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5章 デビル狩り

アイルは護衛の仕事がない時は、夜にデビル狩りをしている。

ある夜、街中を見回っている時にデビルに襲われる一人の女性を助けた。

 5章 デビル狩り




 エルオゼア国への帰路は平和だった。

 

 一度デビルが襲ってきたが、アイルが難なく倒して事無きを得て、無事にエルオゼア国に到着した。



また一緒に仕事をしようと約束をして、ホグス達や三バカトリオと分かれた。



 ◇



 エルオゼア国はアイルの故郷であるヴェールス国の隣国。 今はこの国で暮らしている。

 小さな国で、農業が盛んな穏やかな国だ。


 しかし、5年前から夜になるとデビルが出現するようになった。 


 デビルはあの時のゴルドの様に壁や床を通り抜ける事は出来ない。 デビルにとって人間の家は結界のようなもので、無理やり中に入る事は出来ないようだ。

 それで人々は夜になると家に(こも)って表に出なくなり、少しずつ活気が失われてきている。


 それで、アイルは護衛の仕事がない時、夜はデビル狩りをしている。




 誰もいない街中の屋根の上を歩く。 黒い服に黒いマスクをしているので、完全に闇に紛れている。


 時々犬の吠える声や猫が喧嘩する声が聞こえる以外はシンと静まり返っていて、ゴーストタウンのようだといつも思う。



「ん?」


 その時、裏路地で松明が移動しているのが見える。 人だ!

 こんな時に松明を付けて歩くと、デビルに来てくださいと言っているようなものだ。


 アイルが近付こうとした時、案の定向こうの屋根から顔を出したデビルが松明の方に飛んでいく。


「キャ~~ッ!」


 アイルは屋根の上をトントンと渡り、デビルに向かう。


 女性が走って逃げていくが、走る先からもう一体のデビルが出てきて挟まれた。

 出てきたデビルが女性の腕を掴んだ。


「きゃぁ~~~~!!」


 女性はしゃがみ込み、振り払おうともがく。



 アイルは屋根から飛び降りざま、横に払って女性の腕を掴んだデビルの首をはねると、ブワッと黒い霧になって消えた。


 もう一体がそれを見て逃げる。 上に飛んで行くデビルに向かってタン!と飛び上がると、ロングソードが大きく円を描いてデビルを真っ二つに切り裂いた。


 そのまま屋根に降りて周りを確認してから女性のすぐ後ろに降りた。 するとデビルが来たと勘違いした女性が、大声を上げる。


「きゃぁ~~!!」

「大丈夫です。 デビルはもういません!」


 女性はデビルではなく人間の声が聞こえてきた事にビクッと体を震わせてから、ゆっくりと顔を上げた。 少しだけ鼻が上を向いた愛嬌のある可愛らしい女性で、腕に何かを大事そうに抱えている。



 誰かに似ている?



 女性が見上げた先には黒い服装にマスク姿の男が立っていた。



「あ···ありがとうございます」

「松明を消しますね」



 アイルが松明の上に手をかざすと、スッと火が消えた。 アイルは炎を出したり消したりする程度には操ることができるようになっていた。


「えっ?」女性は消えた松明を不思議そうに見つめる。



「家まで送ります」



 そう言われて女性は立ち上がろうとするが、腰が抜けたのかすぐには立てずに再び尻もちをついてしまった。 アイルが手を貸してあげる事でようやく立ち上がれた。 そして少しふらつきながらも、やっと歩き出すことが出来たのだ。




「すみません。 母の具合が急に悪くなって、どうしてもお薬が必要だったもので······」


 大事そうに抱えているのはお薬だったようだ。 そういえば薬草の匂いがする。 



 女性はチラチラとアイルを見ている。 マスクをしているから顔は分からないはず。 なぜそんなに顔を気にするのかと思っていた。




「もしかして······アイルさん?」


 アイルは驚いて女性の顔を見る。


「?······なぜ僕の事を?」

「あぁ、やっぱり! 先日帰ってきた兄がアイルさんの事を話していましたから。 マスクをしていて長い剣を持った凄い人と仕事をしたって」


 アイルは首をひねる。


「兄の名前はヨシュア。 ヨシュア・ネイルズです」

「あぁ、ヨシュアさんの」


 誰かに似ていると思ったら、ヨシュアに似ていたのだ。 ヨシュアの妹は、アイルの前にトトンと走って振り返り、頭を下げた。  


「私はミネルです。 助けていただいて本当にありがとうございました」

「気になさらず。 危ないですから」


 アイルは自分の横に来るように指さした。




 二人はその後は黙って歩き、家に到着した。

 一般的に長屋と言われるような小さな家だった。


 ミネルは黙って帰ろうとするアイルを引き留める。


「あの······よろしければ、お茶でも」

「いえ」


 それだけ言うと、アイルはサッサと闇の中に消えて行った。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 三日後の昼前、家で本を読んでいるとノックがあった。

 

 アイルは武器屋の二階にある小さな部屋を借りている。

 誰も知らないはずなのに誰だろうとドアを開けると、三バカトリオが立っていた。



「?!」

「ハハハハハ! 驚いたか。 驚いたよな」と得意そうなガンス。

「クックックッ」ランドルは楽しそうだ。


 そしてヨシュアがアイルに抱きついてきた。


「アイルさん! 妹を助けていただいて、ありがとうございます。 俺が留守の間に妹が夜に出歩くなんて、母のためとはいえ、叱っておきました。 でも、本当にありがとうございました! 一日も早くお礼を言いたくて!!」


 アイルから離れると、ヨシュアは深く頭を下げた。 護衛の仕事で数日間、留守にしていたそうだ。 それよりも三人が来たことにアイルは驚いている。 



「どうして······」

「どうしてこの家が分かったのかって? 傭兵組合で教えてもらったんですよ。 ホグスさんが」



 傭兵組合とは、仕事を振り分けてくれる場所だが、実力に合わせて傭兵証を発行する。

 D~A級と、アイルのような特別な力を持つ者にはS級まである。


 アイルはS級。 ホグスとマルケスはA級。 ガンスがB級で、ヨシュアとランドルがC級だ。

そして傭兵組合は銀行的なこともする。 他の国に行ってお金が必要な時、傭兵証があれば貸してくれるし、報酬を持ち歩けない時には預かってくれたりもするのだ。


 本来住居などの個人情報は教えないのだが、ホグスは古株で信用もある。 そしてアイルとは一番近しい。 それで教えたのだろう。



 きっと嘘八百並べて······



「昼飯まだでしょう? ホグスさん達が待ってます。 行きましょう!」


 ガンス達はアイルの背中を押して、飯屋に連れて行った。



 ◇



 ホグスとマルケスは、一番奥の壁際の席に座っていた。 そしてアイルを他の客から顔が見えない席に座らせた。


「よお! アイル。 ヨシュアの妹を助けたそうだな」

「たまたまです」

「それよりお前こそ、どうして夜中に街をうろついていたんだ?」

「ちょっと、デビルを退治しようと······」


 アイルはマスクを外しながら、とんでもない事をなんでもない事のように言うので、全員が驚いた。


「「「ええっ?!」」」


「誰かに依頼されたのか?」

「いいえ」

「おまえ、そんな危険な事を······」

「いいや。 アイルさんなら全然大丈夫ですよ! ねっ、アイルさん」


 ヨシュアは自信満々に言い、三バカトリオが一斉にうなずく。


「はい」


 アイルもうなずき、ニッコリと笑った。


「「「おっと」」」


 お約束通り、四人は赤くなった。



 慣れろよ。 ってか、アイルは男だし。



「そ······そう言えばアイルさんは必ずロングソードを持ち歩いているのですね。 昼間にはデビルは出ないのに」


 ランドルが聞く。


「先生が、いついかなる時も剣は離すなと」

「「「先生?」」」これまた全員が驚いた。

「師匠がいるのか?」


 皆の驚きに驚いた。


「······はい」

「どんな一人だ? お前ほどの奴の師匠とは?」

「元将軍とか言っていました」

「元将軍だと?! その人の名前は?」


 名前を言って分かるのかな?と思った。 結構な老人だったので、知っている人がいるとは思えない。


「えっと······トム・ハミルトンさんです。 知らないですよね?」

「「「トム・ハミルトン将軍?!!!」」


 5人とも立ち上がらんばかりに驚き店中に聞こえる声で叫び、一斉に客達が振り返った。



 あれ? 知ってるんだ。



「アイル、その方は伝説と言われる将軍だぞ!」

「えっ? そんなに凄い人だったのですか?」

「お前! 知らないのか?!」


 ホグスがテーブルを叩いたので、まわりの客達が顔をしかめて再びこちらを見る。


「将軍だったという事しか······」

「お前、[クロンモリアの戦い]と、[フォリアの戦い]を知らないのか?」

「あれはハミルトン将······ええぇ~~~~っ!! あのハミルトン将軍が先生?!」


 久しぶりの衝撃だった。 しばらくの間、開いた口が塞がらなかった。

 アイルが衝撃的に驚いている顔を見て、みんなは大笑いだ。


「ハハハハハ! アイルの驚く所を初めて見たぞ!! これはいい! ハハハハハ!」

「「「ハハハハハ!」」」



 ちょっと恥ずかしい。


 でも楽しい。


 とても楽しくて、一緒になって笑った。



 ◇



 食事が終わり、マスクをつけて店を出ようとすると、数人の兵士が店に入って来た。 


 丁度出くわしたアイルを見て驚いている。 どうやら食事をしに来たのではなく、アイルを探しに来たらしい。

 ホグス達を押しのけて、アイルを取り囲んだ。



「エンデビとは、貴方ですか?」


 有無を言わさぬ態度とは裏腹に、丁寧に聞いてきた。 隊長と思われる男は大柄で、わし鼻で四角い顔をしている。


「はい、僕ですが」


 ()()()男はニンマリと笑った。


「国王様がお会いしたいと仰せです。 一緒に来ていただけますか?」

「王様が? 何の用だ?」 


 そう言ったのはホグスだ。 兵士を押しのけ、輪の中に入って来た。


「お前には関係ない」


 ()()()はアイルに対する態度とは一転して、高飛車に答える。

「何だと?!」二人とも喧嘩腰だ。


 アイルはホグスの肩に手を置いた。


「大丈夫ですから」

「俺も一緒に行こうか?」


 心配そうなホグスに「待っていてください」とだけ言うと、アイルは兵士を促して出て行った。




「国王様がアイルさんに何の用でしょうね」

「きっとアイルさんの噂を聞いて、仕官してくれって頼むんじゃないか?」

「いやいや、デビル退治の事を知って、沢山の御褒美を頂けるんじゃないのか?」




 三バカトリオは楽しそうにそう言うが、ホグスとマルケスは目を合わした後、連れて行かれるアイルの後姿を心配そうに見つめていた。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ


〈傭兵リーダー〉

ホグス・アクト  

〈ホグスの相棒〉

マルケス・リーヴ  


〈3バカトリオ〉

ガンス・ケリアト

ヨシュア・フォルト  妹 ミネル

ランドル・ヴァーニ



アイルを探しに来た兵士達。

波乱の予感が······

(;゜0゜)

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