しゃっくりから進展する関係
この物語は私の第二作目となります。
数ある作品からこの物語を開いていただき感謝します。
今回は「しゃっくり」をテーマに笑えるようにと思い書いていたものです。
おそらく大丈夫だと思いもしたのですが、一応念には念を入れてR15指定とさせていただきました。
もし、読めなくなってしまった方には大変申し訳ないです。
本当にすみません。
最後まで読んでくださると嬉しく思いますので、よろしくお願いします。
──幸せってなんだと思う?
私は、幸せとは不幸なのだと思う。
ううん、これだと語弊があるか。
究極的には同じであるという私の持論であって、国語的には正反対の意味なのだから言い方を変えてみようかな。
幸せとは、不幸になるための材料なのだろう。
人は幸せを夢見て、幸せを追い求め、そして幸せになるからこそ、人は不幸になってしまう。
不幸としたくもない直面をしてしまう。
──例えば。
例えば私に好きな人がいたとして、私が付き合いたいと強く思っていたとする。
想い人とデートをして、同じ時間を共有して、同じ情景を互いの思い出にできた時──そんな時に私は、幸せと思えるんだろう。
でもね。
だけど、現実はそれだけじゃない。
そんな幸せだけを得られることができないのが悲しいところだと思う。
実際には想い人のことで苦悩し、葛藤し、何かしらに怒りや悲しみといったものまで感じさせられるのだから堪ったものではない。
幸せを得ようと思えば不幸になることにもなり、結果的に幸せというものを得られたとしても、今度はそれを失う恐怖に怯えなければならないと思う私は、きっとひねくれているのだろう。
不幸に遭遇した時には幸せなんて得られないというのに……。
だからこそ私は思う。
幸せとは──同時に不幸であるのだと。
そして、全然納得できないけどその逆は存在しないのだと。
さて、私──一ノ瀬沙希は、結論に至ったところで一息吐いてみる。
なぜこんなにも病んだことを考えていたのか、それを説明するのは簡単なこと。
昨日の放課後、暇潰しを兼ねたショッピングモール散策中に、仲睦まじく歩く友達と三年間想い続けている好きな人を目撃した、ということが原因だったりする。
おかげで部活に集中できなくて怪我しちゃったじゃんか。
はい、これは責任転嫁だね。
もちろん悪いのは私でございます。
ごめんなさい。
……それにしても部長、優しかったなぁ。
私の不注意なのに保健室まで付き合ってくれて、その上怪我の手当までしてくれたし。
私が男だったら絶対好きになってたと思う。うん、絶対になってたよ。
──っと、話が逸れてるね。
とにかく私が言いたいのは、暇だということ。
それも猛烈に。
だから昨日のことを思い出して、少し拗ねてみたりひねくれてみたりしてるわけなんだけど……うーん、気になるなぁ。
あの二人はどういう関係なんだろ。
あー、やだやだ。
この際誰でもいいから私の暇を潰してくれないかなー。
保健の先生でもいいんだけど出張だって言ってたし……、私的には問題の二人が来てくれると嬉しかったりするんだけど。
……やっぱり気になるし。
クルクルと丸椅子で回ってみるも、大して暇潰しにならない。
「あーあ、本当に暇だなぁー」
それでも、することがない私は回って、回って、回り続けながら一人ごちる。
すると、不意にスマホが震えた。
メールにしては振動が長いような……。
電話かな?
ポケットからスマホ取り出して画面を確認してみた。
『坂上雄介』
思わず目を見開く。
願ったり叶ったりとはまさにこのことだ。
でも、なんでこの時間にかけてこられるのだろう。
雄介も部活はしているし、私も部活をしている時間帯。
普段ならかけてくることも、そして私が出ることができないとわかっているはずだけど……。
何にしても、これは昨日のことを聞くチャンスだ。
この悶々とした気持ちからおさらばできる。
……はずなんだけど。
もし二人が付き合ってたりしたら?
昨日のアレはデートだったとしたら?
私はそんな結果が堪らなく怖い。
どうしようもないほどに嫌だ。
だって、もし事実を知ってしまったら──もう知らなかった頃には戻れないから。
きっと自分の望む答えでなかったら、きっと後悔するだろう。
そんなことはわかっているけど、どうしたって気になる気持ちはなくならない。
たとえそうでなくても、雄介が友達に片想い中だったとしたら?
考えすぎなのかもしれないけど、一度でもそういうことが頭を過ると嫌な想像が止まらない。
考えることを、やめてくれない。
あーっ、もう!
このままモヤモヤした気分が続くのは嫌だ。
この知りたいけど知りたくない気持ちをどうやって落ち着けよう。
そんな煮え切らない気持ちのままスマホを握り締めて見つめていると、唐突に画面から名前が消える。
「あ、切れた……」
──って、それも当たり前だよね。
いつまでも出なければ、そりゃ切れるよ。
なんとなく肩の荷が降りたような気がして、ホッと一息。
そしてヘタレた私に苦笑を浮かべてしまった。
何を安心してるんだ、私は。
あー、情けない情けない。
情けないにもほどがあるよ。
だから三年間も告白できずにいるんだ。
「……電話かけ直してこないな。大した用事じゃなかったのかな?」
だったら電話なんてかけてこないでよ──なんて思ったりしない。
好きな人からの電話なのだから大歓迎だから。
そう、嬉しいんだよ。
……昨日のアレさえ見なければね。
話したいと思うのに話したくない自分がいるとか……自分のことながら面倒なもんだよ。
もう物語のヘタレ主人公にイライラですることはできないね。
私の意気地無し、と大きくため息をついた。
──その時。
ガラガラッと勢いよくスライドする保健室のドア。
思わず声にならない悲鳴を漏らして、クルクル回るのを止める。
「沙希ぃぃぃいいい! 助け――ヒッ、助けてぇぇぇっ!」
来ちゃったよ、本人が。
しかも半泣き状態で。
一体どういう経緯があれば年頃の男の子が半泣き状態で幼馴染のところに来るんだって話だよね。
……やっぱり電話に出るべきだったかな?
「どうしたの、突然……。いや、それよりもノックくらいした方がいいよ?」
怪我とかで服を捲ってる女の子がいたら大変だしね。
「それどころじゃ──ヒック、ないんだよっ! 助けッ……助けて! ……うぅ」
え、なに!?
本当にどうしちゃったの!?
どうすればいいの、これ。
「えぇっと、状況がわからないんじゃどうしようもうないんだけど……」
「沙希ぃぃぃック、俺はもうダメかもしんない……っ!」
「ごめん、それじゃ全然わからないから。とにかく色々と落ち着いて。それからゆっくりと事情を聞かせてよ」
どうやら深刻な問題に直面しているらしい。
なんだか必死すぎて、ちょっとキモ――いや、ちょっと見てられない。
……まあ、雄介は元々涙脆い方ではあったけれど。
それでも、ここまで取り乱している姿を見るのは初めてかもしれないだけに気になるかな。
「ック、しゃっくりが……ヒック、止まらない……」
「………………はい?」
「ヒッ、しゃっくりが止まらないんだよ……。うぅっ……」
え、しゃっくり? それだけ? そんなことで泣いてるの?
「ずっと止まらな──ヒッ、止まらないんだよぉ……」
「それ、泣くほどのことでもないでしょ」
「だって……ヒック、しゃっくりって百回したら死んじゃうんだろぉ? ……ック」
「…………ふふっ」
待って待って、ちょっと待って。
今、何て言ったの?
しゃっくりを百回したら死んじゃうだっけ?
「くふっ、ふふっ……あははははは」
一応まじめに困っている雄介の手前、失礼だと思って我慢はしてみたけど……やっぱり無理だった。
いや、ホント無理無理。
笑わない方がどうかしてるって。
雄介は潤んだ瞳でこちらを見て、「え? なんで笑って……」とか言いながら不安そうにしている。
うーん、どうしようかな。
このまま間違いを指摘しない方が面白いことになるかもしれない。
なんだか、ちょっと可愛いし。
「ごめんね? 前に部活の後輩が同じ状態になっちゃった時のことを思い出して……」
もちろん嘘だけど。
今時しゃっくりを百回したら死ぬなんてことを信じている人……いないでしょ。
まさか私をからかってるんじゃないよね?
これ、本気なんだよね?
「笑い事じゃないって、ヒッ。十六才で、しかもしゃっくりで死ぬッ……死ぬなんて冗談にもならないよ。死んでも死にきれないッ!」
どうやら本気みたいだ。
真っ直ぐ向けられる目が物語ってるよ。
「そうだね、ごめんごめん。それじゃあ、しゃっくりを止める方法を考えてみよっか」
「お願いします、助けて──ヒック、助けてください。友達も先輩も後輩もック、みんな笑うだけで心配をしてくれないんだよ。何を聞いても、ヒッ、沙希に泣きついてこいって言うだけだし……」
「あー、それはなんとも……」
私と雄介は一緒にいることが多いし、付き合ってると誤解されてるのかな?
それとも私の気持ちがバレてる?
なんにしても、こんな面白そうな機会を与えてくれたことには感謝しなきゃだね。
最初は耳を疑っただろうに……。
「とにかくッ! ふぅ、とにかくどうにかして……」
「と言われてもねー。とりあえず、今何回くらいしてるの?」
「ヒッ、今ので五十三回……」
聞くと、雄介は項垂れるようにしながらポツリと呟くように答える。
ダメ元で聞いてみたんだけど、しっかり数えてたんだ……。
百回目のしゃっくりをした時ってどんな反応をするんだろ。
気にはなるけど……それはちょっと可哀想だね。下手すれば嫌われるかもしれないし。
「それじゃ、あと四十七回しちゃう前にやれるだけやってみよっか」
「ありがとう沙希ック……、沙希」
沙希ックって……。
ヤバい、絶対に笑っちゃダメ。
本人はまじめにお礼を言おうとしてたんだから。
私の心境など知るよしもない雄介は、目にぶわっと涙を溢れさせてすがるように見つめてくる。
うーん、あと四十六回か……。
「とりあえずさ、思いっきり息を吸ってしばらく止めてみてよ。たしかそんな方法があったような気がする」
おおっ、と驚き混じりの声を漏らして興味深そうな視線を送ってくる。
そして何度か深呼吸を繰り返した後、一際大きく息を吸って……止めた。
「…………」
「…………」
暫しの沈黙。
どことなく気まずい雰囲気が漂う中――
「………………ヒッ」
失敗を知らせる音が保健室に響いた。
「ふふっ」
「ちょ! 笑い事じゃないってば!」
「ふっ、ごめッんごめん」
「もぉー! 次の方法はなに!?」
またご機嫌を損ねてしまったみたい。
でもさ、前提で色々とおかしいから何をさせても面白いんだよね。
しゃっくりを百回したって死なないよ。
そこからすでに間違えてる。
「はいはい、わかったわかった。んーと、じゃあ次は飲み物を一気飲みするとか?」
「ヒック……なんか適当になってない? まあ、やってみる──ック、けど」
「あはっ、ミルクが飲みたいの? 悪いけど牛乳はないんだよねー」
「──っ! 違うから! えーっと、このレモンティ貰うから」
「あ、ちょっと! それ私が飲んでる途中なん──」
私が言い終えるよりも前に、雄介は口をつけて飲み始めてしまった。
あーあ、飲んじゃったよ。
まあ、今時間接キスなんて気にするものでもないのかな?
よほど生理的に受けつけない人でもないかぎりは……。
雄介が口をつけたものなら……うん、特に問題ないね。
むしろ役得なのかな?
「ぷはぁ、ふぅ。レモンティってこんなにうまかったっけ?」
「ずっと飲んでなかったから特別そう感じるだけなんじゃない? ……それで、どうなの?」
「ん? めちゃくちゃうまかったけど?」
いやいや、味の良し悪しは聞いてないんだけど。
というか、さっき自分で感想言ってたじゃん。
そんな良い笑顔での天然発言は反応に困るからやめてほしいな。
「ま、気にしてないんならそれでいいんだけど。……思ったより簡単に直っちゃったか、残念」
「へ? なにがッッック!? …………そういうことか」
小首を傾げて私に聞こうとしたが、しゃっくりによって納得してくれた雄介。
落ち込み具合がすごいけど、私は私でまだ楽しめそうな展開に少しウキウキしていたり。
ごめんね雄介、かっこ笑い。
「というかさ、しゃっくりを止める方法なんてあと一つしか残ってないんだけど……」
「そ、そんな……。じゃあ、その最後の一つで治らなかったらック、俺……死ぬ?」
私の言葉を聞いた雄介は、まさにこの世の終わりという表情を浮かべて立ち竦む。
雄介にとっては死刑宣告にでも変換されているみたいだね。
確かにしゃっくりをし続けるのは違った病気の可能性があるって話だったけど、しゃっくりをするだけで死ぬなんてことはないはず。
少なくとも私はそんな話聞いたことない。
私の反応がないことに一抹の不安を感じたのか、雄介は私にすがりつきながら情けない声で言葉を発した。
「なあ、最後の方法ってなんなの? それで確実にしゃっくりが治まるの?」
「ちょっ! この変態! 女の子の下半身にしがみつかないで。こんなところ他の人に見られたらどうすんのっ!」
「もう形振り構──ヒック、構ってらんないんだよ! 情けない姿を見られるよりも死ぬことの方が嫌なんだ!」
雄介の顔を両手で押しながら抵抗を試みるも、スカートを鷲掴みにされているために顔が少ししか離れない。
というか、このままじゃスカートのホックが壊れて脱げちゃうって。
「とにかくその手を離しなさい! そしたら最後の方法を教えてあげるからッ!」
「ヒック……そ、その方法で治るんだな?」
「治るからとりあえず手を離して。そしてさっきの立ち位置に戻りなさい」
「絶対に……ヒッ、絶対に治るんだな?」
「しつこいッ! 絶対に治るから!」
念を押してくる雄介に、私はやけくそ気味に答える。
すると、その言葉を信じる気になったのかようやく離れてくれた。
さて、ここからどうするか。
私が知っていると言った最後の方法は驚かせることなんだけど、これを本人に言っちゃうと驚かせることが不可能になるんだよね。
驚かされるの待ってますってスタンスの人を驚かせるのは……どう考えても無理だし。
けど、教えるって言っちゃった以上は言わないと納得しないだろうしなー。
「……なあッッッ! ふぅ、早くその方法を教えてほしいんだけど……」
どうするか悩む私に雄介は痺れを切らしたようで、じとっとした目で催促してくる。
潤んだ瞳と合わさると変な感じ。
「うーん、方法を教えると上手くいく確率がねー……」
「だったら早く実行してよ」
「それが結構難しいんだって。そういうの得意じゃないからさー」
「ヒック、今ので六十四回目なんだッし、また増えた……」
あ、まだしっかりと数えてたんだ……。
そういうところを普段の抜けてる部分に補えたらいいのに。
「わかってるって。でも、あと少し考えさせて?」
「わかッッ──、わかった。頼みの綱は沙希だけだし……」
言ってから、雄介は両手で口を塞ぐ。
気休め程度にそうしたんだろうけど、あんまり意味ないと思うなー。
口を塞いでも出るものは出るでしょ。
って、いやいや、そうじゃないでしょ私。
考えるべきはそこじゃない。
でもなー。
いまいち思い浮かばないんだよね。
そもそも私って、これまでに誰かを驚かせたことあったかな?
「んー、記憶にないなー」
「──ック! え、何が?」
やばっ、声に出ちゃったか。
「ううん、こっちの話」
言うと、そっかと短く返して再び私から驚かされるのを待つ。
なんだか飼い主に忠実なワンちゃんみたい。
あ、犬って言わないところがポイントだからね!
なんて、いくら逃避しようが現実は変わってくれない。
というか、なんでこんなことに私が悩まないといけないの?
もうしゃっくりでは死なないことをぶっちゃけちゃおうかな。
最初でこそ楽しかったけど、今はめんどくささの方が勝ってるし。
「あのさ、もう七十回目を向かえちゃったんだけど……ヒック」
「あー、うん。もうすぐ考えがまとまりそうだから待ってて」
泣きそうな声色の雄介を片手で制して、私はまた思考に耽る。
そもそも私って雄介の恋愛事情で悩んでなかったっけ?
なんだか今回のしゃっくり事件でその辺もどうでもよくなっちゃった感がある。
もういっそ、告白して色々とはっきりさせちゃおうか。
──そうだよ、告白すればいいんだ。
こんな行き当たりばったりな告白は少し引っ掛かる部分もあるけど、でもこのまま片想いし続けるのはもっと嫌だ。
失敗するのは怖いけど、それでも無理なら無理だったで新しい恋愛をしなきゃだし、この先何年想っていたって時間の無駄だよね。
それに、いきなり告白なんてされたら誰だって驚くはず。
それでしゃっくりが止まれば全ての問題が片付くかも。
なんだか私、変なテンションになってるかも……。
それもこれも雄介が悪いんだよ。
何年も好きだっていうのに気付いてさえくれない。
クリスマスイヴも初詣も、イベントごとは大体誘ってるんだから気づいてくれたって良いじゃんか!
よーし、気持ちを伝えてやる。それも劇的に、衝撃的な告白をしてやるんだから。
そして──長年の片想いに決着をつけるんだ。
「……雄介、ちょっとこっちに近づいてほしいんだけど」
「ん? なん──ッ、なんだよ」
言いながらちょいちょいと手招きする私に、雄介は素直に応じて近づいてくる。
もう後には引けない。
いや、引く気はない。
私と雄介の間におかれた距離が縮まるけど……、まだ遠い。
だけど、これ以上は雄介から近づかないだろうと判断した私は、意を決して自分から一歩踏み出す。
そして、何かを言いかけた雄介の胸ぐらを両手で掴んで──
「──ッん!?」
勢いよく唇を重ねた。
そして、一秒か二秒ほど重ねたところでそっと離す。
雄介の顔は何が起きたのかわかっていない様子がありありと表れている。
その様子を言葉で表すなら、驚愕と困惑だと思う。
だけど私は、そんな雄介に構うことなく想いを告げた。
「ずっとずっと雄介のことが好きでした。私と付き合ってください!」
羞恥や不安、そして意地なんかを押し込めて伝えた人生初の告白。
なし崩し的に納得して。
ただの勢い任せで。
行き当たりばったり。
そんな告白は私の想像していたものとは違っている。
私自身の理想とは大きく違っていた。
けど、込めた思いは本物だ。
叶わないかもしれないけど、付き合いたいという思いに嘘はない。
「いや……、えっ?」
ついにはその動揺を言葉に出す雄介。
私にあるのは振られてしまうという不安だけ。
ただそれだけが私の心を渦巻いて、ほんの一瞬すらも長く感じられた。
──逃げ出したい。
そんな衝動に駆られるも、そこはなけなしの意地でなんとか踏み止まれている。
でも、やっぱり不安が強く、それが恐怖となって私を容赦なく責めてくるようでとても辛い。
私の今までの人生で、一秒一秒がこんなにも長く感じたのは初めてのこと。
だからこそ余計にどうすればこの恐怖に耐えられるのかわからない。
そして、時間にすればほんの数秒くらいだと思う。私にとって長い葛藤の時間に終止符が打たれた。
「……あ、しゃっくりが止まった……」
「はあ!?」
「ご、ごめんなさい! でも止まったのが嬉しくて……」
ようやく返ってきた言葉がなんとも間の抜けたものだったために、思わず怒りの籠った言葉が漏れてしまった。
天然で私の告白が頭から抜け落ちてるかもしれないけど、はっきりとした答えが聞けない限りは諦めることすらできない。
「……それで? 返事は?」
「えっ、あ……は、はい」
いや、その返事じゃなくてね……。
「私が聞きたいのは告白の返事なんだけど」
「さっきのはその、告白の返事……なんです、けど……」
「なんで敬語?」
って、そうじゃないだろ私。
そんなことを言う前に聞くべきことがあるよね。
なんでだろ、と照れくさそうに頭を掻く雄介に、私は今日悩んでいたことの真実を確かめるべく口を開くとすると──
「ホントはさ、俺から言おうと思ってたんだよ」
はいっ!?
それじゃあ、あのまま待っていればいつか告白してくれたってこと?
なんかすごく損した気分なんだけど……。
「沙希が俺のことを好きかもしれないよって昨日教えてくれた人がいてさ、つっても可能性が高いってだけで確証はなかったらしいんだけど……」
わざわざ私から聞かなくても、ちゃんと昨日のことについて話してくれるんだね。
それは有り難いんだけど……なんで私の気持ちを知ってるんだろ?
そんなに分かりやすかったかな?
でも雄介は気づいてなかったみたいだし……ただ単にあの子が鋭いだけかな。
気づいていたなら、私に一言でもいいから待ってるようにアドバイスしてほしかったよ。
おかげで私から告白しちゃったじゃんか。
その後は、今控えている大会が終わったら告白するつもりだったこと、友人や部活仲間からは何かと私の元へむかわせようとしていたことなどを教えてくれた。
だから今回のしゃっくりでも私のところに誘導したのかと納得。
……雄介には他に頼る人がいなかったのかもしれないけど。
「それよりどうやってしゃっくりを止めたんだよ。今後のために教えてくれ!」
色々と言ったためにすっきりしたのか、思い出したようにそう聞いてくる雄介。
恋愛で悩んでて大変だったのは私にもわかるけど……私と付き合ったことが『そんなこと』扱いなんだ……。
へぇー。
「知るかっ!」
「なあ、意地悪しないで教えてくれよー。キスしたときに何かしたんだろー?」
「しつこい!」
「なあー。たーのーむーよー」
いろいろあったけど、結果的に付き合えたのだから良かったかな?
私の手を少し引っ張りながら子供のように聞いてくる雄介の姿に、私は少し笑いながら告白をさせられた腹いせとばかりに思う。
「次、しゃっくりが止まらなくても私は助けないからね」
しゃっくりで死なないことは当分黙っててやろう、と──。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回、この「しゃっくり」をテーマにした理由は、数年前に読んだ作品を朧げに思い出して、自分でも書いてみようを思ってのことでした。
けれど、どこで読んだのか、どんな内容だったのか、登場人物はどんなキャラでどんなやりとりだったのかを全く覚えていないんですよね。我ながら不覚です。
覚えていることといえば、しゃっくりがテーマの面白い作品だったなーといったものなんです。
また、読みたいものです……本当に。
心当たりのある方がいましたらお教えくださいますと、私はその場で踊り出すほどに喜びますので、よろしくお願いしたいところです(笑)
さてさて冗談はさておき、この事をあんまり掘り下げると長くなってしまいそうなので、名残惜しいですがこの辺りで後書きの方を終えさせていただきます。
本当にありがとうございました。