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6章 因縁

エルオゼア国王から呼び出されたアイル(レイス)は、ゴルドと対面する。

 6章 因縁




 城の大きな正門を潜り抜け、美しく造園された庭の長い道を進み、広いエントランスを通り抜けた。 

 開け放たれた大きな扉の先の広い部屋の奥の方に、既に玉座に座っている国王の姿がチラリと見えた。




 その部屋の前には数人の兵士が待ち構えている。


「申し訳ございません。 この部屋には武器の携帯はご遠慮願っています」


 アイルに若い兵士が両手を前に差し出す。 剣を渡せという事だろう。


 アイルは腰の剣と背中に担ぐロングソードをその兵士に渡した。

 その兵士はその重さに、前のめりに倒れそうになりながら、大事そうに二振りの剣を抱えた。


「お帰りの際には、必ずお返しいたします」


 ちょっと緊張した風に囁く。



 ()()()をはじめ、横の兵士達も少し首をひねりながら剣を外して他の兵士に渡している。



 兵士達と一緒に中へ入ると、後ろで大きな扉がバタン!と大きな音を出して閉まり、ガチャンと鍵が閉まる音がした。






 かなり広い部屋だ。 高い天井には大きなシャンデリアが幾つも吊され、いくつも並ぶ大きな窓の間に美しい絵画や巨大な壺が並べられていて、国王の威厳を見せつけているように思える。

 そして部屋の壁際には、2m間隔で沢山の兵士がずらりと並んでいたが、護衛の兵士であるはずなのに、なぜか剣を携帯していない。



 城の中などに入った事もないアイルは、これが普通の事なのだろうと思っていた。



 奥の王座に国王が座っている。 ポッチャリと太って貫禄はありそうなのに、威厳も何もなく、しきりに目を泳がせ、少し怯えた風にも見える。 そして横にはこれまた豪華で立派な誰も座っていない椅子が置いてあった。



 国王の前に行くと、()()()と連行してきた兵士達が膝をついた。 アイルもそれに(なら)う。



「エンデビ殿をお連れしました」

「お···お(ぬし)がエンデビか?」

「はい」アイルは俯いたまま答える。


「で···ではお(ぬし)の名はレ···レイス・フォレストか?」

「?!」


 なぜ本名を知っているのかとアイルは顔を上げて国王の顔を見た。 するとなぜか国王はビクッとして、今にも泣き出しそうな顔をしている。


 どういうことだと思っていたら、王座の裏から声がした。




「久しぶりだな」




 全身、戦慄で震えた。



 思わず剣があるはずの腰に手をやる。


 垂れ幕の後ろからゆっくりと顔を出したのは、両親を目の前で殺した男。

 未だに悪夢にうなされ、恐ろしい現実を思い出させる男。

 平和だった世界を一瞬で崩壊させた男、ゴルドだ!!



「ほぉ~、まだ抑え込んでいるのか。 相当な精神力だな。 褒めてやるぞ。 しかしなぜマスクなど付けているんだ? 強盗でもするのか? ハハハハハ!」



 ゴルドは王座の横に置いてある豪華な椅子にドカッと座り、片膝を立てて大きく口を開けて笑う。 その口にはチラリと牙が見えた。




「ゴルド、お前はどっちだ」

「どっち? 俺は俺だよ」

「あの日のお前か! その前のお前か!」

「あぁ、そういう事なら、どっちもだ。 完全に融合したんだ。 楽しいぞぉ~~何でも思いのままだ。 ()()()早く出て来いよ」


 ゴルドが出て来いという相手が何なのか大体分かる。 しかし、出す気はない。 いや、決して出すわけにはいかない。



「なぜ両親を殺した」



 アイルは睨みつけながら絞り出すように聞く。


「そんなもの聞かなくても分かっているだろ? ()()を頑固な奴の中から引っ張り出すためだ。 お陰で力だけは出てきただろう? 噂は聞いたよ。 [エンデビ]と名乗っているそうだな。 笑えるぞ。 しかしもういいから本体も出て来いよ!」

「バカな事を言うな!」

「じゃあ、出してやるよ」


 ゴルドはアイルのすぐ横にいる兵士に向かって手のひらを差し出した。


 ドン!


 音と共に、隣の兵士の頭が吹き飛んだ。

 

「わっ!!」


 まわりの兵士達もざわつき、()()()はその崩れ落ちていく兵士を見て凍り付いている。


「これくらいじゃダメか? これでどうだ?」


 今後は壁際に立っている兵士の1人に手のひらを向ける。


「やめろぉ!!」


 アイルはゴルドの標的にされて(おび)えるその兵士の前に飛んだ。 ドン!という音と共に顔の前でクロスする腕に激しい衝撃があり、アイルは兵士と共に壁に叩きつけられる。 

 倒れた兵士を見ると、まだ息があり、ホッとした。


「ハハハハハ! そう来ると思ったぞ。 じゃあ、これでどうだ!」


 ドン! ドン! ドン!


 次々に手から気砲を放つ。 アイルはその度に兵士の前に立つが、間に合わない。


「やめろぉ~~~~~っ!!」


 アイルはゴルドに向かって飛び、ニタニタ笑うゴルドの顔を思い切り殴った。

 ゴルドは王座の後ろの壁に叩きつけられて幕の奥に倒れて見えなくなった。



 自分のせいでゴルドはこの人達に攻撃をしているのだ。 自分がいなくなればこの人達は殺されない! 



 ここから逃げなくては!!



 アイルはドアに向かって走る。 しかしあと少しの所で、いつの間にか横に来ていたゴルドに腕を掴まれ、天井に向かって放り投げられた。


 ガシャガシャン!


 アイルがぶつかりシャンデリアが砕け散る。 砕けた破片と共に床にストンと降りると同時に、再びゴルドに向かって飛んだ。


 体当たりをしようとしたがヒラリとかわされ、直ぐに回し蹴りをすると、腕でガードされた。


「ハハハハハ! 昔から運動では(ゴルド)には敵わなかっただろう! いや、それ以前に完全に主導権を握った俺に敵う訳がない。 さっきのパンチはワザと受けてやったのだが、全然効かなかったぞ。 どうする? ()()()()()()を出せ! そうすれば俺に勝てるぞ!」


 次々に繰り出すアイルの技をかわしながら、ゴルドは楽しそうに喋り続ける。


「怒れ! もっと怒れ! そして中の奴と代わってやれよ」


 アイルと戦いながらも、合間に逃げ惑う兵士達に気砲を打ち続ける。


「やめろぉ~~~~っ!!」


 アイルの口元に牙が生え始めた。




 自分に出来うる限りの技を繰り出すが、ゴルドにはまるで敵わない。 大人と子供のように軽くかわされていく。



 また一人の兵士に気砲が命中し、顔が半分吹き飛んで、ドウッ!と後ろに倒れる。 


 アイルがその兵士に一瞬気を取られた隙に腹をけり上げられて王座の上の壁まで飛ばされた。 そのまま壁に叩きつけられて、国王のすぐ横にドドンと落ちた。


「助けてくれ······頼む······私を···この国を、助けてくれ」


 国王が小さな声で囁く。 しかし、今のアイルに助ける術などあるはずもない。



「ハハハハハ! ハハハハハ!」


 アイルが倒れている隙にゴルドは次々と逃げ惑う兵士達を殺してゆく。



「ゴォ~ルゥ~ドォ~~~ッ!!」



 その時、広間の中に風が吹き始めた。 割れたシャンデリアや壺の破片が舞い上がり、凶器となって兵士達に襲い掛かる。


 アイルの瞳が明るいブルーから燃えるような赤に変わり始めた。


 風はどんどん強くなり、大きく渦巻き始めた。 そして所々にポツポツと炎が現れ始めたのだ。


 


――― ダメだ! この人達を殺してしまう! ダメだ! 炎を出してはダメだ! この城を焼いてしまう。 多くの人を殺してしまう!! ―――




 しかし、風は勢いを増し白く濁った風の中に赤い炎をちらつかせながら渦を巻く。



――― ダメだ!! ―――

 


=== 力を暴走させるな。 コントロール出来てこそ本当の力と言える ===


=== 心を静める術を身に付けろ ===



 先生の言葉が脳裏をよぎる。


 アイルは心を静めようとするが、風に巻き込まれて叫び逃げ惑う兵士達の悲痛な声が心を貫き、集中できない。



「ハハハハハ! 怒れ!! もっと怒れ!! 早く出て来い!! ハハハハハ!」



 ゴルドが腕を組み、楽しそうに大口を開けて笑っている。


 しかくアイルはそれを見て、逆に心が鎮まった。




 アイルは集中した。 すると瞳の色が元に戻り、炎が消えた。



 更に集中する。 風の勢いは収まらないが、範囲が狭まってゆく。




 部屋中に渦巻いていた風が兵士達を避けながら、どんどん小さく部屋の真ん中に集まりはじめた。  ゴォォォ!というすさまじい音と共に勢いは更に激しく、人ほどの大きさの一つの白い塊となっていった。


「な···何だ?」


 ゴルドが小さくなった渦巻きに近付いたその時、それがゴルドを飲み込んだ。


「ぐわあっ!!」

「はっ!!」


 アイルが両手を渦に向け、それを掴むようなしぐさで外に放り投げると、そのまま窓を破り、ゴルドと共に遥か彼方まで飛んで行った。




 既に牙もなくなっているアイルは、ゴルドが遠くまで飛んで行ったのを確認すると、急いで扉の所に行き、ドアを蹴破った。




「あっ」


 アイルの剣を大事そうに抱えていた若い兵士と目が合う。 若い兵士は、部屋の中を覗き込み「ひっ!」と驚愕する。 


 部屋の外で見張りをしていた他の兵士達も中を覗いて戸惑っている。 扉の中の兵士達は全員倒れて血まみれでうめいているのだ。 


 見張りの兵士達はアイルを捕まえるべきかどうかを迷っているようだ。 扉の中とアイルを見比べている。 

 しかしゴルドがいないことでアイルに剣を向けようとする者はいなかった。 それどころかアイルに軽く頭を下げて中の兵士達を助けに駆けこんでいき、アイルの剣を持つ若い兵士だけが残った。




「剣を······」



 アイルが手を差し出すと、しばらく躊躇(ためら)っていたが(アイルには長い時間に感じたが、実際にはほんの一瞬の事だった)若い兵士は剣を差し出した。


「ありがとう」


 差し出された2本の剣を受け取り、駆け出した。



 3歩で城壁まで行き、ジャンプして飛び越え、街の建物の屋根の上に乗ると、そのまま出来る限りのスピードでこの場所を離れる。




――― 遠くへ ―――


――― ゴルドに見つからない所まで ―――




 アイルは走り続ける。




 屋根を飛び越え、街を抜けると畑を駆け抜け、森の中を走り続ける。




 川を飛び越え、谷を飛んで渡り、少しでもゴルドから離れるように走り続けた。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ


〈元友人〉

ゴルド・レイクロー(悪魔に心を乗っ取られた男)



新たな力に目覚めたアイルだが、ゴルドには勝てずに逃げ出した。

(゜_゜;)

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