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茶番劇  作者: あさな
11/11

それはとても不平等な

 広間の高い位置に煌々と輝くシャンデリアにシーグルドは目をすがめた。

 場違いなところに来てしまったな、というのが彼の感想だった。

 十五歳になると令嬢たちはデビュタントを迎える。夜会の花は令嬢なのでそのように大々的に注目されるが、同じ年の令息もデビューをする。デビューはどこの領地でも領主が開く決まりだ。爵位によってはデビューの夜会が生涯で最も絢爛な場になることもある。子爵家のシーグルドもその一人だろうと思っていたが、再びこうして他領とはいえ領主主催の夜会に出席している。そして、これから毎年出席することになる。――オールグレーン家に婿に入ることになったために。

 去年の夏の終わりから見舞われた人生の転換期について、一つの結実としてこの場にいることを、改めてシーグルドは不思議に思う。

 視線を隣に歩くハンネへ向けると、ちょうど彼女のつけている髪飾りが目に付いた。シーグルドが贈った品である。

 茶色の髪に、ルビィの宝石がよく映えている。

 それを見ているとふいに両親のことが思い出された。

 母の髪色は銀髪で、その髪には婚約の際に父から贈られた髪飾りがあった。宝飾はルビィ。父の目の色。シーグルドの髪色は母の、瞳は父からの遺伝だ。

 母の持っていた宝飾品のうち、一番印象的なのはあの髪飾りだった。金銭価値で考えれば、結婚後に購入した品の方が高価だったが、年若い頃の父が婚約の品として贈ったあの髪飾りを殊の外大切にしていた。それを傍で見ていたので、マリアンネもその髪飾りを特別に思っていて、自分がデビュタントをする日にはつけていきたいとねだっていた。


「ふふ、そうね。でもあなたのデビュタントにはあなたのためだけの髪飾りを用意する方がいいのではないかしら? 一生に一度の日だもの」


 母は笑いながらそう返していた。

 娘のせっかくのハレの日には、娘だけのための宝石を用意してあげたいという純粋な気持ちと、それからあの髪飾りは自分だけのものであるからたとえ娘でも貸したくはないという気持ちもあるのではないか、とシーグルドは思った。大人げないといえばそうだけれど、基本的に子どもを優先する母の、譲れない一線、それが父からの贈り物であることが誇らしくも感じられた。両親の仲がいいことは自慢だったのだ。

 その髪飾りは、今はマリアンネが持っている。

 二人が亡くなった日も、母は髪飾りをつけていたが、事故の衝撃で一部分が欠けてしまっていた。宝石だったこともあり、警察官が現場に散らばっていた破片を拾えるだけ拾ってくれて返された。壊れた髪飾りのまま棺に入れようかとも悩んだが、マリアンネが嫌がった。もう両親が、マリアンネのデビュタントに装飾品を贈ることは叶わないなら、彼女が望んだとおりにこの髪飾りを修復して持たせるのがいいのではないか。シーグルドはそう考えて、ヘムルート経由で腕のいい職人を紹介してもらい依頼をした。戻ってきた髪飾りは、マリアンネの宝箱にしまってあって、時折取り出しては枕元に置いて眠っている。母が一番愛着のあった品は、彼女にとっても何にも代えがたい遺品となった。

 髪飾りに限らず、物には思い入れという付加価値がつく。

 だから、ハンネもこの髪飾りを大切にしてくれたら嬉しい。きっとそれは叶うだろうとシーグルドは思う。伯爵家の彼女に贈っても見劣りしない品を選らんだが、やはり子爵家の自分が購入できる物ではなかなか太刀打ちできない。それでも、シーグルドの気持ちをハンネは大切にしてくれるだろうと自然と信じられた。

 シーグルドの視線に気づいてか、ハンネが顔を上げたので目が合った。

 

「どうかした?」

「いえ、緊張してしまって」


 先程から、似たような会話を繰り返していた。

 ハンネはずっと緊張している。数日前からその兆候が見られたが、白亜宮殿に入ってからどうやらそれがピークに到達したらしい。心許なさそうな姿は幼子のようで庇護欲をそそられる。有体に言えば、可愛らしい。ただ、その可愛らしいは真実、若輩者に対して抱く感情とは違っていた。マリアンネを守りたいというのと、ハンネを守りたいというのとでは、たしかに違うのだ。その違いをシーグルドは明確に実感しては、苦い思いを味わった。

 彼女に恋をしていると自覚してから、ずっとそうである。感じたことのない考えに浸されて、その度に恋心というものの特異さを痛感している。

 たとえば、実際に行動に移すかどうかは別にしても、独占欲を感じ、囲い込んでしまいたいという衝動。それから、相手にとって誰よりも有益な存在でありたかったし、彼女にそのように自慢してほしいという陶酔感。――まったく不平等である。連れ歩いて、アクセサリーのように見せびらかすために近づいてくる者たちを否定的に見ていたのに、恋した相手になら構わない、むしろ率先してそうでありたいと思っているのだから。

 誰かを特別に思うことの裏側には、それ以外の人と区別をするという事実をはらんでいる。区別といえば聞こえはいいが、はっきりとそれは差別化である。いや、差別化というのなら、これまでだってしていた。家族と家族以外という区分けをしていた。だがそれは生まれたときから意識することもなくしてきたことだったので、今みたいに分別がつく年齢になってから、自身の心の有りようによって生まれた感覚に、誰かを特別視することの紙一重の危うさに、シーグルドは喜びばかりではなく言葉にしがたい後ろめたさがあった。

 

 やがて、先を進んでいたオールグレーン伯爵夫妻が立ち止まったので、少し後ろを歩いていたシーグルドたちも足を止めた。

 正面にはロス伯爵と夫人、それからジャスミンと彼女の婚約者セリシオがいた。


「本日はおめでとう」


 ロス伯爵が、シーグルドとハンネに祝いの言葉を告げたので、二人で礼を返す。それから今度は、オールグレーン伯爵がジャスミンとセリシオにお祝いの言葉を言って、二人が礼を返した。本日婚約を発表する十三組のうちの二組である。

 挨拶を交わしたあとは親世代と子世代に分かれた。


「その色、とてもよく似合っているわ」


 ジャスミンがハンネのドレスを見て、目を細めた。

 シーグルドの髪色のドレスは、赤や青といったはっきりとした色味ではないため、地味になりやすいし、この会場内でもやはり単独では目立たないが、シーグルドと並んでいると一対として際立ち、そしてハンネの持っている柔らかな雰囲気とも調和していて、目を引く。

 

「アクセサリーも、シーグルド様の色味なのね。リングリドア領ではそういう風習があるのだったわね」


 ジャスミンが今度はシーグルドに話を振った。


「ええ、よくご存じですね」

「お相手の色を身に纏うなんてロマンチックですもの。令嬢の間では、リングリドア領の婚約式についてはたびたび話題にあがるのよ」

「なんだい、君。そういうのに憧れがあるなら早く言いなさい」


 ジャスミンの話に驚きを隠せずに、思わずと言った感じでセリシオが言った。

 おそらくはこのドレスは彼が用意したものなのだろう。彼女に似合う色をと考えたが、自分の色を贈るところまでは考えなかった。


「セリシオ様はリングリドア領の出身ではないでしょう?」

「出身ではなくても、別に構わないだろう。やりたいことはやるべきだよ」

「別にやりたいわけではないし、羨ましくて話題にしたわけではないのだけれど」

「そうかい?」


 セリシオは一度頷いて見せたが、納得してはいない様子だ。

 彼女にそういう夢があったのならば叶えてあげたかった――それはそうだろうなとシーグルドは思ったので、彼の悔いる気持ちには共感する。


「ジャスミン様のドレス、とても素敵です」


 ハンネが言った。

 セリシオへのフォローも兼ねていたのだろうが、深い赤色のドレスは、意志の強い目をしたジャスミンによく似合っているのも本当だ。

 彼女とは数えるほどしか会ったことがなかったが、そのいずれもパステル調のドレスを着ていて控えめな印象が強かったので、濃い色味のドレスを着ているのは初めて見る。印象ががらりと変わり、聡明さがより際立ち美しい。セリシオはオーソドックスな黒のタキシードで、二人が並ぶと格式ある上流階級のオーラを嫌味なく放っている。正式にロス伯爵家の後継者となったジャスミンと、それを支えるセリシオ――誰もが納得するだろう。

 

「飲み物を取ってくるよ」


 そう言ったのはセリシオである。

 急に我に返って、なんとなく気まずさを覚えて一旦この場を離れたかったのだろう。

 シーグルドもハンネのために持ってくるべきと、何かリクエストはあるか尋ねてみたが、彼女は依然としてふわふわとしていて、何でも、と小さく返ってきた。この状態のハンネを置いて、飲み物を取りに行っていいのかと後ろ髪を引かれながらも、ジャスミンが傍にいるならば大丈夫だろうと向かうことにした。

 セリシオと人を避けながらも器用に並んで歩いていると


「まさか、君とここで会えるなんてね」


 と気を取り直したらしい彼が話しかけてきた。

 二人は同じ年、同じ学年である。

 セリシオは伯爵家の子息だが、土地持ちとは違って王族の直轄地を運営するという少し特殊な立場にある家だ。王家直轄というのはなかなかにプライドを刺激するものらしく、癖の強い者も結構いる。だが、セリシオはそのタイプではなかった。三男というのも大きく影響していたのかもしれない。結婚相手によっては子爵家や男爵家に入る可能性も出てくる。そのためにどのように転んでもよいように、聡明な者ならば、下手に偉ぶったりしない。セリシオもその辺は心得ていて、また元来が文系肌というのもあり、穏やかな印象を持たせる人物だ。実際、いくつか選択授業で一緒になり、友好的な関係だった。


「その言葉そのまま返すよ」

「はは、まぁ、そうだね。僕の方が意外かな」


 セリシオは学院で将来の相手探しをそれなりに熱心に行っていて、何人かとデートのようなことをしていたと記憶している。その中から本命を絞っていくのだろうと思われていたのに、突然、ジャスミンとの婚約である。

 ただ、急遽決まった婚約という割に、二人は随分打ち解けていて関係は良好そうだ。先程の会話からもそれは窺えた。


「あの子のことは、小さい頃から知っていたんだよ。ただ、僕が相手になるとはまったく思っていなかったからね」


 血は水よりも濃い。女性が家督を継ぐ場合、財産が流出しないよう婚姻相手は身内から選ぶというのはよくある。又従兄妹という血縁的に見てもそれほど近いわけでもなく、かといって遠いわけではない絶妙な間柄で、年齢も近いとなればむしろそういう相手となる可能性は高い。ただ、ジャスミンの場合は跡取りとなるかどうかが曖昧で、というよりも出来るだけ兄・レオンに継がせたかったからギリギリまで決めずにいた。レオンが家督を継ぎ、ジャスミンがどこかへ嫁ぐならば、相手は外部の人間を求める。古より、血を交わらせて親族となり権力を広げていくというのもまた有効な手段である。男女で、或いは立場で、婚姻に望むものは変わる。それが家を繋いで守っていくということである。

 ロス伯爵が最も望む形で落ち着いたなら、彼がジャスミンの相手になることはなかった。だが、最終的に、彼女が家督を継ぐことになったので、身内から婚約者を選んだ――セリシオは誰がどう見ても完璧なほど理想的だが……しかし、自分が相手になるとは思っていなかったというのは意外である。貴族的な価値観でいうならば、万が一を考慮して、そのときに選んでもらえるようジャスミンとも親しくしておこうと考える。だが、彼はそうはしていなかった。学院でも、二人が親しくしているところを見たことはない。彼にとって、ジャスミンは幼い頃から知る妹のような存在で、だからこそ保険をかけるような真似はしたくなかったということだろうか。そうであるならば彼は随分と純朴であるように感じられた。


 テーブルに辿り着いて、セリシオがグラスを手に取った。

 葡萄ジュースと林檎ジュース。

 二人はデビュタントを終えているので飲酒しても咎められることはないが、大事な婚約披露で失敗するわけにはいかない。素面で望むのが最善との判断だ。

 シーグルドも林檎ジュースと、それからオレンジジュースを手に取って二人の元へと戻る。


「サリアン子爵!」


 途中、溌剌とした声で呼び止められた。

 ウド・トリプソン伯爵子息だった。

 彼とは本屋で出会って以降、二度会っている。マリアンネがテオと本の貸し借りの約束をしていたので、一度はトリプソン伯爵家に招かれて訪問したときに、そして、もう一度はテオをオールグレーン伯爵家に招いたとき付き添い役として一緒に訪ねてきた。

 彼は女性を苦手としているが、男性相手には案外社交的で、騎士科に所属している者にありがちな、文官志望をナヨナヨしていると嘲るようなところがなかった。それよりも、自分にない、物腰柔らかなシーグルドにある種の尊敬を抱いている。もっといえば彼の目から見てもモテると思われるシーグルドに、どうすれば女性と普通に話せるか指南を求めたのだ。

 嫉妬からの悪意というのはままあったが、純粋な羨望というのは実のところあまり向けられことがなく、シーグルドは新鮮に感じた。

 ただ、女性との関わり方について聞かれても困った。

 ウドは自身の大柄な体躯では令嬢を怖がらせてしまうと真剣に危惧しているようだが、女性はそれほど繊細ではない。否、繊細な性格の者もいるし、ウドがかつてそのような令嬢と接して怖がらせてしまった実体験があるのだとしたら、迂闊に否定もできないが、それでも彼は少々、女性に夢見がちなのでは? とも思う。――そこまで考えて、シーグルドこそ女性に幻滅しすぎではないかとひやりとした。

 何かを教えるとなったとき、己の価値観が如実に反映されてしまう。

 シーグルドはこれまで自分の内側にある女性への不信感を表立って表現したことはなかった。相手は変わらないから、自分が変わる。納得はできなくても、理不尽に感じられることを諦めるという手法でやりすごしてきた。だが、それで完全に消化してしまえていたわけではなかった。確実に腹の内にたまっていった不満が、些細なきっかけを反動として溢れ出そうとする。

 我慢をしてきたのだな、とシーグルドはしみじみと思う。

 多かれ少なかれ誰しもが何かを我慢して生きているのだろうけれど、それでもやりすごしてきた日々の中で、出口を無理やり塞いで見ないようにしていたものが、こちらにきて環境が変わり、そして新しい環境ではそれを否応なく自覚させられてしまっている。彼にとってそれが乗り越えるべきものだということなのだろう。――そうでなければその歪みが大切な人を傷つける形で爆発してしまうかもしれない。ぎゅっと固くなってしまった嫌悪の感情を緩やかに解きほぐして前に進みたい。

 そんなことを漫然と思いながら、ウドと挨拶を交わした。

 

「僕は先に戻っているよ」


 セリシオはウドに軽く会釈をしてから行ってしまった。

 

「あ、すみません。邪魔をしましたか」

「いや、飲み物を取りにきていただけだから」


 手にしたグラスを軽くかかげて見せると、彼はなるほどと頷いて、それからセリシオの歩いて行った先を見つめて、また頷いた。そこにハンネの姿を確認したのだろう。


「ハンネ嬢にもご挨拶と、お祝いを言いたかったので、ご一緒させてください」

 

 ハンネはシーグルドと同様にマリアンネの付き添いとしてあれから二度、ウドと会っている。これまで親しくなかった二人だが、そのわずか二度の間で、ウドは彼女には緊張しないようになった。

 彼が令嬢を苦手としているのは、必要以上に女性として意識してしまっているからである。つまり、女性として意識しない――将来の相手とはならないとわかりきっているならば普通に接することができるらしい。そういう意味でハンネは条件を満たしている。尊敬するシーグルドの婚約者であり、また、彼女自身も女性特有の艶めかしい色気というのとは縁遠く、ウドは性別を意識せずに振る舞えた。

 数少ない、というよりもほとんど初めての普通に話せる令嬢ということで、ハンネに気を許している。そこにそれ以上の感情がないのはわかるし、ウドにとって喜ばしく、ハンネを介して他の令嬢とも気軽に話せるようになって、彼に合う相手と出会えたらいいなとシーグルドも思う。その反面で、下心の有無を問わず、ハンネが他の男と親しくするのは嫌だなと実に子どもじみた嫉妬心が疼く。とはいえ、さすがにそれを態度に出すわけにもいかないので、涼しい顔で微笑んで、二人でハンネの元へと戻った。


 会場には続々と人が集まってきているが、同時にそれはロス派の貴族も揃い始めていることを意味する。ハンネとジャスミンの傍にもロス派の令嬢たちが集まっていて、また小さく分かれている。ハンネは三人の令嬢と話していた。おそらく同じ年の令嬢たちだろう。派閥、性別、年齢、そのようにして共通点がある者が輪になっていく。

 シーグルドはオールグレーン伯爵に連れられて男性だけの会合には参加したので、同世代の令息とは顔見知りになっているが、令嬢とはまだ面識はない。ハンネとの婚約は事前に噂になるようにと出歩いているし、会合に出席した男性陣から彼女たちも話を聞いてはいるだろうが、いざ、本人たちの前に出るというのはそれなりに勇気がいる。それは、オールグレーン伯爵夫人の計画がうまくいくように、ハンネを愛する美貌の子爵を演じ切らなければならないというプレッシャーもあるが、つい先ほど感じたばかりの個人的な欲――つまるところ惚れた相手の前で良い格好をしたいという感情のせいだった。

 だが、シーグルド以上に緊張している者がいた。隣にいるウドだ。普段ならば令嬢の近くを避ける彼である。混乱するのも仕方なかったが……人は自分よりも困っている人を見ると急に冷静になる。ウドにとってみれば克服したい弱点が、今のシーグルドには彼をフォローしなければと自分を鼓舞する原動力になり、落ち着きを取り戻せた。


「ハンネ」


 少し離れた位置から呼びかけると、輪になっていた令嬢が揃ってぱっとシーグルドを見た。ハンネも気づいて、彼女たちに一言断りを入れてから離脱してこちらに歩いてきた。

 シーグルドは唇にゆるやかな笑みを浮かべながら、


「待たせてすまない。途中で、ウド様とお会いしたんだ」


 チラリとウドに視線を向ける。すると、彼の硬直したままで、


「ハンネ嬢。本日はおめでとうございます。……あ、いや、その前に新年の挨拶が先だったな。新年あけましておめでとうございます」


 声の音量がややおかしい。ハンネには慣れてきたとはいえ最初の一声は緊張するのだろう。掛け声ではないのだからと思わなくもない声量だが、騎士らしい佇まいであるようにも感じられた。


「あけましておめでとうございます。それから、お祝いのお言葉、ありがとう存じます」


 ハンネは彼の挙動については触れずに返事をした。

 

「テオ様はお元気にされていますか?」

「ええ、元気です。今日は来られないのでふてくされていますが。……マリアンネ嬢はお元気ですか?」

「はい。元気にしています。来年は二人揃って参加できますね。テオ様が一緒ならマリアンネも心強いと思います。ねぇ、シーグルド」


 ハンネに話を振られてシーグルドは頷いた。


「いいえ、マリアンネ嬢はしっかりされているので、テオがいなくても立派に務めるでしょう」


 すかさずウドが言った。

 マリアンネは初対面時からウドに対しても物怖じせずに話かけていた。最初こそウドは戸惑っていたが、五歳児を令嬢として意識することはさすがになかったので、ウドもマリアンネとは会話ができている。しかし、ハンネに対してとは違い、どうもマリアンネが苦手なようだった。

 その理由として、彼女がはっきりと物を言うからだろう。

 令嬢に向かって使う言葉ではないかもしれないがマリアンネは妙に肝が据わっているところがあって何事も器用にこなす。シーグルドよりも余程上手に立ち回るだろうと贔屓目なしでも思う。だから、却って心配なのである。周囲から大丈夫と思われていると弱音を吐けなくなっていくのではないか――そうならないよう、頑張ることは素晴らしいが、頑張りすぎて自分を追い込まないように、注意深く見守る必要がある。親の代わりを務められるとは思わないが、頼りになる兄として、彼女に信頼される自分であることがシーグルドの目標だ。


「それでは、私は行きます。ご挨拶ができてよかった」


 ウドはそう言うと踵を返した。一瞬のことに、シーグルドもハンネも引き留めることはできなかった。

 ハンネが先程までいた輪の令嬢たちが、こちらを気にしている視線を感じていただろうに、そして、これからその令嬢たちと会話をしていくという流れを感じていただろうに……つまるところ彼は逃げ出したのである。

 彼がいるからこそ落ち着きを取り戻せたシーグルドは、逃げ出した彼に今度は不安を煽られた。だが、自分は逃げるわけにはいかない。


 ひとまず、ハンネに持ってきた飲み物を渡して様子を窺う。林檎とオレンジとどちらがいいかを問えば彼女はオレンジを選んだ。

 口をつけると、一瞬だけ眉を寄せたように見えた。


「大丈夫かい?」

「ごめんなさい。思っていたより酸っぱかったのでびっくりして」


 と言うので


「変えようか?」


 え、いいよ、と断られたが、構わずに持っている林檎ジュースのグラスと交換する。手の中に戻ってきたオレンジジュースを一口飲んでみるとたしかに酸っぱい。果汁百パーセントの搾りたてなのだろう。果実によって甘いか酸っぱいかの差が出る。


「これは、余計に喉が渇きそうだね」

「じゃあ、こちらを飲む?」


 再び彼女がグラスの交換を言ってきたところで、

 

「仲がよろしいのですね」


 輪の中から一人の令嬢が声をかけてくれた。

 それから彼女は、


「初めまして。わたくしはメラニー・ハックマンと申します。お二人の婚約については父と兄からお聞きしていて、ご挨拶できる日を楽しみにしておりましたの」

 

 と続けた。

 派閥の中でも関係性がある。ハックマン伯爵家とオールグレーン伯爵家は極めて近しい間柄になる。シーグルドが会合に出席した際も、ハックマン伯爵とその嫡男――メラニーの兄であるキースと挨拶を交わした。あのとき、ハックマン伯爵たちにも二人の婚約の経緯を話している。

 彼らは、オールグレーン伯爵家がイザークを支援することにあまりよい心証を抱いてはいなかった。貴族間の暗黙のルールを破ったカールソン伯爵に否定的で、信頼できないと判断し、その息子のイザークとも距離をとるべきと考えていたのだ。だから、イザークが土壇場でハンネを裏切ったと知ると、ほら見たことか、蛙の子は蛙なのだ、と呆れる気持ちが強かっただろう。とはいえ、それでオールグレーン伯爵家までも嫌悪することはなく、ハンネには同情し、婚約発表がうまくいくよう口添えしてくれるつもりがある。メラニーが率先して声を掛けてくれたのも、両親からいろいろ言い含められていたからだと思われた。

 

「初めまして。私も、ハンネからメラニー様と親しくさせていただいていると聞いております。どうぞ、これからも彼女と仲良くしていただけると嬉しいです」


 互いに味方であることを確認する挨拶を交わしていると、


「わたくしは、クラリッサ・ローウェルと申します!」


 元気な声がした。

 残る二人のうちの一人である。

 ローウェル伯爵家とオールグレーン伯爵家は特別親しくもないが対立しているわけでもない。ハンネとクラリッサは同じ年なので一緒に話していた。二人の気が合えば、今後のハンネたちの代では近しい間柄になるかもしれない。


「初めまして。私は、シーグルド・サリアンと申します。この度、ハンネと婚約する運びになり、リングリドア領からこちらへきました。以後、どうぞお見知りおきください」


 返事をすると、クラリッサはわかりやすく顔を赤らめた。


「まぁ、ご丁寧にありがとう存じます。ハンネ様が婚約されるとは聞いておりましたが、こんなに素敵な方とだなんて羨ましいです! ハンネ様、シーグルド様、ご婚約おめでとうございます」


 素直な反応を返されてシーグルドは内心安堵した。経験上、このようにはっきりと羨ましいと口に出して言うタイプは、それ以上の感情を持ち合わせてはいないことが多い。問題は、


「本当に、おめでたいですね。ハンネ様はイザーク様と婚約されるとばかり思っておりましたので、イザーク様が別の方と婚約するという知らせを受けたときは、ハンネ様はさぞや落ち込んでいると思っておりましたのに……ハンネ様も婚約されたようで、わたくしも安心しました」


 クラリッサに続けて、最後に残った令嬢が言った。

 口元は微笑んでいるが、目は少しも笑っていない。内容も、心配していると言いながら、イザークの名前を出すあたりに悪意がにじみ出ている。

 ベラ・コールリッジ伯爵令嬢――何かにつけてハンネに厳しい物言いをする令嬢のことは事前に聞いていたので、名前はすぐにわかった。コールリッジ伯爵家とオールグレーン伯爵家にも特殊な事情は存在せず、同派閥であるからそれなりに協力関係を維持している。だが、ベラはハンネを敵視している。その理由は推測だけれどと前置きした上で、彼女はイザークに恋心を抱いていたのではないか、とハンネは言った。だから彼と仲の良いハンネを疎んじている。つまるところ嫉妬だが……だとしたら、イザークに振られたハンネを否定することはもうない。理屈ではそうだが、理屈通りにいかないのが人の心である。長い時間の間に、彼女は理由など関係なくハンネを嫌うようになったのだ。

 仲良くする気がない者にこちらが折れて下手に出る必要はないが、同じ態度で返すこともできない。あくまでこちらには非のない振る舞いを心掛けなければ、いつ、誰に揚げ足をとられるとも限らない。とはいえ、彼女の不躾を何事もなかったように流すのも問題だろう。

 シーグルドは彼女から視線をハンネに戻して、少し困ったように微笑んで見せた。すると、ハンネは意図を汲み取ったように小さく微笑み返して、


「こちらは、ベラ・コールリッジ伯爵令嬢です」

「初めまして、ベラ嬢。シーグルド・サリアンと申します」


 ハンネから紹介を受けて、シーグルドも名乗った。

 挨拶もせずに言いたいことを言うベラの礼儀に欠く振る舞いを、ハンネから紹介してもらうという形で体裁を整えて丁寧に返す。ベラ自身、そのことにようやく気付いて、慌てたようにシーグルドの自己紹介にカーテシーをした。


「カールソン伯爵子息とのことは、わたくしも残念に思いましたが、おかげで彼と婚約を結ぶことができたので、結果としてよかったと、今は思えます。ですから、心配には及びません」


 それからハンネがきっぱりと告げた。

 人前で惚気るのは余計なやっかみをうむが、時と場合によりけりである。ここは二人の仲睦まじさをアピールするチャンスだ。そういう意味では、ベラの嫌味も今回に限りは役に立った。

 ハンネの言葉に合わせるように、シーグルドは彼女の腰にそっと腕を伸ばして引き寄せるようにして距離を詰めた。ハンネが顔を上げて、二人の視線が絡む。すると、彼女が照れたように笑った。

 それが芝居か、本当に照れたのか、シーグルドにはわからなかった。先程まであれだけ緊張していたのだから、素の反応だろうと思うも、彼女も伯爵令嬢として教育を受けてきたのだから、これくらいはやってのけるか、と冷静に考える。しかし、そのような考えとは裏腹に、シーグルドの心臓は早鐘を打った。目が合って、照れたようにはにかむ、その姿が芝居であろうがなかろうが関係なく彼の心は奪われ、ほとんど無自覚に締まりなく頬が緩む。


「本当に仲がよいですね」


 そんな様子に、メラニーが告げた。数分前に同じ言葉と共に話しかけてきたが、それとは比べるまでもなく、呆れているように感じられた。まるで二人だけの世界のような甘い雰囲気を出されてはそうなるのも頷けるが。


「ハンネ様のドレス、シーグルド様の髪の色なのですね。宝飾品は瞳の色ですよね。とても素敵です」


 一方で、クラリッサはキラキラと目を輝かせながら言った。

 今日もうすでに二回目の話題だが、やはり令嬢にとって相手の色を贈られるというのはそれだけ憧れがあるのだろう。シーグルドはドレスと宝飾品一式を自身の色にすることに躊躇いを覚えて、一度はやめようとまで考えたが、ヘムルートに叱咤されて結局は贈ることにした。それでもよかったのかと迷う気持ちがあったが、これほど反応があるのでしてよかったと思えた。それだけではなく、ハンネがそれを着た姿を見たときは、充足感と高揚が押し寄せてきた。令嬢だけの憧れではなく、これは贈る側にとっても幸福を感じさせるものなのだ。何事もやってみなければわからないというが、外野から自分の色を贈るなんて気障だとか揶揄われるのが嫌だなど考えていたのが滑稽に思えるほど、彼女は自分のものであると主張できる喜びは大きかった。

 

「ええ……そうなんです。シーグルドはリングリドア領の出身なので、あちらでは婚約式には婚約者に自身の髪色のドレスと、瞳色の宝飾品を贈る習わしがあるので、それをしてくれたの」

「まぁ! そのような習わしがあるのですか! ああ、わたくしもしてほしいわ。でもそれならば、お相手の方の色は大事ですわよね。黒髪の方とかはどうするのかしら?」


 クラリッサが疑問を口にする。

 おめでたい席で黒を着てはいけないという決まりはないが、好んで着る者は少ない色ではある。


「黒をそのまま着る者もいますし、ドレスも瞳の色にするなど、その辺りは割と臨機応変に調整していますよ」


 それにシーグルドが答えた。

 

「まぁ、そうなのですね。……そうね、でも、相手の色ならば、どんな色でもいいと思うのかもしれないわね」


 クラリッサは少し思案顔をしながらも、最後はそう言った。


「ええ、そうですね。そのように思ってもらえるなら贈る方も嬉しいでしょう。私も、この髪の色は少し難しいので、ハンネに贈るのを躊躇いましたが、こうして着てもらえて感動しました」

「あら、そうだったのですね。ハンネ様のドレス、繊細で綺麗ですから、そのように思われていたとは意外です。でもそうですね、銀色というのはなかなか選ばない色味かもしれません」

「はい。ですから、贈ったときは少し緊張しました」


 ハンネにドレスを披露したときのことを思い出す。

 あの頃は、ハンネの性格も今ほど理解はしていなかったので、まだどこか信じ切れずに、気に入らない場合は辛辣な言葉で拒絶されるかもしれないと不安を覚えていた。だから、ドレスを見た彼女が、まばゆいものを見るように目を細めて、丁寧な手つきで触れたとき、気に入ってもらえたのだと小さく息を吐いた。

 調整のために試着してもらい、その姿が思いのほかよく似合っていたので、皆が手放しに褒めたたえた。シーグルドもそれに続こうとして、うまく言葉が出なかった。子爵家の自分の色が似合うというのは、失礼になるのではないか、下手なことは言わない方がいいのでは、などと回りくどい言い訳をしたが、今にして思えば単純に照れてしまっていただけである。

 色味も、デザインも、シーグルドが選び、決めた。ハンネに合うものをと考えてはいたが、着てみると何か違うなんてことも十分あり得た。だが、想像以上に似合っていて、彼女にもっとも似合うものを用意できた――そのことがこそばゆいような、落ち着かない気持ちにさせたのだ。


(たぶん、すでに彼女に好意を抱いていたのだろうな)


 良くしてもらっているので、こちらも返礼をしなければと、そのような気持ちから婚約指輪とドレスを用意することにした。だが、ドレスが出来上がる頃にはそれだけではなくなっていた。いや、ひょっとしてすでに贈ろうと考えていた時点でそうだったのかもしれない。ただ、無自覚だっただけで。でなければ、忙しい日々の中で、準備するための打合せの時間をあれほど取ったりはしない。デザインに細かく指示を出したし、生地についても、自分の衣装を選ぶのとは比べ物にならないほど慎重に吟味を重ねた。せっかくなら喜んでもらいたい――そのような曖昧な気持ちではなく、もっと明確に、彼女を喜ばせたいと思っていた。


 シーグルドがクラリッサからハンネに視線を戻すと、


「あのとき、緊張していたの? そんな風には見えなかったわ」


 ハンネは意外、という風に言った。


「そう? 君に関することは、だいたい緊張しているけど? けれど気づかれていなかったのなら、黙っていた方が格好はついたかな」


 シーグルドは素直な気持ちを返した。

 誰かと関わるとき、友好的な関係を築きたいと思うことで生じる緊張。当時のシーグルドにはその比重が大きかった。それが少しずつ慣れていき、気を張らずともいいのだと理解しはじめてから、次は彼女に恋したことで、再び緊張を強めるようになった。それは先の緊張とは似ているが、一番の差は、執着の度合いだろう。たとえば前者ならば、仮に失敗して相手から嫌われたとして、残念には思うが、生活に支障がでないのならば仕方ないと受け入れる。だが、後者はそんな風には割り切れない。幸いハンネとの関係は良好だが、もし彼女に嫌われるようなことがあれば、挽回しようと必死になる。そうならないよう日頃から慎重になる。彼女と一緒に過ごす時間は柔らかで、リラックスできもするが、同時に常に頭の何処かは張り詰めている。緊張と緩和、真逆のものが混在して当たり前に両立するとき、いつも不思議に感じてしまうが、しかしそういうことを知っていく瞬間は心が拡張されていくようで心地よくもある。それに、まるっきり一色に塗りかためられるより、案外その方が健全なのかもしれないとも。


「格好つけたいの?」


 シーグルドの発言に、ハンネは今度は笑いながら言った。

 軽口とでも受け止めたのだろう。


「それはそうだよ。好きな相手から格好いいと思われたくない男なんていないと思う」


 シーグルドはとても真面目に――真面に言った。

 すると、ハンネが息を呑むのがわかった。ハンネだけではなく、他の令嬢たちも皆、頬を紅潮させている。そうなってはじめて、シーグルドは自分が言ったことがほとんど告白であると気づいた。だが、後の祭りである。


(私は何を口走って……)


 恋している相手に良く思われたいという欲求を、冗談と受けとめたハンネは、シーグルドの気持ちにまったく気づいていないということで、二人の関係の始まり方を考えれば、それは当然かもしれないし、それは承知していたし、時期を待って少しずつ距離を詰めていこうとも考えていたはずなのに、いざ実感すると寂しくなって、つい真剣に返してしまったのである。

 こんな風にやらかしてしまうなど、シーグルドもなんだかんだと平常ではないのだろう。とはいえ、ここで慌てふためくのも得策ではなく、そうしたいのをこらえて平静を装ってほほ笑むにとどめた。


「シーグルド様のような方でも、そのように思われるのですね。なんだか新鮮です」


 妙な空気を破ったのはクラリッサだ。

 彼女は興奮しながらも、感心したように言った。


 シーグルドのようなというのは、大半の者から容姿を褒められるだろう人間でも、まだ格好いいと思われたいのかということである。

 すでに格好いいのだから、もうそれを望んだりはしないでしょう――というようなことはこれまでしばしば言われてきた。だがそれは間違いである。人の目から見てどう映るかを、そのまま自分の評価とするかといえば、そうではない。まして、好きな相手に好かれたいから格好良くありたいという願望は、純粋な容姿の美醜とは違う話だった。とはいえ、クラリッサの言葉を否定するのも気が引け、


「私がどのように思われているかはわかりませんが、少なくとも、彼女の前ではただの、普通の男ですから、皆が思うことは、私も思いますよ」


 と当たり障りなく返した……つもりだったが、突然、背後から悲鳴が聞こえてきた。驚いて振り返ると、こちらの話を聞いていたらしい令嬢たちが、一人は両頬を押さえ、一人は額を押さえ、更にもう一人は両手を胸の前で組んで祈るような格好で、シーグルドを見ている。視線に気づくと彼女たちはまた悲鳴をあげて逃げていった。

 あまりのことに、呆気に取られたが。


(……そんな妙なことは言っていないが?)


 我を取り戻しシーグルドは冷え冷えとした気持ちになりながら、静かに自身の発言を振り返る。

 失言を取り返すためにも、皆と同じであると一般論に落とし込んで誤魔化したつもりが、余計に令嬢たちを刺激した。それも、話してもいない者たちだ。彼女たちの様子から、悪意があってではないのだろうけれど、されたシーグルドにしてみたら嘲笑われているのと変わらない。自分はおかしなことを言ってしまったかと不安にもなる。

 ただ、こういうことは珍しくはなかった。ただ話しているだけなのに、まったく関係のない者から思いもしない介入がされる。

 シーグルドは意識して呼吸をする。

 それから、内容云々より、ただ自分が話をしたことに反応しただけなのかもしれないと思い直した。――過去の経験上そのような……シーグルドは人間であるのに人形とでも思っているのかと疑いたくなるような、一言一言話す言葉に過剰な反応を示されたことも何度かあった。これもそうなのかもしれない。あのときの居心地の悪さも思い出されて、苦々しさが込み上げてくる。

 いずれにしても、冷や水を浴びたように、それまで感じていた浮遊感がなくなった。

 それは必要なことではあった。シーグルドはここに遊びに来ているわけではないのだ。まだ、対峙してはいないがイザークとの対面が控えている。こちらから何かをふっかけるつもりはなくても、相手次第ではハンネを、ハンネの名誉を守らなければならない。浮かれている場合ではなかった。

 気を引き締めるのに丁度よかった――無理矢理にそう思うことにして、手にしていたグラスに口をつける。たちまち、オレンジの酸味が口に広がるかと思いきや、何の味もせずに、ひんやりしたものがただ喉を流れ落ちていった。

読んでくださりありがとうございました。


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