15話 好き
15話です。
キリが悪い、キリが悪いと思い、書いていたらいつの間にか2800文字·····。
「は、初めまして! ま、松島 美里と申します! す、好きな食べ物はっ、え、えっと、お寿司でっ、好きな──」
俺の50センチ程前に立つと、とても可愛らしく守ってあげたくなるような声で自己紹介をし出す松島。
「お、おい、ちょっと待て」
いきなりの自己紹介に戸惑いを覚えながら咄嗟に松島の暴走を止める。
「は、はい!」
謎すぎる。自分から俺と付き合っているとクラスで公言しているのにも関わらず、俺の前では付き合っているような態度で接してこない·····
ますます、何が目的で俺と付き合っているなんて言ったのかが分からなくなってくる。怒りも訳の分からない方向に向かっている気がしてきた。
俺は相手のペースに呑まれないよう、松島を追い詰めるような前のめりな体勢になり、重く緊張感のある声で言い放つ。
「おい松島、さん、なんであんなこと言った?」
自分の中では「松島」と呼んでいたため、「さん」を後付けしたが、さん付けしているのに何故か敬語にはしていないという変な感じの言い方になってしまった。
が、俺はそんな事気にせず今発した質問に対しての答えに夢中だった。
「え、えっと·····か、か、か·····」
「か?」
「か、か·····」
「か?」
松島の口から続けて出てくる「か」の意味が分からず聞き返すが一向に「か」に続く言葉が出てこない。
「か、か、笠柳くん!」
「お、俺?」
まさかの自分の名前が出てくることに多少驚いたが、自分に関わる質問でもあるので別におかしくは無い。
俺は顔をしかめていたが、そんな俺の様子とは反対に松島は顔を赤くしながら何か必死に言おうとしていた。
「大丈夫か?」
「は、はひぃ!」
顔が湯気が出ているのではないかと思う程赤くなり、変な声をだす始末。今鳴いているカラスの方がまともに話せているのではないだろうか。
右の校舎と左の校舎の間の空から聞こえてくるカラスの鳴き声は反響しながらもちりじりになり消えていく。
それと同時に松島の顔の赤さもひいていった。
そして、松島は急に真面目な顔になりさっきまで俯いていた顔を上げ俺と目を合わせる。
「か、笠柳くんの事がす、好きだからです!」
Suki? 松島が俺を·····好き·····。 ふむふむ、好きねー。 好きってなんだっけ。 好き·····好き·····好き?!?! 松島が俺を?!
俺の表情はしかめっ面からさっきの松島のような赤みを帯びる。
「す、好きって! からかったりしたらいけないよ松島さん。 そういうのはしっかり本当の好きな人に言わなきゃダメだから」
「だ、だから·····本当の好きな人が、か、笠柳くんなんです!」
「·····マジ?」
「ま、まじです」
松島の声色でなんとなく本当なんだなと察する俺。
頭では唐突のスクープに、ニュースが流れていた。
『速報です! 先日、この体の当事者、笠柳 春樹氏と付き合っていると嘘をついていた松島 美里氏は本当に笠柳氏を好きだということが発覚致しました! 本当におめでとうございます! これはもうすぐでご結──』
やめろごるらぁぁぁ!!!
流れるニュースをシャットアウトする。
俺は状況を整理できないでいた。
「なんで、俺の事をその·····好きになったんだ?」
この理由がしっかりしていないとまた嘘であることが露呈するかもしれない。どうにかして、この事実を無かったことにしようとする。
「えっと、恥ずかしいですけど、その、私、お父さんが松島書店の社長でお父さんが「社会経験」というていで支店のアルバイトを週に2回ぐらいしてるんですが」
松島書店。それは今ノリに乗っていて規模がどんどん大きくなっている本屋である。うちの近くにもあり、よく行っている。
「私がアルバイトしている時間に決まって来ている男の人がいて、その人色々と助けてくれて·····いつの間にか·····好きになっていたんです」
真面目な顔から一変、また顔を赤くしながら照れる松島。
ん? その話の一体何が俺に·····。
首を傾げながら考える。
あ·····いや、あるわ。 確か·····あの時は学校の帰り·····。
◇
『いや、最近甘々ラブコメ多すぎだろ。 糖分がバンバン流れ込んできてヤバいんすけど』
俺はある日、家の近くの松島書店でラブコメのライトノベルを漁りながら独り言を呟いていた。いつもの娯楽である。
そんないつもの楽しい日常で、事件は起きた。
ガタガタガッターん。 ドンッ。
『きゃっ』
隣から聞こえてくるのは本が何冊も落ちる音と女の子の悲鳴。
俺は気になって隣を見るとそこには沢山の(冊数にしておよそ50はあるだろうか)床に落ちている本達とそれと同じように倒れている俺と同じ歳ぐらいの女の子。
整理しようとしたら間違えて、こけて本ごと落としてしまったのだろう。
気がつけば俺の体は動いていた。
『大丈夫ですか?』
そう言いながら尻もちをついている彼女に手を差し伸べる。
すると、女の子はキョトンとしながら微笑んだ。
『あ、ありがとうございます。 でも大丈夫ですのでお構いなく』
見るからに大丈夫ではない。さっきドンって音もしていた。とても痛いだろう。
俺はその彼女が立ち上がろうとするために使っているの彼女の手を自分の手で拾い上げ、体を支えるようにして立たせてあげた。
『あっ、あ、ありがとうございます。 すみません、こんなことしてもらって』
申し訳なさそうに女の子は言う。
『いえいえ、自分はあくまで客ですので。 いつも本を整理整頓して下さっている店員さんが、困っていたら助けるものですよ』
俺はあくまで客。買わせてくれているのだから店員さんを助けるのは当然。俺は謝られる立場でもない。
『え、で、でも·····』
戸惑う彼女をよそに俺は辺りいっぱいに散らかっている本を拾い、元々あった位置に戻していく。
『だ、大丈夫ですよ! そこまでやんなくても! 本当に私の不注意でこうなってしまったので申し訳ないです!』
『いや、だから·····』
彼女は人の善意というものを知らないのだろうか? 普通、人が困っていたら助けるのは当然だろう。
ここまで申し訳なさそうにされると逆に気分が悪くなってくる。
俺は、客だから普通と言っても無理だと思い、他の理由で手伝っているということにした。
『いや、本当の事を言うと、さっきこの棚の本をいじってたんです。 たぶん、戻し方が雑だったから落ちてしまったと思うんです。 だからこれは俺の責任です』
『え、で、でもさっきまで·····』
『はい! もうこの話は終わり! とにかく自分がやりますのでそこら辺で休んどいて下さい!』
『え、は、はい』
彼女はすぐ近くにあるレジに戻っていった。
俺は素早い動きで本をパッパパッパと入れていく。無我夢中でやっているといつの間にか終わっていた。
『終わったので自分は帰ります』
彼女のいるレジで、買おうとする本を出す。
俺が彼女の前に出した本を見て彼女は目を丸くした。
『え、でもこれ·····』
『時間がないので早くしてくれると嬉しいのですが』
『は、はい』
その日、帰り道を歩く俺の手元にあったのは表紙の折れた詩集だった。
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