12話 登校時間
12話です。
俺が出した質問に対し火神は少し走るペースをゆるめて答えた。
俺も火神のペースに合わせて耳を傾ける。
「僕、早いうちにお父さんが病気で亡くなっちゃってね。 母子家庭なんだよ」
「え、初めて知った」
「まあ、クラスの人には言ってないからね。 笠柳くんが初めてだよ」
話を続けようとする火神の邪魔をしないように控えめな声で驚いたが、聞こえていたらしい。
俺が初めて? 初めてって·····
若干、変態的思想が入りそうになる俺だったが、なんか今そんな事考えたらいけないような気がしたので必死に食い止めた。俺は変なことを考えると一気に頭の中がそっち方面のことでいっぱいになってしまうので要注意だ。
当然そんな俺の頭の中を軸にして地球は回っているわけではないので火神の話は進んでいく。
「で、5歳の弟がいるんだけど、お母さんは仕事で忙くて朝早くから会社行っちゃうから、弟の保育園の送り迎えとか朝ご飯の支度とか全て僕がやってるんだ。 だから朝どうしても遅くなっちゃうわけ」
なにこの子! チョーいい子なんだけど?! ごめんなさい、ごめんなさい、理由をゲームとかの遊びか何かとてっきり勘違いしてました
「ごめん、なんか遊びとかでいつも遅刻とかしてるんだと思ってた。 本当すまん!」
走りながら手を合わせながら謝る。心の中でも平謝り状態だ。
こんなにもお母さんを支えるために自分の登校時間も削って頑張っている心優しい少年を「遅刻大魔王」なんておこがましい! 火神はただの「優男」だ! 俺の遅刻理由なんて寝坊だぞ?! 本当の「遅刻大魔王」は俺じゃないか春樹! なんて俺はバカなんだ·····
「いやいや、遅刻しているのは変わりないから。 あと別にそう思われても仕方ないよ、僕が言ってないだけなんだし」
俺の心を読み取っているのだろうか? なんか泣けてきたんだけど。 やばい、天使に見えてきた。 後ろから羽生えてるよね?
火神の天使のような優しさに触れ幻覚が見え出すようになる俺。
しかし、その幻覚をかき消すように前に見えてくるのは我らが陽向高校。
「ついたぁ」
「そうだね」
遂についたのだ。まだ8時20分になる鐘はなっていない。
体力はもう時間的にもない気がするのだが自然と力があふれてくる。ピンチになった時覚醒するヒーローの気持ちが今なら分かるような気がする。自分の身体はまだ諦めるなと言いたいのだろう。
俺は自分の身体の期待に応えるように走り出す。平行するように火神も息が上がりながらも俺に食らいつきさっきと同じ微笑みを浮かべている
そして校門を潜り抜け昇降口へと向かう。昇降口への道で砂煙が俺の足音と共に舞う。
「はっはっはっ」
「はっふっはっ」
二人の息を吸う音がシンクロするように道で響く。
あと、昇降口まで20メートル、いや10メートルかもしれない。もうそれほど近い。
おし!
未だ鐘はなっていない。これで昇降口を通り抜ければ取りあえずはいける。昇降口に入った後鳴った時は金本先生だからごまかせば行けるのだ。
問題はそう、昇降口。見えるように生徒指導の鬼、鬼塚がまるで姫を守る門番のように堂々と佇んでいる。
この鬼塚の隣を鐘が鳴らないうちに通り抜ければいい。今の鬼塚との距離は2メートルにも満たない。
これは行ける、そう確信した。
「おはようござ──────」
キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン。
「おい! お前らぁぁぁ遅刻だぁぁぁ!!! みっちり次は遅刻できないように教育してやる!!!」
あはは、分かってたよ。そんな奇跡起こらないって。
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