13話 決意
13話です。
──薄暗い場所·····そこでは·····
「おい松島、さん、なんであんなこと言った?」
心の奥底を抉るようなずっしりと重い声が発せられていた。
────────
「はぁぁ〜〜」
ため息をつきながら学校の古くさい机に項垂れる俺。
あの遅刻の後、俺と火神は生徒指導室に入れられ、鬼塚の怒声を散々聞かされた挙句、教室に行くと沢山浴びせられた白い目。
生き地獄という名に相応しいぐらいだ。
「ごめんね。 僕が話をしたせいで遅刻になっちゃって」
俺の前には火神が立っている。
周りから見たら普段浮いている火神とただの空気な俺、いや、今は松島と付き合っている空気な俺、か。 その意外な二人の集まりに目が点になっているだろう。
前に立つ火神は俺を見ながら申し訳なさそうなオーラを出している。
天使に何謝らせてるんだ? 俺
天使に謝られるほどの地位ではない。もはや、俺が日々謝ってもいいほど。
「いや、遅刻ギリギリの電車に乗る俺が悪いから。 というか、俺が質問したせいで火神も遅れたんだから元凶は俺だし、謝るのはこっち」
項垂れた体を起こしながら言う。
元はと言えば、俺が遅刻ギリギリの時間で焦っている中、興味本位であんな質問したのが悪い。だから、火神が謝る必要は全くないわけだ。
「まあ、それはそうだけど·····」
「てか、驚いたな〜。 夜、遊んで遅刻しまくるただのバカだと思ってたヤツがまさかの母を支えるため、弟の面倒を見る優男だったとは、もうさすがの俺もびっくりぽんだよ」
火神の言葉を遮るように言う。さっきから思っていることだが火神はとことんまでのお人好し。あの言葉に続くのは、また謝罪の言葉だろう。
火神は本当に悪くないので、俺は、自然になるよう話を変えた。
「いやいや、そんな大層な事してないよ」
火神は天使の微笑みを俺に繰り出す。
うほっっ。
効果抜群だ。
この笑顔はもちろんのこと、それと共に繰り出したセリフ、
『そんな大層なことはしてないよ』
くぅぅぅぅぅー!
一回は言ってみたい超イケメンなセリフをサラッと出す火神。もう、惚れてしまうかもしれん。
「そんな謙遜したら体に毒だぞ?」
いや、完全、俺の体に毒である。
「あははっ、謙遜なんてそんな」
こんな風に自然に話しているが、こんな友達らしい会話をしたのは何年ぶりだろうか?いや、何年ぶりとかではない。初である。
今は昼休みということもあり、教室では友達同士で会話をしている輩が多いので、重要なことでも周りの声でかき消されるのでこんな俺でも話せている。
火神が優男だって事はみんなに知って欲しいけどな
そんな大きな、重要な声でも周りの声でかき消される教室でも、一つかき消され無いものがある。
それはなにか?
人というのは自分に関係の無い話は聞こうとしても聞かない。だから、周りで喋っている全くと言っていいほど関係の無い話は自然と耳に入ってこない。
つまり、周りの声でかき消されているのでは無く、ただ単に自分の脳がその自分に関係の無い話を勝手にかき消しているという訳だ。
ということは、自分のことについて話されている会話は自然と耳に入ってくるということ。
俺の耳にはさっきから必死に無視していたが、莫大な量の会話が入ってきており鼓膜が破裂しそうだった。
「美里ー。 彼氏とはどうなのー?」
「き、昨日、聞いてたのに、ま、またその話·····?」
「いいじゃん、いいじゃん。 ウチらは美里の惚気話を聞きたいの。 ウチらは恋に飢えてるの!!!」
「そ、そんな堂々と言われても·····」
「はい! 早く! どぞ!」
「て、手を繋いだ·····かな?」
「「「きゃーーー!!! 青春!!!」」」
おーい! もうやめて。 その俺に関する話をなんで俺のいる教室でやるのかな? しっかり考えよう? そのきゃーきゃー騒いでる三人。 俺の気持ち考えよう、な?
あと、なんで松島はあんなこと言ってんのかな? 手とか繋いでないんだけど。 てか、まだ、話したことも無いし、そもそも付き合ってないから!!!
もう、放課後ガツンと言おう。 昨日そのつもりだったし。 まだ、俺の怒りは収まってないからな。
俺はそっと息を吸い、火神のとの会話に戻りながらも、机の下でスマホをいじる。
そのスマホの画面に映し出されていた言葉は、
『4時20分に昇降口近くの校舎裏に来い』
自分は怒っているぞ、という雰囲気を出すために命令形にしておいた。
その頃、あかりはくしゃみが止まらなかったという。
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