4話 校舎裏
4話です。
「あのぉ·····なんでしょうか?」
目の前の男の威圧感のある表情に自然と丁寧口調になる俺。
今の俺はネコに襲われているネズミと言ってもいいだろう。目の前の金髪イケメン男に「ネコ」という可愛く思える名前を付けるのは少し違う気がするが。
まあ、とにかくやばいのだ。
「あん? わかってるんだろ? おい!」
俺の胸元をごつごつした手で掴み自分のことを睨みつけてくる金髪の男。今にでも俺のシャツの第一ボタンがすっ飛んでいきそうだ。
こんな奴に俺の第一ボタンを渡してたまるか! この第一ボタンは卒業式に誰かにあげるためにある!
あ·····よく考えたら俺のを貰いたい人なんていないわ·····。
俺が自分自身をけなしている間に金髪の男は掴んでいる方の手首を回し、自分の身動きをとれないようにする。
俺は身の危険を感じ咄嗟に口から言葉が出る。
「え、い、いや何のことですか?!」
これは、自分は何も知らない、何も関わっていないという意思表示。この意思を汲み取り、去ってくれると嬉しい。
おそらくこの男は例のくそみたいな噂について聞きたいのだろう。じゃなければこの俺にこんなクラスのパリピ一軍が突っかかってくることなんてない。
だが、そんな意思表示も虚しく可憐に散っていく。
「お前、松島と付き合ってるんだってな」
「付き合ってないですよ! 何言ってるんですか、そんなことあるわけないじゃないですかぁ。 松島さんにふさわしいのはあなたぐらいしかいませんよ!」
俺は即座に否定する。これで収まってくれるといいのだが·····
「あ? そんな噓で俺を黙らせられると思ってんのか? 言っとくが、松島には俺が一番ふさわしいというのは当たり前だ。 お前みたいな何のとりえもない奴が松島と付き合うなんておこがましいんだよ。 だから、今すぐ別れろ。 別れなかったら·····分かってんだろうなぁ?」
どうやら金髪男は噂を完全に信じ切っているらしい。
しかも、なんかめんどくさいことになってんだが
「いや、だから付き合ってないですって。 これは噂ですよぉ」
「あ? クラスの奴全員がお前らのことをカップルだと思ってんだよ。 噂だろうが何だろうがとにかくクラス全員の前で別れたと言えよ。 なあ?」
金髪男はそう言うと俺の胸元を掴んでいた手で自分を壁に突き飛ばし、後ろにいた取り巻き二人を連れて去っていった。
周りに何もない校舎の裏で一人残される、憔悴しきった俺。
壁に勢い良く当たった背中がヒリヒリして痛い。
「いったっ」
背中を左手でさすりながら右手を使って立ち上がる。
壁によりかかりながら校舎の裏から出ようとふらふらする足で歩き出す。
「はぁぁぁ」
久しぶりに深く出るため息。
なぜだろう。ほんとについていない気がする。俺はただ普通に過ごしていただけなのに、なぜこんな噂ごときに振り回されなきゃならないのか。
おかげで身も心もボロボロだ。
この元凶となる噂を消すにはやはりクラスメイトの目の前でこの「噂は嘘である」という事を言うしかない。
金髪男は別れたと言って欲しいらしいが、そんなこと言ったら松島と俺が付き合っていたということになる。そんな事で松島の価値が下がって欲しくはない。
そもそも松島は嫌だろうから松島自身がこの噂をとっくに否定しているはずなんだけどな
確か、1~4限の内にそのような行動は見られなかった。
「う~ん」
俺の頭の中にはたくさんの疑問の中にもう一つ疑問が追加され訳が分からない状態になっていた。
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