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3章 対魔剣士

18歳になったレイスはアイルと名前を変えて、対魔の傭兵として働いていた。

人並み外れた身体能力を身につけた彼は、「エンデビ」と呼ばれていた。

3章 対魔剣士




――5年後――



「最近デビルの数がふえてきたと思わないか?」

「うん。 昔は年に1体見つかればいいほうだったのになぁ」


 エルオゼア国から来た30人ほどの大きな[ギリス商隊]が野営している。


 

 商人の二人が焚火に当たりながら暗くなった空を見上げた。


「そうだよな。 昔は1体現れただけで大騒ぎしていたのに、最近は毎日のようにデビルの話を聞く。 恐ろしくてかなわんよ」

「奴らは人間を殺すというより、死んでいくのを楽しんでいるんだろう? 腕や足を1本ずつちぎり取って苦しむ人間を見て楽しんでいるという事だ」

「あぁ、俺も聞いた」


 二人は身震いをする。


「今回の対魔剣士(たいまけんし)はだいじょうぶなのか? 女みたいな顔をしているし、かなり若そうだし」

「いやいや、なかなかの凄腕らしいぞ。 [エンデビ]といえば対魔剣士の中でも有名だそうだ」

「エンデビ? エンデビって変な名前だな」

「あだ名だよ。 悪魔のような身体能力を持っているのに、天使の心を持っているんだと。 エンジェルとデビルでエンデビだそうだ」

「天使の心?」

「彼はなにをやっても怒らない。 笑いもしないが怒りを表に出したところを見た人はいないそうだ。 そして決して人間は殺さない。 というより、人間とは戦わないデビル専用の傭兵らしい。 だから盗賊用に他の傭兵をやとっているんだと」


 今回も彼以外に傭兵が5人雇われている。


「へぇ~~」

「俺、前に一度護衛してもらった事があるんだ。 その時は、デビルは出なかったんだが、他の傭兵たちが彼の噂をしていたんだよ。 凄いって」


 男達が見る方には、一人ポツンと切り株に座る男がいる。 綺麗な顔立ちで、薄いブラウンの髪と明るいブルーの瞳が美しい。 180㎝以上ありそうな細身の長身だが、肩幅は広く逆三角形の体形が鍛えぬかれているのを物語っている。


 その対魔剣士は18歳に成長したレイスである。 今は[アイル]と名乗っている。(以後アイルと記述)

 

挿絵(By みてみん)


 腰に剣を携帯しているが、背中に150㎝もの長さがあるロングソードをかついでいる。


 対魔剣士は通常[魔剣]を持つ。

 普通の剣でもデビルを斬ることはできるが、直ぐに回復してしまう。 その点、[魔鉱]を練り込んだ魔剣なら、なかなか回復しないそうだ。


 アイルが持つロングソードも魔剣である。


 両親が殺された時以来、アイルに近づく人が勝手にケガをするという現象はなくなった。 そのかわり、超人的な力があらわれた。 力はもちろん、走るスピードもジャンプ力もずば抜けていて、身体能力が人間離れしているのだ。




 一人で座るアイルの前に、三人の傭兵がきた。

 何だかニタニタ笑っている。


「お姉ちゃん、対魔剣士なんだってな。 そんな生っちょろい顔でデビルを殺せるのか?」


 顔は関係ないだろう?


 いかにも傭兵っぽい体格のガッチリした眉の太い男は[ガンス]

 細身で垂れた目をした赤髪の長髪の男が[ランドル]

 少しポッチャリして鼻が上を向いた男が[ヨシュア]


「俺がお前の実力をみてやる」


 ガンスが剣をスラリと抜いた。

 アイルは無表情でガンスを見上げている。


 まわりの人たちがザワザワしながらその場を離れ、遠巻きに様子を窺う。


 その中に腕組みをして見ている傭兵のリーダー[ホグス]の姿があった。

 ホグスは強い意志を感じる吊り上がった太い眉をピクリと上げた。


「剣を抜けよ!」


 ガンスは剣を構えながらズイと一歩近づく。 それでも表情一つ変えずに美しい顔で、引き込まれるような薄いブルーの瞳で見上げるアイルに、思わず顔を赤らめてしまった。


「あ···後で文句を言うなよ!」


 ガンスは剣を振り下ろした。


「あれ?」


 しかし目の前にいたはずの綺麗な顔がなくなっている。


「うわっ!」


 アイルはガンスの後ろに立っていた。 あわてて後ろに剣をくりだそうとしたが今度は手から剣がなくなっている。


「へっ?」


 アイルは奪った剣の柄をガンスに向けて立っていた。 そこへホグスが割って入って来た。


「お前、エンデビに喧嘩を売るとはいい度胸だな」

「「「エンデビ?!!」」」


 ガンスたちが声をそろえて叫ぶ。


「こいつが······この人があのエンデビ?」


 ガンスが素っ頓狂な声を出した。 それを見てホグスが笑いを堪えながらアイルが持っているガンスの剣を受け取って、持ち主に返した。


「知らなかったのか? このロングソードを見ただけで普通わかると思うがな、クックックッ」

「い···いや······よく知らなくて······すみません」


 三人はアイルに頭をさげた。


「いや」


 それだけいうと、アイルはさっきまで座っていた切り株に再び腰をおろした。



 ◇



 それ以来、三バカトリオ(と、ホグスが呼ぶ)は、アイルに対してこれでもかというほどゴマをすってきた。


「エンデビさん、お水をどうぞ」

「エンデビさん、この肉はうまいっすよ」

「エンデビさん、俺の毛布を使ってください」


 三人が競って寄ってくる。



 アイルはエンデビというあだ名が好きではない。 昔を思い出すからだ。

 エンジェルと呼ばれるゴルドと、デビルと呼ばれていた自分で、二人の事を[エンデビ]と呼んで楽しんでいた。


 今まで生きてきた中で一番楽しかった事と、一番辛かった事のギャップで、心が壊れそうになるのを何とか今まで押さえつけてきた。



「もう充分ですから······それとアイルと呼んで下さい」

「アイルさんですね。 分かりました!」


 明らかに自分より年上の人に下手に出られるのも好きではない。

「はぁ~」アイルはこっそり溜息をついた。

 


 その時、「デビルだ~~っ!!」という声が聞こえた。

 少し先の空に、月明りの中をデビルがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。


「アイルさん! デビルが······あれ?」


 目の前に座っていたはずのアイルは既にそこにはいない。 ロングソードを抜いてデビルに向かっていた。

 

 凄いスピードだ。 一歩が30mはあるだろう。 タッタッタッ!と三歩でデビルの所まで行き、タン!と空高く飛んでいるデビルの所まで飛び上がったのだ。 そして月明りをキラリと照り返す長い剣が円を描くとデビルは真っ二つになり、黒い霧になって消えていった。




 デビルとは人間と同じくらいの大きさで、全身真っ黒な不気味な姿をしており、手足には長い爪と口からはみ出す長い牙が白く、残忍さを強調している。

 そしてコウモリのような翼で機敏に飛びまわり、悪魔らしい短い角が二本、毛のない頭から突き出している。

 そうして燃えるような赤く大きい吊り上がった目だけが暗闇に浮かび上がっているように見え、恐怖をかりたてるのだ。


 通常空から攻撃してくるデビルを攻撃するには、奴らが降りてくるのを待たなければならない。 なぜなら奴らには弓矢などの飛び道具は効果がないからだ。

 しかしアイルは50m近く空を飛ぶようにジャンプをして迎撃して仕留める。 この人間離れした身体能力の為、他の対魔剣士が彼に一目置くのも、納得の所業だ。




 アイルは他にデビルがいないかを暫く確認してから、月明かりの中をゆっくり歩いて戻ってきた。


 三バカトリオは未だに口をポカンと開けたまま、夢でも見ているのかとゆっくりと歩いてくるアイルをみつめている。


「アイルの凄さが分かったか?」


 もう一人の傭兵の[マルケス]がガンス達の肩を叩いた。


 ガッチリした体形のホグスに比べてスマートな優男風のマルケスはアゴヒゲを生やし、ちょっといかさま師っぽいが誠実な人柄で、常にホグスと行動を共にしている。


「俺達も初めて見た時は腰を抜かした。 デビルを前にすると彼は人が変わるだろう?」

「「「は···はい」」」


 三バカトリオは声をそろえて答えた。



 息がピッタリ。



「普段の彼はとても温和だが、極端に人と深く関わるのを嫌う。 ホグスが言うには何か心に大きな傷を抱えているのではないかと······俺もそんな気がする。

 だからあまり彼を追い回すな。 でも、放っておかないでやってくれ。 彼が心を開くのを待ってやってくれないか?」



「「「わかりました!」」」



三バカは戻ってきたアイルにお疲れ様でしたと、水を差し出すにとどめた。 しかし、商人達はアイルを放っておかなかった。


「ありがとうございます!」

「凄いですね!」

「いやぁ~感動しました!」


 口々に褒め称える。


 三バカトリオはアイルが少し困っているのが分かった。



 ここは自分達の出番だ!



「さあさあ! アイルさんはお疲れだ。それくらいにして休ませてやってくれ!」


 群がる商人達を追い払った。




 それからも三バカトリオは適度な距離を取りながらも、アイルの世話に余念がなかった。

 

 そのうちアイルもそれを嫌がらずに受け入れるようになってきた。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇



 そんな平和な日が続いたある日の昼下がり、前日に降った雨でぬかるんだ道に牛車の車輪がはまってしまった。 それをみんなで押し上げている時、まわりから人の気配がした。


「盗賊だぁ!!」


 10人程の盗賊が襲ってきた。 商人たちは急いで逃げて隠れる。

 しかしアイルは離れた場所で突っ立って見ているだけだ。

 

 ホグス達傭兵が応戦する。 一人二人と盗賊を切り捨てていく。


 ホグスとマルケスは強い。 しかしランドル達が押され始めた。 ヨシュアが腕を切られ、苦戦している。



 ホグスは相手する盗賊をズドン!と、回し蹴りで倒してヨシュアの加勢に加わる。



 そんな光景をアイルは見つめ、拳を握り締める。



 アイルは人間同士が争う所を見ると、ゴルドを思い出す。

 母親を壁に叩きつけ、父親の頭を叩き潰して平気な顔をして立っていたゴルドの姿が、未だに目に焼き付いている。



 自分にも彼と同じような力が現われた。



 人を殺そうと思えば簡単だろう。


 しかし、決してそうはなりたくない。 そうはしたくない。 人を平気で傷つける化け物にはなりたくない。

 だから今まで盗賊は他の傭兵に任せていた。


 だがヨシュアが切られ、ランドル達も苦戦している。 自分ならあんな盗賊など一瞬で倒せるのに······そして、殺さなくても戦えなくする事が出来るのに·······。


 自分が傍観している事で彼らが傷つく。 殺される。




 ――― それでいいのか? ―――




 盗賊の勢いに押され、ランドルがぬかるみに足を取られて尻もちをついてしまう。


「わぁっ!」


 ダメだと思った時、体のすぐ横に剣がズドッと刺さった。 今までランドルに襲い掛かっていた盗賊が持っていた剣だ。


「あれ?」


 盗賊は腕を押さえて逃げていく。



 マルケスとガンスが対峙していた盗賊も、気付かぬ内に腕を切られて剣を落としたまま暫し茫然としていたが、目の前の男を見て慌てて逃げて行った。


「「アイルさん!」」


 そこにはアイルが立ち塞がっていたのだ。



 振り返ったアイルはなぜか泣きそうな顔をしている。



 ホグスが最後の盗賊に止めを刺して静かになった。

 ホグスが死んでいる盗賊を見つめるアイルに歩み寄る。


「すまんな。加勢感謝する」


 そう言ってアイルの肩をポンと叩いた。




 死んだ盗賊は必ず土に埋める。 


 土に埋める作業を離れた所でアイルはじっと見つめていた。




 唇をグッと噛みしめながら。





~~~~~~~~~~~~~~


〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ


〈傭兵リーダー〉

ホグス・アクト  

〈ホグスの相棒〉

マルケス・リーヴ  


〈3バカトリオ〉

ガンス・ケリアト

ヨシュア・フォルト

ランドル・ヴァーニ



これから名前がややこしくなってきます。

σ(^_^;)?

混乱しないように、名前表を付けました。

( ´∀` )b

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