イーサン・アークライト
(俺は一体何をしているのだろう?)
イーサン・アークライトはゴリラに囲まれながら自問自答していた。
B.o.Dの私設軍隊ファングのイメージカラーはブラックだ。
だからといって、同じ黒色のゴリラと一緒に写真を撮る必要があるのだろうか?
デモインの動物園の園長の提案があったとはいえ、副官で幼馴染のアマンダの個人的な思いで実行されたのは明白である。
この様な事態に陥ったのは、数日前にアマンダから持ち掛けられた相談が原因だったーー
*
イーサンは占領した州議事堂に設置した臨時作戦本部で、副官のアマンダから占領地の統治状況について報告を受けるはずだった。
「動物園がなんだって? 何で俺がそんな話を聞かなければならんのだ?」
イーサンは目の前のアマンダに不満をぶつけた。
イーサンがアマンダに報告する様に指示したのは、抵抗勢力の状況・物資の接収・市民のファングに対しての意識調査である。
だが、アマンダが報告してきたのは動物園からの嘆願書についてだった。
アマンダが指示と違う報告をした事で、先の戦闘での敗北で苛立っていたイーサンを更に苛立たせた。
だが、アマンダは苛立ちを隠そうともしないイーサンを気に掛ける素振りを見せない。
「指揮官だからでしょ? 占領地の統治はイーサンの仕事です」
「全てアマンダに任せる」
「それでは動物園の支援の承認をしてください」
「だ〜か〜らぁ、何で俺に聞くんだよ! アマンダに任せただろ? それに何で動物園なんだよ? 他に重要な報告はないのか?」
「私に任せたから動物園です」
「あーっ、めんどくせぇ。俺は前の戦闘で一人だけボコボコにされたんだぞ。新しい機体とか増援の手配で忙しいんだよ」
「機体がないから暇でしょ。事務処理もしてください」
はぁっ。
イーサンは深いため息をついた後、諦めてアマンダの話を聞く事にした。
「それで動物園に拘る理由はなんだよ?」
「先の戦闘で発電関係の設備が半壊した為、電力供給が大幅に低下しています。それで動物園の電力を停止して、企業に優先的に電力を回すように電力会社に圧力がかかっています。そのような状況を知った動物園の職員や市民から、動物園の電力を停止しないように嘆願書が上がってきています」
「そんなの放っておけよ。別に人が死ぬ訳じゃないんだろ?」
「それは出来ません。温暖な気候でしか生きられなかったり、暑さに弱い動物がいます。命に関わる事です」
「それなら電力止めるなよ。それで解決だ。じゃあな!」
「イーサン! 動物園の電力を止めなければ経済に影響が出ます。戦争を起こした我々への不満が噴出しますよ」
アマンダが怒鳴った。
(動物園を救えと言ったから決断したのに、今度は経済だって……何して欲しいんだよ!)
イーサンはアマンダの態度は理不尽だと思った。
「戦争なんだ。そんくらい受け入れろ!」
「それが出来ないからイーサンに聞いているのです。私個人としては動物園を見捨てたくはないです。でも、個人的な意見で行動する事は出来ないのです。第一艦隊の指揮官として、ご決断ください!」
「ちぃ。俺はそういうの嫌いなんだよ! 下らない二択を俺にせまるな! アマンダ機体を借りるぞ。俺の機体は動かないからな」
「待ちなさい! イーサン!」
イーサンは呼び止めるアマンダを無視して、戦艦ルナリアの格納庫に向かった。
格納庫に着き、アマンダのリベレーンVEに乗り込み出撃準備を始めると同時に、部下のジェイクとバリーの二人にも出撃の準備をさせた。
「良かったのですかイーサンの旦那。お嬢激怒してますぜ」
通信してきたジェイクが足元を指差した。
モニターを確認すると、リベレーンVEの足元でアマンダが叫んでいる様子が映っている。
「構わん。俺が指揮官だ」
「またまた、そんな事言っちゃって。ちゃんと説明しないんですかい?」
「面倒だ。なんで俺がいちいち言い聞かせてやらねばならんのだ?」
「しかたがないですねぇ。で、今回のお目当ては?」
「治安維持部隊のチャリムを全て狩れ。出来るだけG.D.ジェネレイターを傷つけるな」
「難しい事をおっしゃる。旧式のオンボロとはいえ、無傷で機能停止させるのは面倒ですぜ」
「だから面白いんだろ? ゲームの始まりだ!」
「「おぅ!」」
アイオワ州西部には、先の戦闘に参加していない治安維持部隊のチャリムが残存している。
治安維持部隊のティガー・ロウには、工業用に使用されるSI2グレードのG.D.ジェネレイターが搭載されている。
無傷で回収すれば、動物園の電力くらい軽くまかなえる。
(出来れば戦闘せずに接収したいが、抵抗するだろうな)
イーサンはG.D.ジェネレイターを手に入れる為、ジェイクとバリーの二人を引き連れて出撃したーー
*
アマンダは満足そうにゴリラと一緒に映るイーサンの写真を眺めていた。
イーサンが持ち帰った工業用のG.D.ジェネレイターのお陰で動物園は救われた。
動物達を救った優しいイーサンは、地球の人類にも受け入れられるだろう。
(ゴリラに囲まれて少し怯えていたのが可愛かったわね)
撮影中の様子を思い出して笑みがこぼれた。
「ファングの皆様からG.D.ジェネレイターを譲って頂いたお陰で、当園は継続することが出来そうです。動物達もきっと喜んでおりますよ」
「副官の要望だ。俺には関係ない」
イーサンがぶっきらぼうに言った。
いつも通りの照れ隠し。
でも、イーサンの事を知らない人から見たら、態度が悪いようにしか見えない。
誤解されぬようにフォローするのが副官の務めである。
「済みません園長。ただの照れ隠しですから。それでは失礼致します」
アマンダは立ち去るイーサンの後を追った。
「そんなに動物が助かって嬉しいのか?」
「そうね。でもね、もっと嬉しい事があるの」
「なんだよ、ソレ。思わせぶりな事を言っておいて、どうせ言わないんだろ?」
イーサンが言ったように、アマンダは嬉しい事について言わない。
誤解されやすいイーサンの、本当の人柄を知っているのが嬉しいと言う事を……




