『寮にいてはいけない日』①
お久しぶりです、間をあけてしまいもうしわけありませんでした。
なんとか再開いたします。
十一月も半ばになると比較的温帯なアステラルテの気候も恒常的に肌寒くなってきて、人々の服も厚着になってくる。それでも晴れた日の日射しは暖かく、むしろ外に出かけるのは快適な天気である。そんな外出日和な本日、白髪のきれい顔をした少女――ハルシェイアは寮を出てすぐの路上で、困惑した表情で歩いていた。
「あ、あの…、今日、ど、どこに…出かけるん、ですか?」
そうハルシェイアが歩きながらたずねたのは、彼女の前を歩く少女。ハルシェイアより少し年上くらいで、やや赤色を帯びた金髪と大きな琥珀色の瞳が特徴的。顔つきは年齢に比べるとやや幼い気もするが、もう数年もすれば陽性の美女と差し支えない容姿になることは間違いない。
「ん~、何をいまさら。あ、そ、び、に、行くんだにゃあ」
この変な語尾をつける癖のある少女の名前はアルナティア・ドリズホール。アステラルテ城内南部のダレンス区にある、イステ教会系の聖学堂上級学校中等科(騎士科予備生)、そこの三年生だ。
十日ほど前のアステラルテ中を騒がした事件の最中に出会ったばっかりだったが、三日ぐらい前からハルシェイアと寮監デボネの「朝の運動」に、同じく聖学堂中等高等学校中等科三年のエルナスとともに参加するようになっていた。ハルシェイアは確認してはいなかったが、おそらく最初ハルシェイアが彼らと出会った日に、寮でデボネと話をしていたようなので、その時、何か約束したのだろうと勝手に思っていた。
まだそれだけの短い付き合いであったが、彼女がとても良い人で楽しい人だ、ということはハルシェイアにもわかっていた。そして、同時に「朝の運動」で彼女と剣を合わせると分かる。彼女の剣は、強くて、柔らかくて、――怖かった。なにより…
(楽しい…――)
そうハルシェイアは思ったのだ。だから彼女のこと、ハルシェイアは好ましいと感じていた。少し変わった人ではあるが、いい人だ、と。
そんな彼女が朝の運動の後、朝食を食べ終わった頃に再び寮のハルシェイア達の部屋にやってきて、「遊びに行くにゃ。ハルは今日は寮にいてはいけない日なのにゃあ」と、突然わけのわからないことをって、目を白黒させたままハルシェイアはそのまま外へ連れ出されたのだ。そして、何故か同室でそれまで一緒に朝食をとっていたメイアにも笑顔で手を振って見送られた。
本当に分からない。そして、行く場所もわからない。
「えっ、と……遊びに、って…で、でも?」
ハルシェイアは困ったように首を傾げる。遊びにいくのは楽しそうだけれども、こう突然なのはまったく心構えとか、そういうことができていない。
「ハルは都合悪くにゃいんだにゃ?」
たしかに、学校もまだ臨時休校中だし、今日はバイトもない。ハルシェイアはやることもないので、読書でもして過ごそうと思っていたところだったから確かに都合は悪くない。
「じゃあ、遊びに行くのにゃあ」
「で、でも……その、ど、どこに…ですか?」
「どこって……ハルはどこか行きたい場所あるにゃん?」
アルナは立ち止まり振り返って、二カって笑った。悪ガキのような笑顔だった。
(行きたい…場所?)
アズリー史跡公園は最近行ったばかりだし、図書館はなんか違う気がする。
そこで、ふとハルシェイアは腰のあたりが寂しいことに気がつく。急に連れ出されたため、警衛小隊で働くようになっておおっぴらに持ち歩けるようになった愛刀を忘れてきてしまったのだ。
(ぅ…う~ん…?な、なくても、多分、大丈、夫…だけど――?)
ダッテンの事件があってから、何となく太刀が近くにないと不安になるのだ。黒姫が必要な事態などそうそう起こるものではないと思うのだが、それでもだ。
(刀…武器…?ぁっ)
そこまで考えて、行きたい場所に思い到る。
「あ…!?あの、私…その――」
「ん、一応、ハルよりこの街長いからねー、案内できるとこは案内できるにゃ――さぁさぁ、先輩に言ってみるのにゃあ」
自分の希望を言おうとするハルシェイアに対して、アルナが目を輝かせて覗き込むように見つめてきた。まるで新しい発見をした幼女のような表情だ。
ハルシェイアはそんなアルナの反応にやや気圧されつつ答える。
「ぁ、ぅ……、えっと、その、あ、あの…、た、短剣が…護身用の、壊れて…欲しい、んです…」
「短剣?」
アルナティアがちょっとだけ意外そうな顔をした後、何かを思い出すように目線を少し上にやって、
「あそこがいいかな…――じゃじゃ、私についてきて、良いお店知ってるにゃあ」
とすぐにハルシェイアに笑顔を向けた。そして、すぐに踵を返して歩き出す。
「あ、はい…!」
ハルシェイアはそのアルナティアの背中を慌てて追った。
(そ、それにしても…――)
軽い足取りの先輩の背中をみながら、部屋を出る時のことを思い出す。
(な、なんで、私…『寮にいてはいけない日』…なんだ、ろう…?――う~ん…?う、占い、とか…?)
内心首を傾げるが答えはでない。そして軽快に前をいくアルナは多分答える気はなさそうだった。
(戯れ言…なの、かな?)
とりあえずハルシェイアはそう結論づけて、アルナの元気な背中を追いかけることに集中することにした。
皆様、大変お待たせして申し訳ありませんでした。
ようやく五ヶ月ぶりの更新です…。
今回は間章という形でちょっと軽めの話です。
あと実験的に行を空け、一回の投稿分量も短めにしております。
その分、更新頻度も上げられたらと思うのですが…。
どうでしょうか。
未熟な作者ですがこれからもおつき合い頂ければと存じます。
2013/02/22 感想での指摘により誤字修正
(誤)ハルシェイアは寮出てすぐの路上で→(正)ハルシェイアは寮を出てすぐの路上で