裏切りのアラン2
アランが指令室に向かうと、あっさりと室内へ迎え入れられた。
警備の兵もおらず、ロイド中将と二人っきりである。
アランはロイド中将に促され席に着いた。
「よく来たねアラン君。要求は何かな?」
「要求? 話を聞きに来たのに、いきなり要求する必要があるのか?」
「あるよ、あるよ~。僕はね、親しくしたい相手には最初に要求を聞く事にしてるんだよ」
楽し気にアランに要求を問うロイド中将。
アランには中将の意図が分からない。
「何故要望なんだ?」
「最初に欲しいものを聞いてた方が、今後の付き合い方を決めやすいんんだよ」
「それなら兵器を準備してくれ。出来るだけ強力な奴だ」
アランは即答した。
目的が付き合い方を決める為なら、即断した方が印象が良いと考えたからだ。
答え方を考えて、有利に働くよう思考していると思われる方が問題だ。
「いいよ、いいよ。直ぐに手配してあげるからね。あのカリバーンより高性能な機体を開発させよう」
「何故、そんなに簡単に俺を信じる?」
「僕がこの質問をどれだけの人間に聞いて来たと思っている? 人間ってのはね、欲深いくせに欲を隠そうとするんだよ。僕が聞いても願いを口に出さない。そのくせ、目線でねだるんだ。口に出さなくても、気を使ってやってもらえる事を期待している。実に汚い」
「俺にとっては特別な事ではないな。俺はファングを滅ぼす。だから強力な兵器が欲しいと常々言っている」
「僕は自分の欲望を他人に晒せる人間は好きだよ」
「それなら、中将の欲望を教えてもらえますか?」
ロイド中将が一瞬固まった後、破顔した。
「ロイドでいいよ。僕もアランって呼ぶからさ。アランは僕の欲望を聞いてくれるのか……僕を前にして、それを口にしたのは君が初めてだよぉ。僕の欲望はね、楽しく生きたいんだよ」
「楽しく生きたい? 楽しく生きるのに軍に所属する意味が分からない」
「ファングが侵略してきてるだろ? ただの金持ちじゃ身を守る兵士がいないんだよ。それに兵力があればやりたい放題だ」
「やりたい放題か……一つ聞いてもいいか?」
「いいよ、アラン。なんでも聞いてよ」
アランは少し考えた後、最後の質問を口に出す。
「ロイドは今楽しいか?」
「もちろんだよ! 愉快な人生を堪能しているよ」
心の底から楽し気なロイド中将。
「全て理解した」
アランは全て理解した。
ロイド中将が愉快な人生を、今も送り続けているという事の意味を……
「それは嬉しいね。まぁ、あの不愉快なカーライルが生き残っていた事は想定外だった。アイツの排除に協力してくれるよね?」
「作戦はあるのか?」
「今のところないね」
「それなら自己判断で対応する」
「自主性があるのは素晴らしい! 部下達にも見習って欲しいものだ。任せたよアラン!」
「承った」
ロイド中将との話を終えたアランは指令室を後にした。
*
翌日、アランは戦艦フリージアの格納庫でカリバーンの整備を行っているウォルフ技師長に声をかけた。
「どうした坊主?」
「ウォルフ、イーサン達は基地を攻撃してくると思うか?」
「可能性はある。だが、攻めてこない可能性の方が高い。ロサンゼルス基地には『カレイドスコープ』があるからな」
「カレイドスコープ?」
アランは聞きなれない単語を聞いた。
(カレイドスコープ? ウォルフ技師長が言うのだから兵器なのだろうけど、初めて名前を聞いた)
だが、ウォルフ技師長はアランが知らない事に驚いている。
彼はアランは兵器なら全て知っていると思い込んでいたのだろう。
「兵器マニアの坊主が知らなかったのか! 基地を覆うビームバリアーだよ。見た目が万華鏡みたいだから、カレイドスコープって呼ばれている。戦艦の主砲にも耐えるからな。イーサンの戦力で攻撃してくる意味はないな」
「もし、攻撃されるとしたら、どこから攻撃されると思う? 特にスナイパーが陣取りそうな場所を知りたい」
「スナイパー? どうしてスナイパーを気にするのか分からないが、基地北西か北部の山岳地帯だろうな」
ウォルフ技師長は一瞬怪訝な顔をしたが、アランの質問に答えてくれた。
(あからさまだったか。でも、事前情報は必要だ)
「ウォルフ、シンセシス-1をG.D.ジェネレイターなしで稼働する事は可能か?」
「坊主、何を考えている? アルダーンのビームライフル用のバッテリーパックを改良すれば可能だが……」
「頼む」
アランには事情を話す事は出来ない。
だから、ただ『頼む』とだけ伝えたのだ。
「理由は教えてくれんのかね?」
「それは出来ない。アンタを巻き込みたくないんだ」
「坊主に心配されるほど落ちぶれちゃいないさ。で、後はなにが必要なんだ?」
ウォルフ技師長が諦めた顔をする。
だが、理由を聞くのは諦めても、アランの行動に首を突っ込む事は諦めないようだ。
だから、必要な事を伝える。
「敵に気付かれずスナイパーを無力化する必要がある」
「スラスター無しで山岳地帯を上るつもりか。それならワイヤーアンカーが必要だな」
「ワイヤーアンカー?」
「チャリムはスラスターでの移動がメインだからジャンプ力がない。だから、高低差がある場所はワイヤーで引き上げる必要があるんだ」
「分かった。実戦でミスらないようシミュレートしておく」
「坊主が何をするつもりか分からんが、準備は任せておけ」
「任せる」
ウォルフ技師長に会いに来た目的を果たしたので、アランは自室に戻った。




