1章 悪魔が宿った二人
幼いゴルドは残酷な事が楽しいと思える子供だった。
そして、彼の周りでは不思議な事が立て続けに起こる。
序章
その時、「デビルだ~~っ!!」という声が聞こえた。
少し先の月明りの中をデビルがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「アイルさん! デビルが······あれ?」
目の前に座っていたはずのアイルは既にそこにはいない。 ロングソードを抜いてデビルに向かっていた。
凄いスピードだ。 一歩が30mはあるだろう。 タッタッタッ!と三歩でデビルの所まで行き、タン!と空高く飛んでいるデビルの所まで飛び上がったのだ。 そして月明りをキラリと照り返す長い剣が円を描くとデビルは真っ二つになり、黒い霧になって消えていった。
アイルは他にデビルがいないかを暫く確認してから、月明かりの中をゆっくり歩いて戻ってきた。
1章 悪魔が宿った二人
ここは[ヴェールス国]の王都[ソルウォール]という街。
北側にある万年雪をかぶった大きなベネク山が見下ろすソルウォールの中心には王城が立ち、南側には小さな民家や商店がびっしりとひしめき合い、その先には広大な農地が広がる。
西側は商業都市で大きな商家や工場が多く、東側は一軒一軒が広大な土地を贅沢に使った貴族街となっている。
ある寒い夜、ベネク山から二つの黒く光る小さな珠が先を競うようにソルウォールに飛んできて、王城の上空で分かれて西と東に飛んで行った。
―――3年後―――
「旦那様、私には無理でございます。 辞めさせていただきます」
手に包帯を巻いた乳母は、返事も聞かずに出て行った。
「これで何人目だ」
「もう数えるのをやめましたわ」
旦那様とよばれた男性は[ヘンリー・レイクロー] ヴェールスでいちにをあらそう大商家の主だ。 まだ36歳なのだが親の代から続くこの商家をここまで大きくしたのは彼の手腕によるものだ。
女性はヘンリーの妻で[シエナ]34歳。
23歳で結婚したのだがなかなか子供が出来ず、あきらめかけた頃にやっと男の子が出来た。
しかし出産後の体調が優れず、寝たり起きたりを繰り返す生活送っている。 そのため、乳母に子供の世話をしてもらっているのだが、みんなすぐに辞めていく。
子供の名は[ゴルド]現在3歳。 真っ黒い髪に真っ黒い瞳。 吊り上がった目に少し団子鼻だが可愛いと言えば可愛い。
ゴルドの周りでは不思議な事が起こる。 悪さをしたゴルドを叱ろうとして近づくと、必ずケガをする。 もちろん3歳のゴルドに何かができる訳もなく、勝手にこけたり物に体をぶつけたりするのだ。
始めは偶然だと思っていたが、毎回必ずケガをする。 それも自分で勝手に······
「乳母を雇うのはあきらめて男性の守役を頼んでみましょう」
「······そうだな」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ゴルドは中庭にヨチヨチとでてきた。
足元を見ると、沢山の小さな虫が列をなして歩いている。 自分より大きな何かを運んでいる奴もいる。
そいつを指で上から押さえて潰してみた。 すると動かなくなった。
おもしろい!
次々と指でつぶしていく。
まわりの奴は、潰れた奴を気にせずに動き続けている。
一匹がゴルドの指から登ってきた。 自分の腕の上でプチンとつぶした。 細い足を左右に開き、腕にはりつく。
ゴルドはキャッキャと笑った。
◇
成長するにしたがってゴルドの目標は大きな虫に移っていく。
バッタをつかまえては一本ずつ足を引っこぬき、羽をちぎりとる。 胴体だけになったバッタの頭をちぎり、お腹を押しつぶした。
何かが出てきた。 ちょっと舐めてみる。
「まず!」
舐めるのはやめよう。
それがカエルになり、魚になり、ヘビになり、小鳥になる。
守役がやめるように注意しにくるが、なぜか自分に近づく前に石につまずき、こける。
それもおもしろい。
そのうち誰も注意しなくなった。
◇
4歳になり、今までは家の広い中庭がすべてだったが、家の外に出てみた。
猫や犬がいるが、つかまえられない。
あれをつぶすのを考えるとワクワクする。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は6歳になった。
ここでは6歳から16歳まで学校に行く。
普通は家から通うが、俺は少しはなれた隣町の寄宿学校に入った。
とてもいい学校だからと、両親が決めてきた。
遠慮がちに報告してきたが、俺は家を出られて嬉しい。
しっかし、勉強はつまんない。 だって一度パラパラと教科書をめくってみるだけで全部覚えちゃう。 だから授業中遊んでいても先生は誰も文句を言わない。
文句を言う事も出来ないけどね。
だって、俺に注意すると、必ず先生は勝手にケガをする。
一度、怒った先生が俺に教鞭を振り上げて向かってきた事があった。 しかしその先生は机につまずいて豪快にすっころび、机の角で目をしこたま打ち付けて失明したんだ。
それからは誰も俺に文句を言う先生はいなくなった。
子分も沢山できた。
一物有るやつは勝手に排除されていく。
本当に俺に心酔し従う奴らだけになった。 それでも10人近くいる。 上級生もいる。 休憩時間の度に俺の機嫌を取りに来る。
可愛い奴らだ。
その代わり、子分が先生に怒られたり上級生にいじめられたりすると、助けてやる。
俺って優しい!
だから俺は子分から[エンジェル]と呼ばれている。
最近は時々夜にこっそり寮を抜け出し、犬や猫をつかまえては殺している。
罠を仕掛けるという知恵を得たのだ。
街中はダメだ。 大人達が変な目で見る。
街外れに川がある。 罠に掛かった犬を棒で殴り殺すと、スッキリして心が晴れる。
ちゃんと死体はみつからないように埋めて帰る。
初めの頃、死体をそのままにしていて大騒ぎになった事があったからだ。
◇
7年生になった時、F組に転校生が入ってきた。
ちなみに俺はA組。
いつまで待っても転校生は挨拶に来ない。
俺のこと知らないのか? 聞いてないのか?
子分を連れてF組に挨拶に出向いてやった。
中を覗くと窓際の一番後ろに女みたいに綺麗な顔をした奴が座って本を読んでいる。
外から射し込む陽射しに包まれ、明るいブラウンの髪が輝き、白い肌が透けているようにさえみえる。 チラリと見える薄いブルーの瞳が、透明感を際立たせている。
自分は真っ黒い髪に真っ黒い目の色なのが残念に思えて、なんだか腹が立ってきた。
「ちょっと挨拶してやれ」
子分達が教室に入って行き、F組の生徒達が慌てて教室から逃げていった。
転校生はチラリとこちらを見て、少し顔をしかめたが、すぐに興味を失ったように本に目を落とす。
子分たちが教室の半分くらい行ったところで、先頭の奴が椅子につまずいて転び、後ろの奴がそいつにつまずいてひっくり返り、ひっくり返った奴の後ろの奴がそいつを避けようとして机につまずいてひっくり返りながら後ろの奴のアゴを蹴り、蹴られた奴がのけぞった後頭部が後ろの奴の顔にヒットして、そいつは鼻血がふき出した。
なんとも面白い! ドミノ倒しのように倒れていく。 しかし、子分の不幸を笑ってはいけない。 そこは笑いをグッと我慢して俺が行ってやろう。
俺は転校生の目の前に立った。
転校生は少し不思議そうに俺を見上げる。
「よくも子分をいじめてくれたな」
「·········」
こいつは何もしていないのは分かっているが、しめる理由ができた。
俺は転校生の顔を思いっきり殴った。
バキッ! ガッシャンドタドタ!
転校生は椅子ごと後ろにひっくりかえる。
泣くか、命乞いするか······と思ったら、殴られた顔を押さえながら不思議そうな顔で俺を見上げる。
「何で······殴れるの?」
ん?······殴るの?じゃなくて、殴れるの?
もしかしてこいつは俺と同じ? 子分たちが勝手に転んでいったのもそのせい? これは試してみないと。
「おい! 俺を殴れ」
「?」
頬に手を当てたまま綺麗な顔を不思議そうに俺に向けた。
「いいから、殴れるものなら俺を殴ってみろ」
転校生は、倒れた椅子をガタガタと動かして立ちあがった。 綺麗な顔が赤く腫れている、
「いいのか?」
「おう! 殴れるものならな」
「もしかして、君のまわりの人たちも勝手にケガをする?」
「おう、そうだ。 だからやってみろ」
俺は殴りやすいように顔を前に突き出してみせた。
「いくよ」
転校生は拳を握りしめ、思いっきり俺の顔を殴った。
バキッ!
「いって~~」と言ったのは転校生。 殴った自分の拳をさすっている。
「クックックッ」
「フフフ」
「「ハハハハハ!」」
あっけにとられる子分達をよそに、俺達二人は笑いあった。
読んでいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
挿絵はベアごんさんにお願いして描いていただきました。 イメージ通りの素敵な絵ですので楽しんでいただければ幸いです。
これからも、よろしくお願いします
(*⌒∇⌒*)