叶わない夢の先に何が待っているの?」
「俺には答えられない。俺も狂った人間の一人だからな」
「アランは違うよ。自分が正しいと盲信していないから」
「俺は同じだと思うけどな」
「違うよ。理屈で生き方を選んだ父と、感情で生き方を選んだアランは違うから。行き場のない怒りを上回る他の感情が生まれたら変われるよ」
凛が優しく微笑んだ。
「そうかもしれないな。でも、俺には必要ないさ」
「今は必要ないかもしれないけど考えておいて欲しいな。後、父はE.G.軍に取り入って不正を行っている可能性が高いから気を付けて」
「考えておくよ」
アランは凛と話を終え、自室に戻る事にした。
(この地には補給で寄っただけだ。何もする必要はない。それでも何か……何か出来る事はあるだろうか?)




