かつて日本と呼ばれていた場所
予定より1日早くなったが、戦艦フリージアはハワイから出航して次の目的地へ向かう事になった。
出航が早まったのは、ハワイがE.G.軍の名前を騙ったテロリストの攻撃を受けた事が理由だ。
警察では襲撃者が戦争のどさくさに紛れて不法占拠を狙ったテロ行為である事を理解しているが、攻撃を受けた市民の全てが知っている訳ではない。
テロリストとは関係ないとはいえ、混乱を避けるためには立ち去るのが最善とフィオナ艦長が判断したからだ。
目的地のインドまでは距離があるので、E.G.の信託統治地にある自軍の基地へ向かった。
E.G.最後の信託統治地……かつて日本と呼ばれていた場所である。
今から240年前、狂気の科学者として知られる高田博士が行った世界規模のテロの鎮圧以降続いている信託統治。
表向きの目的は、戦場となった日本の再興と独立であったが、実際はテロの再発を恐れた各国政府の監視と支配が目的であった。
約250年近く経ち、統治組織がE.G.に変わった今も支配が続いているのが、その証拠といえる。
その様な事情から、この地には大規模なE.G.基地があるので、弾薬等の武装を補充するには最適である。
戦艦フリージアは太平洋を渡り、E.G.軍の基地がある『State 1』に入港した。
同じE.G.軍とはいえ、フリージア隊が所属しているのはアメリカ地域のE.G.軍とは指揮系統が異なる。
入港して直ぐ、指令室へ呼び出された。
呼ばれたのは、部隊の指揮官であるフィオナ艦長、アーサー、アラン、そして凛の4人だった。
セキュリティ対応で、入港時に乗組員の情報を提供している。
指揮官である、艦長が呼ばれるのは当然の事である。
アーサーとアランは部隊のエースだから興味を持たれても不思議ではない。
だが、臨時で通信士をしているだけの凛が選ばれた理由は分からない。
指令室に入ると小太りの中年男性が着席しており、隣に一目で歴戦の勇士と分かる屈強な中年男性が立っていた。
恐らく座っている小太りの中年男性が司令官で、隣に立つ歴戦の勇士が副官なのだろう。
「子供を戦わせるとは腐ってるね。同じE.G.軍とは思われたくないね」
アラン達が着席すると同時に小太りの男性が言った。
「強要はしていません。本人の要望を受けいれただけです。名乗りもせずに初対面の相手を批判するのは失礼と思いますけど。同じE.G.軍と思いたくないですね」
フィオナ艦長が言い返した。
「名乗っていないのは君もだろ。本人が希望しても、子供を戦わせないのが立派な軍人である」
「その通りです崔司令! この無礼者も司令を見習うべきですよ」
司令の隣に立っていた屈強な男性が、顔に似合わないノリで司令をおだてた。
(なんだ、こいつらは? ロイド中将と同類か?)
基地司令の傲慢な態度を見て、アランは警戒を強めた。
「情けないとは思わないんですか福山少佐。第一次宇宙戦争の英雄が太鼓持ちする相手とは思えないのですが?」
「シニチの知り合いか?」
司令が副官に問いかけた。
「いえ、真一です。私が英雄なら、崔司令こそ大英雄ですよ」
「私は大佐ね。大英雄なんて名乗った事ないね」
「ご謙遜なされるな司令。大英雄とは本人が名乗る物ではありません。皆がそう呼ぶのです」
「シニチしか呼んでないよ。大英雄扱いするなら、大英雄分の給料出せよ」
はぁ。
フィオナ艦長がため息をついた。
艦長がため息をつくのは当然だ。
アランもこの茶番が早く終わって欲しいと願った。
その様なアランの退屈な空気に司令が気付いたようだ。
「しまったね。子供を退屈させてしまったよ。シニチ! 早く仕事をしなさい」
副官の福井少佐が奥の扉を開けて、40才くらいの細身の男性を連れて来た。
「デトロイトがファングの攻撃を受けたと聞いて心配してたよ! おかえり凛!」
細身の男性が凛に向かって大げさに腕を広げた。
(凛の父親?! 少し似ているか?)
アランは凛が再会した父親に飛びつくのを想像した。
だが、感動の再会は起きなかった。
「私は帰ってないわよ。フリージア隊の一員として少しだけ立ち寄っただけだから」
凛が冷たく言い放った。
「何を言っている。戦艦に搭乗するなんて危険行為、今すぐ止めなさい」
「私もMr.高木の言う通り、戦艦なんて物騒な物から降りた方がいいと思うね」
「流石です。崔司令。軍人でありながら、自ら兵器を否定なさるお姿に感動致しました」
「別に安全を求めていないから。他に用がないなら帰るけど」
「帰るって……どこに?」
「今は戦艦フリージアの自室が私の帰る所なの」
「いい加減にしなさい凛。司令に失礼でしょう!」
「今度はその司令にゴマすりするのが仕事なの?」
「凛!!」
アランは混乱した。
(一体何が起きている? 俺は何をすればいい?)
正義も悪も無い、それでも対立関係が乱立する状況。
フィオナ艦長も同じ様だ。
表情から困惑具合が読み取れる。
アーサーだけが、無表情で微動だにしていない。
(何をしているアーサー? こういう時にボケた事言って場を和ますのが役目だろ! お前は彫像か!)
アランが心の中で悪態をつくが、アーサーは固まったままだ。
混乱を治めたのは崔司令だった。
「Mr.高木、話が違うね。シニチ連れて行きなさい」
「司令、私は……」
「話は後ね」
何かを言いかけた凛の父親を司令が黙らせた。
副官の福山少佐が凛の父親を連れて、指令室から出て行った。




