5話 一言
5話です。
わずかな痛みがチクチクと背中を突き刺してくる中教室にたどり着く。
教室へ向かう道の途中、周りの生徒からすごい視線を感じた。これほど注目されることは人生の中でなかったのでどこか優越感があった。
ま、制服がボロボロだったから注目されてただけなんだけどな! あはははは
制服は悲鳴を上げているだろう。さっき壁に突き飛ばされ尻もちをついた際、地面が先日の雨で濡れていたということもありズボンそれにシャツにべちょっとした土がこびりついた。
正直こんな無様な姿を人に見られていると思うと泣きたい。
ちょっと前まで土遊びをしていた精神年齢5歳のでかぶつ、そう見えかねない俺は教室へと入る。
金髪男に別れたと言えと言われたが俺はそもそも付き合っていないのでそんなこと言わない。
もし俺が別れたと言おうと思っていても今の俺にそんな気力微塵も残っていない。金髪男になんか言われると思うがその時はその時で頑張ればいい。
「噂は嘘である」そうクラスの前で言いたかったが今は疲労しきっているので放課後に言おうと思う。
単に俺は校舎裏での一件によりこの疲れを一人の時間で癒したかった。
よって俺はそっと教室の端の自分の席へと座る。
一足先に戻っていた金髪男は俺に気付いていたらしく目で「やれ」と指図してきたが、俺は気づいていないふりをしながら5限目の英語の準備をして窓を眺めた。
授業の準備をすることによりどこかデジャブを感じる中、俺は窓の外の遥か高くを飛んでいるツバメに気をとられていた。
「ツバメって飛んでいるときって何考えてるんだろうね~」
そう言いながら俺の顔を覗き込む小さく可愛らしい顔。
「さあな、眠いとか考えてんじゃねーのか?」
そのいつも見慣れた顔に特に驚くこともなく淡々と返事する。
「それって、いつもハルが考えてることでしょ?!」
「いや違うな。 俺がいつも考えてるのは突然女子の制服がなくなったりしないかなーだ。 ふっ、十七年間一緒にいるのにそんなこともわからないとはまだまだ子供だな」
「うわっ、世界の女子の敵だ、最悪!」
そう言って肩をポカポカと叩いてくる。
こいつは俺の幼馴染の橘川 あかり。家が隣ということもあり、いつも一緒に遊んでいた間柄だ。このように高校も同じ。
とても小さなあかりだがなぜか大きく見えてしまう。なぜかではないな、理由は一目瞭然。
そう、胸だ。
この胸はもう富士山級と言ってもいい。やっぱエベレスト級だ
とにかくそれほどでかいのだ。
小学校、中学校ではそんなでただの小柄で可愛らしい女の子だったが、高校に入り突然急成長を果たした。
今ではその豊満な胸に釣られ告白してくる輩が急増中だ。俺はそんな胸にしか目がないくそみたいな奴らがあかりに引っ付かないよう日々目を光らせている。
「って、なんでこんな汚れてるの?! なに?! 泥遊びでもしてきたの?!」
やはりそう思われるらしい。
「いや、さっき派手に転んだだけだ」
「えー、大丈夫?! 怪我とかない?」
心配そうに制服の汚れた部分を見てくるあかり。
「大丈夫大丈夫。 こんなのたいしたことないから」
「そうかなぁ?」
このような幼馴染との何気ない会話。
そんな中クラスメイトのある一言が俺の耳に銃弾のようにズドンと撃ち込まれてくる。
「ねえねえ美里! 笠柳くんと付き合ってるって本当?!」
わぁお。これはヤベーな
この松島に問いかける大きな声の一言の前に教室中にいる全員が聞き耳を立てる。俺とあかりもまた例外ではなかった。
教室中が静寂に包まれ松島の声の舞台が用意される。
この舞台で松島が言う次の一言。これにより俺の今の状況が変わりそしてこれからの学校生活の善し悪しが決まる。
俺にとっての天国か地獄か。
この大事な局面においてクラスの男子たちは「付き合ってない」と言ってくれ、そう一心に願うだけだった。
俺もクラスの男子達同様心の底から願う。
金髪男も松島をじっと見てそわそわしていた。
そして、松島は問いかけてきた女子に向かって笑顔で、そしてどこか恥ずかしそうに言った。
「う、うん。 そ、そうだよ」
松島の一言がイナズマのように教室にいる全員に落ちる。
このイナズマにより·····
あははははははははは。
心の中で笑うことしかできない顔面蒼白な俺。
明らかに動揺を隠せていない金髪男。
世界が終わったみたいな顔をしているあかり。
「うわーーー!」、「お、終わった」、「カサヤナギコロス」
そう嘆くクラスの男子達。
ニヤニヤしている女子達。
クラスは様々な気持ち、考えで埋め尽くされていた。
そしてここから俺の壮絶な学校生活が始まる。
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