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9章 デビルとの初対決

トムはアイルに剣をプレゼントしてくれた。

その帰り道、デビルが現れる。

 9章 デビルとの初対決




 翌日、(ふもと)の村から少し行った所にある隣村の鍛冶屋に来ていた。 トムがアイルに剣をプレゼントしてくれるそうだ。


「ここのおやじの[ダグ」は鍛冶の腕は確かじゃ。 昔は王都にいて、わしも世話になっておった」


 中に入ると小柄でガッチリした体格のダグが出てきた。


「あぁ、いらっしゃい! ハミルトン殿、できてますぞ。 ちょっとお待ちを」


 ダグは鞘ベルトの付いた一振りの剣を持ってきた。



 てっきり中古の剣を買ってくれるのだと思っていたのに、ピカピカの新品だ。 

 無駄な装飾はないが濃い藍色の黒光りするシンプルな剣だったが、そこがまた気に入った。



「腰に下げてみろ」



 トムから剣を渡され、嬉々として腰に着けた。 そして剣をスラリと抜いてみた。


 今まではトムの剣を使っていたので、それに比べると柄が細くて握りやすく、前から使っていたかのように手に馴染む。 


「アイルの身長だともう少し短めの剣の方がいいのじゃが、あえて短くせんかった。 わしの剣で慣れているから、充分に扱えるじゃろう。 それに、わざと少し重めにしてもろうた。 アイルの腕力ならそれ位の重さがあれば少しの力で遠心力を使って振る事ができる。 逆に楽になるはずじゃ」


 アイルは軽く振ってみる。


「わぁ······」


 凄い。 こんなに違うのかと思うほど振りやすかった。


「先生! ありがとうございます!」


 アイルは本当に嬉しそうにニッコリと笑った。


「ハハハハハ! 本当に気に入ってもらえたようじゃのう。 お陰でアイルの笑った顔を初めて見たぞ。 これでもう思い残すことはないのう。ハハハハハ!」

「ハミルトン殿、縁起でもない。 しかしこの重い剣を軽々と振るとは······たいしたもんだ」

「そうじゃろ? こやつは並みの奴とは違うからのう。 ハハハハハ!」


 トムも至極ご機嫌である。


「弟子を取らないので有名だったハミルトン殿が心変わりするわけですな」

「また何かあれば、よろしく頼むぞ」

「なんなりと」


 ダグは大袈裟に頭を下げた。



 ◇



 隣村まで行ったので、山の麓に着いた頃には日が落ちていた。


 アイルは子供がオモチャを貰った時のように、時々思い出したように剣を抜いて振ってみては感触を楽しんでいる。

 そんなアイルをトムは微笑ましく見ていた。



 こんなアイルは初めて見た。 トムの元に来て半年以上が過ぎているにも関わらず、一度も笑うことなく、最小限の言葉しか話さないこの少年は、いまだに心の傷と戦っている。

 現に、よく夜中にうなされている事があるのだ。 


 一日も早く心の傷を癒してあげたいものだと常から思っていた。


 しかし、今日のアイルは普通の13歳の少年そのものだ。 

 このままもう少し心を開いてくれることを期待した。



 ◇



 山の中腹辺りまで来た時、アイルは異様な気配を感じた。


「先生、何かいます」


 トムは足を止め、周りを見回す。 自分には分からないが、感覚の鋭いアイルがそういうなら必ず何かいるはずだ。


「油断するな」

「はい」



 何かいる。 しかし獣ではない。 



 こちらの様子を(うかが)っているように感じる。


 

 すぐ横の暗闇から突然赤い瞳が飛び出してきた。 アイルは剣を抜きざま横に切った。


 確かに手ごたえはあったはずなのに、それは平気で飛び続ける。 よく見ると切った個所を黒い霧のようなものが覆い、傷が塞がる。


「デビルじゃ!! 気を付けろ! 普通に切っても直ぐに再生する。 首を切り落とすか胴体を真っ二つにする以外、倒す(すべ)はないぞ!」

「はい!」



 アイルはデビルを追って飛び上がる。 しかしギリギリのところで(かわ)された。 木の太い枝に足を着き、再び飛び上がり剣をふるうが、またしても(かわ)される。


「むやみに飛び上がるな! 相手の動きをよく見るんじゃ! わぁ~っ!!」


 下を見ると、どこからともなく現れたもう一体のデビルがトムに噛みつき、付け根辺りから腕を食いちぎった。 対峙しているデビルに気を取られ、気付かなかった。


「先生!!!」


 慌てて下に飛び降りる。 トムは片腕を食いちぎられ、うめいている。


「大丈夫ですか!!」

「気を散じるな! 来るぞ!」トムが声を絞り出す。



 振り返ると食いちぎったトムの腕を抱えたデビルが、大きな口を開けてすぐ目の前まで来ていた。

 アイルが剣を横に払いデビルの首を落とすと、ブワッと黒い霧になって消え、トムの腕だけが地面にドスッと落ちた。 


 直ぐにもう一体が襲い掛かる。


 一歩横に(かわ)して、剣を振り下ろしてデビルの腕を切り落としたがすぐに元に戻った。


 トムを見ると腕から未だに血が吹き出し、心臓の鼓動がかすかになってきている。


「先生!!」


 今度は返事がない。


「うおぉぉぉぉ~~~っ!!」


 アイルの周りに風が吹き荒れ始めた。 木々を揺らし、葉が渦巻く。


 デビルがその風にあおられ、バランスを崩したところを、すかさず飛び寄り胴体をザン! と真っ二つに切った。


 2体目が霧となって消えるのを確認することもなく、慌ててトムに駆け寄った。


「先生!!」


 トムの頭をそっと抱き上げて膝に乗せ、食いちぎられた傷口を押さえる。


「倒し···たか?」

「はい」

「もう···いないか······確認···したか···」

「·········」アイルは周りの気配を探る。


「大丈夫です」

「ふむ···よい···教訓じゃったな······戦う相手···のみに集中するな······常に···周りの気配に···気を···配るのじゃ······そして···倒したからと···安心······するな。 必ず仲間が···いないか·····確認を······怠るな」

「はい! 先生! すみません!!」


 アイルはトムの傷口を押さえながら、流れ出る涙を止めようともしない。


「あと一つ······最後の······訓練じゃ······」


 トムはアイルの膝の上から、ポタポタ涙が落ちてくる顔を見上げた。


「なん···ですか」


 泣きじゃくり、消え入るような声で答える。


「わしが······死んでも···心をしっかりと······コントロールし··········決して暴走させるな······いいな·······」

「先生! 死なないでください! 死んじゃやだ!!」

「へん······じ······は?······」

「···はい···」

「ふむ············」


 トムの心臓の鼓動が次第にゆっくりになり、そして聞こえなくなった。


「······ごめんなさい······」


 アイルは目を閉じてトムをギュッと抱きしめたまま、しばらくの間動く事が出来なかった。



 少しでも動くと心を暴走させてしまいそうで、必死で堪えた。




 トムの教えの通りに。




 空が明るくなってきた頃、やっと顔を上げた。


 トムの体を抱き上げ、ちぎられた腕を拾い上げて、家に向かった。



 庭にトムを埋めて墓を作った。


 トムの剣を刺して墓標とし、水とパンと、近くで摘んできた花を供えた。



 着替えてから家の中の整理をし、荷物をまとめてからもう一度墓の前に立った。


「先生······ありがとうございました」


 アイルは深く頭を下げると、山を降りて行った。



 ◇



 麓の村の商店の女店主に事の次第を話すと、愕然としていた。



 その後すぐに隣村の鍛冶屋のダグの所に行った。


 ダグもショックを受けていたが、デビルを倒すためのロングソードが欲しいと言うと、すぐに受けてくれた。



 デビル退治に使うなら、(はがね)魔鉱(まこう)を混ぜるとデビルの傷が癒えにくくなると聞いた。 しかし、かなり重くなるそうだが、アイルにとっては問題にならない。 なので魔鉱を多く混ぜてもらうようにお願いした。



 ◇



 数日経って、ロングソードが出来上がった。



 重さは気にならない。


 柄も合わせると150㎝ほどあり、かなり長いので扱いが難しそうだが少し練習さえすれば問題ないだろう。


 代金を払おうとすると、断られた。 



「一体でも多くのデビルを倒して、ハミルトン殿の無念を晴らしてくれ」



 そうダグにお願いされた。




 アイルは深々と頭を下げてから、この村を後にした。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ


〈元友人〉

ゴルド・レイクロー(悪魔に心を乗っ取られた男)


〈先生〉

トム・ハミルトン (元将軍)


〈鍛冶師〉

ダグ



次章から、現在に戻ります。

そして、ヒロインとの出逢いが訪れます。

( 〃▽〃)

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