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鍛冶屋ルーリンツ


そうした暮らしにも慣れたある日、バラージュは夜の酒場で、一人の若者から声をかけられる。カカシュ・ルーリンツと名乗る彼は鍛冶屋の見習いで、何とバラージュに一目惚れしたのだと言う。

「アスタロシュ工房で働いてるの? いつか僕の作った道具を使ってよ。腕の良い鍛冶屋になってみせるから」

ルーリンツはバラージュに好かれようと、そう宣言した。


以来、ルーリンツはまるで子犬のように、バラージュに言い寄ってくるようになる。まだ若く、力もあり、友人になる分には大変魅力的な青年だ。

次第に仕事の腕も磨かれ、領主から直々に依頼を受けるまでになり、その度にバラージュの元へ報告に訪れた。

が、バラージュはそんな彼を可愛がりながらも、なかなか受け入れられなかった。

「誰かと恋に落ちても、いずれまた別れる事になってしまう」

そう考えてしまうのだ。


そこでバラージュはルーリンツに、自身の正体を明かす。

「私は不老不死の吸血鬼だ。君とは生きる世界が違う」

怖れをなして離れていくだろうと踏んでの決断だった。

「君を愛せば、私は君の血を飲む事でしか生きられなくなってしまうんだ」

正体を町の人々に暴露されて迫害を受ける事も、町を離れる事も、覚悟した。ヴァルテル城に居た時とは比べ物にならないほど楽しい生活を手放すのは惜しいが、愛する彼を傷付けるよりずっといい。

だがルーリンツの答えは、

「それでも構わない」

というものだった。そして事もあろうに、自分を吸血鬼にしてほしいとまで言い出してしまう。


年若く恋の痛みを知らない彼を、自分の二の舞にはしたくない。

困り果てたバラージュはヴァルテルに手紙を書き、相談する。恋の炎は消えても、一番の理解者には違いなかった。


数日後に返事が届き、バラージュは正式な客人として、隣国のヴァルテル城へと招待される。

十数年ぶりに会ったヴァルテルは今やすっかり独身を謳歌し、複数の若い男性を城に侍らせるようにまでなっていた。曰く、今の彼は一人の相手に愛情を注ぎ続けるのではなくこの場にいる全員を平等に愛している。飽きる事もなく、美味い血も吸い放題なのだと言う。

そのあまりの変わりように呆れ、少々軽蔑するバラージュだったが、

「人生をやり直すのに遅すぎる事なんてない」

まるで猫を可愛がるように、美しい少年を膝に乗せたヴァルテルはそう諭す。

「妻子を捨てて、私の所に来ただろう。それすらも間違っていたと言うのか?」


親友ヴァルテルに背中を押されたバラージュはルーリンツと向き合い、受け入れる事を決める。

吸血鬼にはさせない。だが、彼と共に生きる事にしたのだ。文字通り、死がふたりを分かつまで。


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