18話 部屋
18話です。
「んん」
目を開けると豪華な装飾がされた板?が視界に入る。
「ん、ここは?」
寝起きで霞んでいる目をこすりながら、横たわっているらしい体を起こそうする。
「いたっっ」
しかし、腹、腕、足など体中至る所にしびれるような強い痛みが走り、起きようにも起きれなかった。
仕方なく俺は、今の自分の状況を確認するため、横たわった状態で周りを見ると、沢山の本が入った本棚や机、それに、窓とドアなどがあった。どうやら、どこかの部屋の一室らしい。
さっき、目に入った板のようなものを見ると、天井である事が分かる。
「どこだ? ここ」
俺は、自分の今おかれている状況が呑み込めないまま、オロオロとしていると左側にあるドアが開く。
「すみません、入ります」
ドアを開けた人物は、まだ、自分が寝ていると思っているらしく小声でそう言いながらこの一室に入ってきた。
当然俺は起きているので目はパッチリと開いている。俺の視線とその人物の視線が交差する。
「あ、お、起きていたんですね」
「松島さん?」
「は、はい!」」
その人物というのはさっきまで話していたはずの松島。松島を見て寝ていた前の記憶が鮮明によみがえってくる。
確か、俺はあの黒服にボコボコにされたんだよな·····
段々と寝ていた前の記憶とこの状況が、謎の体の痛みや今いるこのゴージャスで華やかな部屋、目の前にいる松島から繋がっていく。
「ここは、松島さんの家?」
「は、はい」
松島の家に今俺はお邪魔しているらしい。この状況。さぞかし他の男子はうらやむであろう。だが、俺には鬼のアジトで閉じ込められているようにしか感じない。
あの黒服はおそらく松島の護衛役。ということはこの松島の家にもわんさかいるだろう。考えただけでゾッとする。
普通のボディーガードは守る人の近くにいた人を何も無い限り、殴ったりはしないはずなんだけどな
「ほんとにすみませんでした!」
松島は頭を下げる。
「え、あ、ああ」
「あの黒い服を着た人たちは、私のボディーガードなんですけど父から『命令』のようなものを受けていて」
「命令?」
「はい·····そ、その『命令』の内容というのが、私に近づく男子は全て消し去れ、というもので·····」
「あ、それは、あはは」
なんとなく松島の父親の事が分かり、愛想笑いしかできない。
「と、とにかく、ほんとに申し訳ありませんでした!」
「そ、そんな謝んなくて大丈夫だから」
松島が再度、頭を下げようとするので焦って止める。
この「校舎裏黒服暴行事件」に関しては松島は別に悪くない。悪いのは九割方、松島の父親だ。
あやつは許さん。今にでも殴り込みに行きたい。といっても、まあ、今は怪我をしてるから一旦家に帰ってまた今度·····べ、別にあれだからな。権力にビビってるとかじゃないからな。この理由はしっかり筋が通ってるし、今度行くから!·····たぶん
俺は、体中のヒリヒリした痛みに、多少は慣れてきていたので、手と腕に力を籠めベッドから降り、ふらふらしながらも立ち上がる。
「じゃ、じゃあ、一旦帰らせてもらうよ。 少しの間だけどお世話になりました」
「だ、大丈夫なんですか?!」
「寝て、それなりには回復したから」
俺は、袖をめくり「ほら」と言いながら、腕に力を籠め筋肉のこぶをつけ、松島に見せつける。この行為に自分は回復しているという根拠は何一つないのだが、まあ、やらないよりはいいだろう。
「笠柳くんがいいというのなら止めはしませんけど」
「じゃあ、また今度!」
松島といると気まずい、ボディーガードが嫌だ。そんな心にあるものたちが俺を奮い立たせたのだろう。まだ痛みで歩けないはずの足が少しだが動いた。
松島が心配そうに俺を見守る中、千鳥足でドアの前まで行きドアノブに手をかけた。
そして、ドアノブをひねろうとしたのだがそれよりも先に向こう側からひねられた。
「うおっっ」
突然ドアが開いたことにより前に倒れ込むが、俺の顔は床には当たらずなにか柔らかいものに当たる。
「ひょれは?」
顔を柔らかいものに包まれながら口をもがもがさせ、手で柔らかいものを触ると、
「ひゃっ」
と女性の声。
「ふぇ?」
柔らかいもの、女性の悲鳴。もう分かっている、分かっているんだ。
しかし、これをどう脱すればいいだろうか?ごめんなさいで済む話ではないだろう。どう切り抜けようが、もうギルティなのだ。
俺は、柔らかい胸に抱擁されている自分の顔を上げ、光のような速さで土下座する。
「すみませんでしたっっっ!!!」
渾身の謝罪。こんな土下座するのは初めてである。
「最低です。 こんなゴミくずとお嬢様が同じ部屋にいたなんてお嬢様が可哀想」
土下座が効いたのかわからないが、ビンタなどの物理的攻撃は免れた。
でも、ゴミくずはないでしょ·····
俺は、土下座をやめ、その場で豊満な胸の持ち主を見上げると、そこには黒いリボンが首元についているメイド服を身に付けたとても「綺麗」という言葉が似合う女性。
「し、静香っ! い、今のは静香が悪いよ!」
「いえ、ドアを開けたらこいつが飛び込んできたんです。 というかこいつ何も失っていないじゃないですか」
「い、いや、でも·····」
俺に対しは悪いが、この丁寧な口調は完全にメイドだろう。
俺は、さっきメイドの胸にうずくまっていたのか·····
そう考えると少し興奮を覚えてしまう。
「そんなことよりも、お嬢様。 幸二様がお呼びです」
俺の鼻息が少し荒くなっている中、この『幸二』という言葉が出ると、場の雰囲気が凍りついた。総じて、俺の興奮状態も止まる。
「お、お父さんが? な、なんで今?」
松島の声が明らかにさっきより沈んでいる。
さらにそこに追い打ちをかけるようにメイドは口を開く。
「あ、もう一つ伝言がありました。 『笠柳くんもつれてこい』とのことです」
「はぁぁぁぁぁ?!?!?!」
メイドの言った事の意味が分からず叫ぶ俺。部屋中に俺の声が響き渡る。
「な、なんで、お、俺が?」
「私も内容は知りませんが、先程会った時はどこかイラついていたように見えました」
「いや、ちょっと待て。 俺何かしたか?! 松島さんに危害も何も加えてないと思うんですけど!」
「私は、伝言を伝えましたので帰らせてもらいます」
「は? え、いや、ちょ、ちょっと!」
ばたんっ。
メイドが出ていったこの部屋には何とも言えない静寂が残る。
しかし、部屋の様子とは真反対に、超絶慌てている男が一人。
心の中は荒れていた。
やばい、やばい。これはやばいぞ。さっきから思っていたことだが完全、松島の父親は、娘を溺愛している。そしてさっきメイドが言っていたがイラついているらしい·····
もう完全、ゲームオーバーじゃねーか?!
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