2章 ゴルド
ゴルドの心を奥底に閉じ込めたゴルドの中の悪魔は、とんでもない行動を起こす。
2章 ゴルド
「僕の名前はレイス・フォルスト」
「俺はゴルド・レイクローだ。 よろしくレイス!」
「うん! ゴルド」
それから俺達はいつも一緒に過ごした。
俺達が肩を組んで歩く後ろから子分達がゾロゾロ付いてくるのが名物になっている。
レイスも俺と同じで、本を一度見ただけで覚えてしまうらしい。
当然二人とも常に成績は並んでトップだ。
だがレイスはいつも本を読んでいるから頭の中はきっとレイスの方が上だが、運動はわずかに俺の方が出来る。 と言っても、レイスも他の奴らに比べ物にならないほど出来るのだが······
だからいつもレイスは俺には敵わないと言ってくれる。
いい奴だ。
この学校の寄宿生は 毎年12月と1月に、希望者は家に帰れる。 この長い休みが終わると進級だ。
次は8年生。
レイスもソルウォールに家があるそうだ。 外で会いたいから、今年は一緒に里帰りしようと言うと、初めは渋っていたレイスだったが、折れてくれた。
休みに入り、一緒にソルウォールに帰った。
レイスは貴族街に住んでいる。 なんと王族らしい。
◇
翌日から毎日二人で遊んだ。
レイスはこの街に住むくせに、この街を知らない。 街に出た事がないそうだ。 だから俺が色々な所を案内してやる。
ショッピングをしたり、芝居を見に行ったり。
レイスといると時間が過ぎるのが早い。 街がこんなに楽しい場所とは知らなかった。
年明けにレイスの家に招かれた。
優しそうな両親だ。 しかしいつもレイスのご機嫌を窺っているように見えるが仕方がない事だ。 自分の両親なんて、もっとあからさまに避けている。
出された食事はとても美味しかった。 お抱えのコックがいるそうだ。 さすが王族。
俺の家にもコックはいるけどね。
食後、レイスの部屋に入れてもらった。 部屋の広さは俺の部屋と同じくらいだが、整頓されていてとても綺麗にしている。 しかし、なんといっても凄いのは、壁一面に本が並んでいることだ。 他にも本専用の部屋があるそうだ。
ソファーに落ち着くと、レイスは自分の事を色々話しはじめた。
今まで誰にも言えなかった事だが、俺になら分かってもらえると思ったのだろう。
レイスも子供の時からまわりの人達がケガをしていったそうだ。 友達もその親たちも。 そして、みんながレイスを気味悪がって近づかなくなったと寂しそうに語った。
自分の両親もたまにケガをしてしまう。 それでも優しく接してくれるのが心苦しいそうだ。
それで学校に行ける年齢になった時は自分から寄宿学校を希望したらしい。
しかし、そこでも友達がケガをする。 逃げるように三度転校して、今の学校にきたそうだ。
いつも影で[デビル]と呼ばれて敬遠されていたらしい。
俺は[エンジェル]と呼ばれている。
俺がエンジェル、レイスがデビルで[エンデビ]コンビ!と決めた。
レイスはとても嬉しそうだ。 俺も嬉しい。 エンデビ!! サイコー!!
◇◇◇◇
その日の夜、変な夢を見た。
何かもやもやとした大きな影が俺に近づく。 不思議と怖いとは思わないが、凄い威圧感だ。
その影が俺にまとわりついてきた。
『俺様に、心を渡せ』
地鳴りのような低い声が響く。
「何を言っている! 渡せるわけないだろう!」
『既に半分は融合している。 俺様に心を渡せば、もっと幸せになるぞ』
「どういう事だ!」
『好きなだけ殺せる』
「殺せる?」
『そうだ。 だから渡せ』
ハッと目が覚めた。
「夢か······」
それからは毎日のように、その変な夢を見るようになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
僕の両親は、自分に今まで友達と呼べる者がいなかった事を悲しんでいた。
しかし初めて友達が出来て、物凄く喜んでくれている。 そしてゴルドを家に連れてきた時も心底喜んでくれていた。
ある時、料理長に頼んでお弁当を作ってもらった。
今日はゴルドと郊外の河原までピクニックに行く約束をしている。 お父さんが馬車まで出してくれた。
教えてもらったゴルドの家の前に行くと、すでに彼は待っていてくれた。 彼の家もかなり大きい。 立派な門構えの大商家だ。
僕が馬車の扉を開けると、ゴルドは直ぐに飛び乗ってきた。
二人でクスクスと笑い合う。
ゴルドが僕に棒の付いた飴を持ってきてくれた。 二人でそれを舐めながら馬車の外に流れる風景を眺めた。
◇
郊外の河原に到着した。
馬車には少し離れた所で待ってもらい、二人で思いっきり遊んだ。
川に石を投げたり、チャンバラごっこをしてみたり、服のままで川に入って泳いだりもした。
ひとしきり川で遊んでから、お弁当を広げて食べた。
そこに、どこからか一匹の子犬が近づいてきた。
可愛い。
お弁当の残りの肉を差し出して呼ぶと、尻尾を振りながら寄ってくる。
その時、ゴルドがどこからか拾ってきた棒で子犬を殴った。
ゴンッ!
「ゴルド! 何をする!!」
ゴルドは俺の言葉が聞こえていないように、鬼のような形相で、しかし笑いながら夢中になって子犬を殴り続ける。
「やめろ!!」
ゴルドの腕をつかんで後ろに引き倒した。
「な···何てこと······」
「なんで止める?」
「なんでこんな可哀そうな事をするんだ!」
ゴルドは不思議そうに僕の顔を見上げた。
「こいつらは死ぬために生きているんだ。 少し早めに殺してやっただけだよ。 なあ······死んでいく時のこいつらを見ていると痛快じゃないか?」
僕は吐き気がした。
ゴルドは前から残酷なところはあった。 虫などを靴でふみつぶしては楽しんでいた。 しかし、これは次元が違う。
吐き気が止まらない。 今食べたばかりの物をぶちまける。
しかし、ほんの少し······ほんの少しだけ子犬が死んでいくところを見て痛快に思ってしまった自分に、もっと吐き気がして止まらない。
再び酸っぱい胃液とともに食べた物が足元に吐き出される。
このままゴルドと一緒にいると、僕まで残酷なことを平気でしてしまいそうで怖かった。
「もう友達じゃない。 エンデビは解散だ」
「待てよ!」
僕はゴルドの制止を振り切り、そのまま馬車に乗り、家に帰った。
◇◇◇◇
再び静かな毎日が始まった。
いつもの生活に戻っただけだ。 静かに本を読みふけるだけの毎日だ。
学校が始まるまでまだ半月ある。 早めに寄宿舎に戻ろうかとも思ったが、寄宿舎に一人でいるのは気が滅入りそうで、なかなか踏ん切りがつかない。
◇◇◇◇
そんなある日、夜寝ていると、カタンという音で目が覚めた。
窓に誰かがいる!
「誰だ!」
開け放たれた窓から差し込む月明りを背にした黒いシルエットから聞き覚えのある声が聞こえた。
「これは······抑え込まれているな」
「ゴルド?」
しかし、ここは二階だ。 あの窓の下にはなにもないはず。 どうやって登ってきたのか。
「目を覚ませよ」
「何のことだ? どうやってそこに登った! こんな夜遅くに何しに来た! 目を覚ませとはどういう事だ!!」
「そんな矢継ぎ早に質問されてもなぁ」
ゴルドは窓枠に腰かける。
「俺様はゴルドであってゴルドではないんだよ。 お坊ちゃん」
「どういう事だ!」
「ゴルドの中の俺様がやっと主導権を握る事ができたんだ。 お前のおかげでな」
「僕のおかげ?」
「ゴルドの奴、お前に嫌われて引っ込んでいきやがった」
「だから何の事だ! お前はゴルドではないのか?」
「クックックッ。 説明するのも面倒だ。 お前の中の奴を起こした方が早いな」
その男はズズズと、床の中に消えて行った。
「?! なっ···何だったんだ?」
その時、下から「ギャ~~ッ!!」と、悲鳴が聞こえた。 慌てて部屋から飛び出すと、階段の下に執事が血を流して倒れている。
急いで階段を降りようとして固まってしまった。
ゴルドが父と母の髪を掴み、部屋から引きずって出てきたからだ。
両親とも顔や体から血を流している。
二人ともまだ息はある。 必死でゴルドから逃れようともがいている。
「ゴルド!! 何をする!!」
ゴルドは僕を見てニヤッと笑った。 そして母親を片手で持ち上げ、人形でも投げ捨てるように軽々と壁に投げつけた。
ダダン!!ドサッ!
壁に叩きつけられた母親は、壁に血の花をブワッと咲かせてから滑るようにして床にころがった。
「お母さん!!!」
悲鳴のような声で叫ぶ。
「まだ目覚めんか? ではこれでどうだ?」
ゴルドは父親を柱の所まで引きずって行く。
「やめろ! やめてくれ!!」
今度は父親の顔を柱にダン!!と叩きつけた。 グシャッと潰れた顔の下の体がダランと垂れ下がるのをゴルドは床に投げすてる。
「やめろぉ~~~~~っ!!」
僕の体が熱くなる。 そして体の周りに風が渦巻き始める。 渦がどんどん大きくなり、その中にポンポンと炎が浮き出てきた。
風に翻弄された炎がしだいに大きく渦巻き、広いエントランスが炎に包まれはじめた。
「おっと、これはやばい。 今日の所は諦めるか······」
そう呟いたゴルドは壁から外に消えていった。
僕はすでに我を忘れていた。
瞳の色が薄いブルーから燃えるような赤に変わり、唇からは二本の牙がゆっくりと伸びてきた。
炎の渦の勢いは激しくなり、カーテンや壁紙を燃やし、壁や床にまで燃えうつった炎は、やがて大きなこの屋敷を飲み込んでいった。
残酷なゴルドの仕打ちに、レイスは内に秘められた力を爆発させてしまいました。
次章は、青年になったレイスが登場します
(*⌒∇⌒*)