ある茶会での、代理戦争。
リリアーナ・ガレット伯爵令嬢は、将来シュメール領主の嫡男オリバーの元に嫁ぐことが決まっている。政略結婚というものだが、リリアーナは貴族としての義務を深く理解していたし、オリバーとの相性が悪くなかったのもあり受け入れていた。
領主夫人としての教育も既に始まっている。
その一つに社交があげられる。
領主夫人として、領地内の令嬢たちの中心に立ち、時に諍いをおさめ利害を調整し自分の力としていくことが大切な役割だ。
だが、これがなかなか大変なのである。
リリアーナにとって目の上のたんこぶがジョージア伯爵家の令嬢・ドルシラだ。
ジョージア伯爵家は現領主の妹君が嫁いだ家でドルシラとオリバーは従兄妹の関係にある。そして、ドルシラはどうやらオリバーを好きなようで、婚約者のリリアーナを目の敵にしているのだ。
(いい加減、諦めてくれないかしら?)
そもそもオリバーにはその気はなく、どちらかといえばドルシラを苦手としている。そうであるのにまったくめげる様子がない。リリアーナが二人の仲を邪魔していると主張する。頭の中に花でも詰まっているのか、どうしてそこまでおめでたい思考ができるのか、というほど自分の主観だけで生きている。
第一、仮にオリバーとリリアーナの婚約が破談になったとしてもドルシラが後釜につくことはまずない。そんなことをすれば権力がジョージア伯爵家に集中しすぎるからである。リリアーナはそういったもろもろの政治的配慮もあって婚約者になったのだ。何故、理解できないか不思議で仕方ないが、何を言っても無駄なので耐えるよりなかったが。
「真実の愛だわ」
うっとりとつぶやくのはドルシラである。
本日は同世代の令嬢たちとの茶会だ。
今の時期は年明けに領主が開く「新年を寿ぐ会」に出席するため貴族たちはパルぺに集まっている。
リリアーナが貴族学院に進学してからは年明け前に茶会を開き交流を深めるのが恒例になっていた。同世代の、学院に通う令嬢を招待する以上、そこにはドルシラも含まれる。あからさまに呼ばないわけにはいかないのだ。
ドルシラが話しているのは、ランセル伯爵家の令嬢・ダナだ。
ダナはドルシラの取り巻きの一人で婚約が決まったばかりである。
婚約が決まった者は「新年を寿ぐ会」で発表するというのが慣例なので、個人的な茶会でならまだしも、今回のような大規模な席では口にしないというのが一般的なマナーだ。それを話しているということは当然そうするべき理由が存在する。
「本当に、素晴らしいわねぇ。ダナのおかげでイザーク様も救われたのよ」
ドルシラは明らかに周囲に聞かせるように言った。
イザークというのはカールソン伯爵家の嫡男でダナの婚約者だ。
二人は貴族学院で出会い恋をし婚約を結んだが、そこには紆余曲折があった。というのもイザークには婚約予定の令嬢がいたのだ。――つまるところ略奪だ。
しかし、彼女の婚約は美談として広まっている。
それにはイザークの生い立ちが深くかかわっている。
彼の父親、カールソン伯爵は平民と婚姻を結んだ。伯爵以上の家の者は貴族同士で婚姻を結ぶのが慣例だ。貴族と平民には歴然とした差があり血が混ざることをよしとはしないからである。だが、カールソン伯爵は平民を妻と迎えた。愛人とする方法もあっただろうに、正妻として迎え入れた。それを誠実と呼ぶこともできるが、貴族の間では義務を放棄した愚か者として白い目で見られるようになった。
愚かな夫妻――イザークはその二人の間に生まれた子どもだ。故に、彼に非はなくても伯爵夫妻と同様に白い目で見られた。
だが、転機が訪れる。
イザークは聡明で容姿も整っていた。しかも伯爵家の嫡男である。本来であれば子爵家や男爵家の令嬢には高嶺の存在だが、平民の血が混ざっているという瑕疵があるため敷居は下がっている。これはチャンスであると注目されはじめたのだ。
そんな状況でイザークはオールグレーン伯爵家の令嬢・ハンネとの婚約を決めた。それもイザークが婿になるという形だ。周囲から侮蔑の目で見られていたイザークを、遠縁にあたるオールグレーン伯爵家だけは支援をしてくれており、その縁でそのまま二人が婚姻するという運びである。ハンネが十五歳を迎えたら正式に発表する予定だった。
だが、土壇場でその婚約は白紙になりイザークはダナと正式に婚約を結んだ。イザークはカールソン伯爵家を継ぎダナが嫁ぐことになった。
婿入りという状況から実家の爵位を継ぐことになった――ドルシラの「救う」というのはそういうことを意味した。
たしかに、イザークはカールソン伯爵家の長男だ。何事もなければ家督を継ぐのが慣例で、優秀であるなら尚更そうである。だが、婿入りでの婚姻を結ぶところだった。オールグレーン伯爵家が恩を着せて優秀なイザークを囲い込んだのだ。
なんという悪辣な――それをダナが救った。
ダナの母とドルシラの父は兄妹であり、ランセル伯爵家とジョージア伯爵家は強い繋がりがある。そして、ジョージア伯爵家の現当主夫人は領主の実妹。この後ろ盾があればオールグレーン伯爵家も文句は言えないだろう。
生い立ちのせいで冷遇され、支援してくれたオールグレーン伯爵家に逆らえなかったイザーク。そんな彼を愛したダナが両親を説得して彼の悪縁を断ち切り婚約を結んだ。
これがダナたちが最近茶会で広めている話だ。
リリアーナも六日前に親しい友人との茶会でこの話を聞いた。噂好きの者たちにとってよいネタというわけである。
それをまたここでも繰り返した。
同世代の令嬢たちが揃っている中で、確固たるものとしたかったのだろう。
「やはり愛は偉大。ダナの婚約が決まって本当に良かった。愛する人が無理やり婚約を結ばされるなんてこれほど辛いことはないものね」
ドルシラは、チラリとリリアーナを見て笑った。
イザークとオリバーを重ねているのは明白だった。
(どうしてこうも愚かなのかしら)
リリアーナはため息をつきたいのを我慢してドルシラの正面に座るジャスミン・ロス伯爵令嬢に視線を向けた。すると、彼女はすぐに気づいて小さく頷いた。
「まぁ、ドルシラ様、情報は正確に伝えていただかなくてはいけませんわ。救われたのはイザーク様ではなく彼と婚約させられそうだったハンネ様の方ですから。ハンネ様がまだ社交界デビュー前で本人が何も言えないからと、いい加減なことを言われては困ります」
ジャスミンの声は、とても落ち着いていながら無視できない強さを宿していた。
「あら、どういう意味かしら、ジャスミン様」
「そのままの意味ですわ。イザーク様とダナ様の婚約をただ祝うだけならば何も言うつもりはありませんでした。けれど、オールグレーン伯爵家がまるで悪逆のように言われている噂を知り、親戚として心を痛めております。よい機会ですから、ここできちんと正しい事実をお話しさせていただきたく思いますわ」
今度はジャスミンがリリアーナに視線を投げてきた。
実は六日前の茶会でリリアーナにこの話を教えたのがジャスミンだ。彼女はハンネを悪く言うような噂が広まっていることで相談を持ち掛けてきたのである。
シュメール領は比較的平和な領地だが派閥は存在する。オールグレーン伯爵家はロス伯爵家に連なる一族だ。故に、ロス伯爵家の令嬢としてジャスミンが黙っているはずもない。
おそらく、リリアーナの開く茶会でもこの話をするだろうから、打ち消したいので援護射撃をお願いしたいというのがジャスミンの申し出だった。
リリアーナとしてもドルシラが調子づくのは避けたい。申し出を受けた。
リリアーナはうっそりと笑う。
「わたくしも、聞きたいわ。ダナ様の婚約はめでたいことですけれど、その婚約について流れている噂の通りならハンネ様とはどんな傲慢な令嬢なのかしら? と思っていたの。けれど、噂と事実が違うのならば、きちんと正しい内容を知り彼女の名誉を守ってさしあげたいわ」
「そのように言ってくださりありがとう存じます、リリアーナ様。……こう申し上げては何ですが、どうしてイザーク様が被害者で、ハンネ様が加害者のような話になっているのか、わたくしはそれが悔しくてたまりません。彼女に代わり、彼女の名誉を回復させていただきたく存じます」
ジャスミンは、きりっと姿勢を正しドルシラとダナを交互に見た。
その表情からも本気で腹を立てている様子が窺えた。
「皆様も既にご存じだと思いますが、カールソン伯爵は平民の女性を娶ったことで我が一族の誇りを傷つけました。その子であるイザーク様も歓迎はされませんでした。そんな中でオールグレーン伯爵夫妻は親の罪を子が背負うのは哀れとイザーク様の養育を引き受けたのです。その結果、イザーク様は立派な紳士に育ちました。
ですから、イザーク様が夫妻に恩を感じていたのは事実でしょうし、夫妻の一人娘であるハンネ様との婚約についても、彼女と婚姻してオールグレーン伯爵家を支えて恩返ししようという気持ちがあったことも事実でしょう。
だからといって、どうしてイザーク様が無理やり婚約をさせられたというお話になるのかしら?
オールグレーン伯爵家は由緒正しい家柄です。イザーク様を婿にするとは、平民の血が混ざっている者を受け入れるということです。それはつまり、オールグレーン伯爵家の中にも平民の血が混ざることを意味します。そのことで否定される可能性を考えないはずがありません。ハンネ様がイザーク様を望んだからなどという噂も流れているようですが、娘が望んだからというだけでそのような決断をするほど、伯爵は愚かな方ではありませんわ。それは伯爵への侮蔑ですわよ?
ええ、けれども、二人の婚約は予定されておりました。
そこにはイザーク様の後ろ盾となり、カールソン伯爵家の再興のために助力しようとするお気持ちもあったことは想像に難くないはずです。イザーク様が恩返しのための献身をしているというのなら、オールグレーン伯爵家は伯爵家の名誉を損なうかもしれない覚悟をしてイザーク様を受け入れているということも言っていただかないとフェアではありません。
しかし、この話は立ち消えました。イザーク様はダナ様と婚約されました。
予定は未定と申しますし、正式に発表されるまでは覆ることもございます。ご縁がなかった。話はそれで終わるはずでした。
しかし、オールグレーン伯爵家をあしざまにいう噂が流れ始めたのです。
流石にわたくしも黙っていられません。
内々とはいえ決まっていた婚約を覆した。率直に申し上げてイザーク様の浮気、或いはダナ様の略奪ですから、ご自身を正当化したいお気持ちはわかりますが、これではあまりにもハンネ様がお可哀想ではありませんか」
しん、と静まり返った。
貴族らしからぬ率直な物言いすぎてリリアーナさえ惚けてしまった。
だが、だからこそ伝わるものがあった。
「ま、まぁ、それではまるでダナがハンネ様を悪者に仕立て上げたように聞こえるわ。失礼じゃない!」
ドルシラが声を荒げた。
一応、自分の取り巻きを守ろうとする姿勢だけは褒めてあげたいが、声がひっくり返っているので台無しだ。
(本当に、おバカさんたちね)
リリアーナは冷え冷えとした目でドルシラとダナを見た。
ダナは唇を噛んで沈黙している。これ以上話せば墓穴を掘るとわかっているのだろう。
彼女はやりすぎたのだ。
ジャスミンの言う通りに、イザークとの婚約を喜んでいるだけならこんなことにはならなかった。だが、彼女の中にはイザークを奪ったという意識があったのだろう。そのことで噂されるのが嫌だから、自分に都合の良い噂を流した。――それで悪者にされるハンネはまだ貴族学院に入学前で反論する場がない。気づいたときには悪辣令嬢の汚名が定着していると考えた。
勝手で残酷な振る舞い。自分たちだけがよければそれでいい。足の引っ張り合い、蹴落とし合い。人を不幸にして自分だけが幸せになる。社交界とはそういう風潮がある程度存在するが、目の当たりにすると苦々しいばかりである。
しかし、彼女たちは甘く見ていた。オールグレーン伯爵家の公正な人柄をロス伯爵家は強く買っている。そして、ジャスミンはハンネを妹のように可愛がっていた。黙って見過ごしてくれるはずがないのだ。
「あら、この話を広めることに悪意がないとおっしゃるの? イザーク様とハンネ様の婚約話はあくまでも内々のものだったのですよ。ならばそのことについては触れずにいることが思いやりというものではないかしら。けれどこの話は大々的に広まりました。結果、正式に婚約もしていないのに、ハンネ様は婚約破棄された傷物のような立場になってしまっているのよ。まだ社交界にデビューしていないご令嬢にそのような不名誉をつけて貶めた。許されることではないわ」
その通りだ。
貴族学院では春先から夏の終りまで寮生活をする。ハンネが来年入学してきたとき、知らないうちに酷い噂をばらまかれた上に、自分を袖にしたイザークが新しい婚約者と睦まじくしている姿を見せつけられ暮らすことになるのだ。こんな酷い話があってはならない。
リリアーナは改めて、ダナの卑怯さに閉口した。
そもそも、ジャスミンが否定するまでもなくダナの話はおかしかった。リリアーナは政略結婚をする身であり、婚姻が家同士の契約だと重々理解している。故に、仮にイザークが本当にオールグレーン伯爵家に強制されて婿入りをするのだとしても、家同士が決めたことなら可哀想など思うのは貴族としてなっていない。あまつさえ契約を壊したというに、それを「救った」など宣うのは呆れ返るしかなかった。
「ジャスミン様はハンネ様を大切に思われているのね。貴女がそのように思う令嬢を、わたくし、誤解してしまうところだったわ。けれど、きっとまだ誤解している方もいらっしゃるかもしれないわね。来年、彼女が学院寮で困らないようにわたくしも気を付けるわ」
リリアーナは言った。
それは彼女がハンネを庇護すると。もし、今後、この件でまだダナが引き下がらずハンネを悪者にするというなら受けて立つという意味だ。
ジャスミンは彼女の言葉に硬かった表情を崩して礼を述べた。それから、
「お気遣い嬉しく思いますが、ハンネ様をお守りする方は既にいらっしゃいますので、リリアーナ様のお手を煩わせるようなことにはならないかと存じます」
「まぁ、それはどういうことかしら?」
「ええ、今回の婚約白紙はハンネ様にとってお辛いものでしたが、そのおかげで真に彼女を愛してくれる方との婚約が調いましたの」
予定調和の会話。
リリアーナはハンネが婚約を結んだことも知っていたが、知らぬふりをして尋ねるというのが、ジャスミンから頼まれていた援護射撃だ。
彼女にはただ噂を否定するだけではなくもう一歩踏み込んだ計画があった。そのために、ハンネが婚約していることを公表できるような流れを作ってほしいと言われていたのである。
ジャスミンは、先程とは違いゆったりと柔らかな声で話を続けた。
「ハンネ様には幼い頃から文通をしている子爵令息がいらっしゃったのです。最初は友人として始まった関係ですが、彼の方は早い段階でハンネ様に恋をしていたそうですわ。ですが、身分が違いますから一生涯告げるつもりはなかったそうです。けれど、今回の件でハンネ様は傷つきましたでしょう? それを懸命に慰められたのが彼なのです。それでも立場を弁えた方でしたから、告白までは至らなかったそうなのですが……今度は彼の方に不幸が起きました。ご両親が事故で亡くなり、学生の身で子爵を継ぐことになったのです。
その後ろ盾に名乗りをあげたのがオールグレーン伯爵です。辛い時に支えてくれた彼に対し少しでも何かしたいとハンネ様からのお願いでした。
ところが、彼はそんなつもりでハンネ様を励ましていたわけではないと拒んだのです。純粋に、ただハンネ様を愛する気持ちからの行為に見返りを受け取ることをよしとしなかったのですわ。
その姿にオールグレーン伯爵が『娘を愛しているというなら、私を後見人にして、自分の実力を見せつけて認められるよう努めるべきでないか。身分違いだからと諦める程度の思いなら口にするな』と発破をかけたそうですわ。本来なら、子爵令息に対してそのようなことはおっしゃらなかったでしょうけれど、婚約の白紙の件で今度こそはハンネ様を心から愛してくれる方をと思われたのでしょうね。
そういう経緯があり、彼はオールグレーン伯爵家で認められるべく秋口からずっと教育を受けていらっしゃったのですが……無事に婚約が決まりましたの」
ほぉっと周囲の令嬢たちがため息をついた。
伯爵令息との婚約が立ち消えた令嬢が子爵との婚約を決めた。要約すればそういう話であり、貴族的な観点から言えばこの婚約はランクダウンともいえる。だが、ジャスミンの口から聞かされた内容はまごうことなき愛の物語だった。
それも、ただの愛ではない。子爵の両親に不幸がなく、後見人を必要としなければ彼が思いを口にするようなことはなかっただろう。そして、イザークとの婚約白紙という出来事がなければオールグレーン伯爵は子爵にチャンスを与えることはなかっただろう。互いに不幸が訪れ、だがそれが二人を結び付けることにもなった。何かが一つでも違っていたらこんな結果にはならなかった。まるで、運命に後押しされたようだ。
(お見事ね)
リリアーナは感心していた。
正直、この話がどこまで本当なのかはわからない。だが、婚約白紙という不名誉にもなりかねない事実を肯定したことで信憑性は上がる。何より、ダナによりハンネは悪いイメージをつけられていたが、それが不必要に貶められた誹謗中傷に近しいものだとわかった。同情的な流れがあったところへ、彼女の幸福な話がされ、多くの者が素直に良かったと思う。もう誰も彼女を憐れみはしない。貴族社会は足の引っ張り合いばかりではないのだ。
リリアーナはジャスミンを見た。
彼女はこれ以上話す気はないようだった。
そのことが、またリリアーナを感心させた。
というのも、ハンネと婚約したという子爵は貴族学院でもちょっとした有名人「シーグルド・サリアン」だったからである。彼は類まれなる美貌の持ち主で令嬢たちから人気が高い。学院内には「シーグルドを見守る会」なるものまで存在する。
ハンネの婚約者がシーグルドだと言えば更なる話題になっただろう。
だが、ジャスミンはそれをよしとはしなかった。ハンネの名誉回復のためとはいえ「新年を寿ぐ会」の前に第三者が婚約の件を話した上に、相手まで発表するのは流石にマナー違反という配慮もあるだろうが、それ以上にやっかみに変わる可能性を考慮してのことだろうとリリアーナは思った。
貴族社会は足の引っ張り合いばかりではないが、手放しに幸せを喜んでくれるわけでもない。どの情報を、どのタイミングで告げるか。その見極めができるかどうかで、羨望になるか、やっかみになるかが変わってくる。
ジャスミンはその見極めをしっかりとしている。調子に乗ってベラベラと自慢して、人より優れていると無闇にひけらかそうとはしない。
リリアーナはジャスミンのこういう姿勢をとても好ましいと感じていた。
ただ、今回に関しては少しだけ残念にも思った。何故なら、ドルシラは「シーグルドを見守る会」の所属メンバーだからである。
ドルシラはオリバーを好きだから婚約者のリリアーナに攻撃的な態度をとるくせに、一途ではないところがより苛立たせる要因の一つだ。だが、彼女がお熱を上げるもう一人が婚約したと知ったらどうするだろう? オリバーとリリアーナの婚約が決まったときのようにヒステリーを起こして周囲を呆れさせるかもしれない。想像し「ざまぁみろ」という気持ちが湧いてしまう。これまで散々絡まれたことを鑑みれば多少溜飲を下げたくなるのは仕方ない。
(新年を寿ぐ会が楽しみね。……でも、ハンネ様のことは本当に守って差し上げなければならないわね)
リリアーナは力ある家の娘で、また将来の領主夫人であり、ドルシラが何か言ってくれば言い返すことができるし、いつでも言い返せると思うからこそ相手をせずに無視することもできる。だが、ハンネはそうではない。ジャスミンがいればどうにかするだろうけれど、ドルシラに目を付けられる同士としてできることはしてあげたい。
そう思いながら、紅茶のカップに口をつけた。
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