第一話:青髪の少年
夜明けが近い。水平線の背後から明るさが増してきている気がする。星明かり一つ見えない空だが、辺りは手元が見えるくらいに明るい。この国の砂がかすかに発光する成分を含んでいるせいだ。そのおかげでこの国では真夜中でもまっ暗闇ということはない。少なくとも、一緒にいる相手の顔の造作が分かるくらいには明るい。
朝になったら、ことを始めよう。彼を海に送る儀式を始めるのだ。彼の手は、頬は、冷たい。しかし膝に乗せている彼の頭はずっしりとした重みを持っている。彼が二度と起き上がることがないなんて信じがたい。でも朝になったら、ことを始めよう。彼を海に帰すのだ。二度と苦しめことがないよう、運命に翻弄されぬよう。
そして私はもとの世界に帰ろう。彼に別れを告げ、そして私のいつもの日常が、再び始まる。それだけのことだ。
すべては、先輩から小さな鏡から始まった。一つ上の、私の志望高校に去年合格された先輩。先輩からお守りにと渡された鏡の中に、私は吸い込まれてしまった。
「えーっ」体がふわりと重みをなくした。そして次の瞬間には落下。「どさっ」幸運にも落ちたのは積み上がった乾草の上だった。家畜の飼料用だろうか。気にしてみれば、辺りからはそれらしきかぐわしくない匂いもする。
「誰だ。」頭の上の方から声がする。こんな草の上に誰か人が!?干し草を払いのけ、体を起こすと13,14歳、私より少し年下だろうか、男の子がねそっべっていた上半身を起こしたところだった。とても色の白い、柔和な印象の少年。ただ、普通と違うのは、彼の髪の色が、青味がかった白髪だったことだ。柔らかそうな青色の髪。太陽をいっぱいに浴びた乾草の中、風に揺れる。私は一瞬見とれた。