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9話 一悶着の終わり

9話です。


三人称って難しい·····。


あかりは右ポケットに入っているピンク色のケースがついたスマホを取り出す。


スマホの電源を入れすぐさまメールアプリを起動する。そしてクラスグルのメンバーの「Misato」と書かれたアイコンをタップし左下の追加のボタンを押した。


今まであまり話したこともないため当然メールのやりとりなどしていない。


あかりは美里とのトーク画面にいき手慣れたフリック入力で美里にメールを送る。普通、メールをするのが初めての相手には最初「よろしくお願いします」などと送るものだがあかりはそんなこと知らぬ存ぜぬで送信ボタンを押した。


送った内容はこう。


『4時20分に昇降口近くの校舎裏に来い』


敵対心を美里にアピールするためなのか分からないがなぜか語尾が命令口調。いきなりあまり関わったことがない人からこんなメールが来たら怖いだろう。


あかりは送った文を再度確認し頷く。誤字脱字などないかのチェックだ。これで変な文になっていたら松島さんに笑われてしまう、そんなちょっとした不安からの確認。



あかりの学年トップレベル美女とのトーク画面は敵意むき出しの命令文から始まった。



────────



昇降口近くの校舎裏。一応、春樹が今日、金髪男にボコボコにされた場所でもある。


しかし、そんなこと春樹から聞かされていないあかりは堂々と金髪男が立っていたであろう所(地面に足跡がついていることから分かる)に腕を組みながら美里を待っていた。


時刻は4時15分。


部活などない生徒はとっくに帰っている時間、さらに部活が始まってから30分ぐらい経っているということもあり部活をやっている生徒達の熱気が高まり始める時間でもある。


校舎裏から見える校舎と校舎の間の夕日の光からテニス部か野球部かはたまたサッカー部か分からないが掛け声が聞こえてくる。


あかりは春樹を取り返すためにその熱い掛け声と共に美里との戦いに向けて気持ちを高めていた。


(絶対に春樹を取り返すよ!!!)


あかりの正面から5月の生ぬるい風が吹き込む。隙間からの風ということもありとても強めな風だった。あかりの茶色いボブカットの髪もパアッとなびく。



そしてその風に包まれ、夕日に照らされて現れる女性形の黒い人影。


あかりは瞬時に察する。あの黒い人影は()()だと。


その黒い人影はあかりに近づく。近づく度、風がどんどん弱くなっていくように感じる。まるでこの風は目の前にいる美里であろう人物が支配しているのかと思うほどに。


あかりはその可憐な姿に、組んでいる腕も自然と解けていた。


やがて風も止み夕日の差し込まない位置にその黒い人影もおさまる。


「な、なんですか? 橘さん」


ツヤがある長い黒髪でまつげも長く肌も綺麗で少し大人っぽさがある目の前に立つ()()


聞こえてくる声は美里の雰囲気とはかけ離れたとても甘い声。さらに少しおっちょこちょいそうな雰囲気。これはやばい、そうあかりは心の中で悟った。


しかし、あかりはその声に呑み込まれないよう余裕そうな表情で返答する。


「話があるんですけど·····本当にハルと付き合ってるんですか?」


みんなはあの一言で信じているかもしれないが今までの春樹のことをずっと見てきたあかりには全面戦争すると決めたものの未だに信じられていなかった。


あかりのその質問に美里はこわばった表情で答える。


「は、はい。 は、は、春樹くんとお付き合いをさせてもらっています」


(う〜ん·····。 よく分からないなぁ)


返事を聞いても美里の微妙な表情と微妙な声色で本当に付き合っているのかの真偽がよく分からないあかり。


とりあえずわかるまで質問攻めをすることにする。


「どっちから告白したの?」


「え、えっと、わ、私です!」


「じゃあ、その松島さんの告白をハルがOKしたってこと?」


「え、あ、は、は·····い!」


(すごい間が空いてたけど·····本当かな?)


さらに疑問が一つ増える。


あかりはその後2、3回質問をしたが疑問が増えていくばかり。この延々と続くであろうこの状況にあかりは心底悩んでいた。


しかし、その悩みも次の質問をしようとする時に吹っ飛んでいくことになる。


「じゃあ、あ──」


ランらららん♪ランらららん♪


美里のポケットからスマホの着信音が鳴る。とても愉快な着信音だ。


美里はポケットからスマホを取り出し画面を確認すると、画面から目を離しあかりの方を向く。


「あ、す、すみません! お迎えが来るのでまたの機会でいいですか?!」


「お迎え?」


「は、はい! お迎えです」


「お迎えってあの黒い車とかがくる、あのお迎え?」


「はい! リムジンです」


「お迎え」、「リムジン」、この二つの言葉であかりは思い出す。ある日のクラスメイトの会話を。



『美里っちって、お嬢様なんでしょ!』


『あ、知ってるー。 なんだっけ? なんとか書店の社長の娘なんでしょ。 すごいよねー』



そう、美里は正真正銘お嬢様。


「学校の迎えにリムジン」このパワーワードを使えるのは相当なお金持ちしかいない。しかし、それを使えるのが美里なのだ。


その事が頭からすっかり抜け落ちていたあかりはその場に膝から崩れ落ちる。崩れ落ちた時に思いっきり地面ぶつけた膝は痛そうだったが、あかりの頭には痛いという感覚よりも美里に対する敗北感でいっぱいになっていた。


(可愛い、さらにお嬢様·····。 ハルがとられるわけだぁぁぁ!!!)


今のあかりはこのほぼ完璧な美里が春樹と付き合っているという事を半ば認めざるを得なくなっていた。


そんな中、美里はあかりの様子も知らずに、


「あの、もう来たらしいので、す、すみませんが先に帰らせてもらいます」


そう言い残し夕日の方に向かって走っていった。




そして、校舎裏に残るのは膝から崩れ落ちているあかりと美里が使っているシャンプーの残り香。


地面はまだべちょっとしたままだったのであかりの履いている靴下は泥がついて真っ黒。


宣戦布告するつもりがただただ差を見せつけられ、自分が圧倒的敗北感を味わわせられただけのあかり。それほど辛いことがあるだろうか。


(うぅぅぅ。 結局、宣戦布告も出来なかった·····)


あかりは自分の無力さを実感させられながら壁にもたれて校舎裏をぬけ春樹のいる教室へと戻るのだった。



読んで下さりありがとうございました!


評価やブクマして下さるととても嬉しいのでよろしくお願いします!!!

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