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学園都市アステラルテ  作者: 順砂
第三章『異邦の地にて』
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第16話「路地裏の出会い」

「リスティ…大丈夫?」

「い、いちおう…は…」

 ハルシェイアの呼びかけにリスティは引きつったような声で応えた。

 というのも、今、リスティは、彼女より若干背が低いハルシェイアの腕に抱えられた状態で、しかも抱えているハルシェイアは屋根から屋根へ跳んでいる。所謂、お姫様だっこ、というものである。こういったことに慣れているハルシェイアはともかくとして慣れないリスティはハルシェイアをどんなに信頼していても怖いものは怖いはずだ。

 そうは見えないがハルシェイアは同年代の女子より筋肉質である。とは言え、そもそもずっと自分と同じくらいの体重の人間をずっと抱えられるまでの筋力があるわけではない。ハルシェイアがこんなことをしても平気なのは、身体強化魔法(力属)“助力”に風属強化魔法“跳”を用いているからだ。強化魔法に長けているからこそのこの力なのだ。

 澄んだ空気が体を撫で、遠くを見渡すと正面に臨む西の地平も白んできている。

 なぜハルシェイアがリスティを抱えて、早朝の街を駆けているのか。理由は門の開放を伝えた使者がペティル邸に来てすぐのことだ。


「リスティを連れて…寮に?」

「あぁ」

 ハルシェイアは突然、リスティの父親であるランディオにそんなことを伝えられて首を傾げた。隣のリスティからも驚いた空気が伝わってきた。

 寮とはもちろんハルシェイアが住んでいる第三学校第二女子寮だ。

「開かれたのが南東二門だとすると、この屋敷は危険だろう――内実を知らなければ、私も市長や本部長の一派だろうからな」

ハルシェイアも娘のリスティも完全にその可能性を失念していた。むしろハルシェイアはリスティと仲が良く、また少し話してランディオの考えを知っていたからこそ、リスティは娘であるからこそ、そのことに思い至らなかったのだ。

 単純な話、標的は大学派であり、ランディオはその大物であるのだ。外から見れば、市長や本部長とランディオはそう代わらなく見えることだろう。

 そして開かれたのがクリール門だとすると、門から延びるクリール門沿いに位置するこの館には幾ばくもしない内に民衆がここまで到達する。

「でも、何故、ハル達の寮に避難するのですか?」

「あそこは派閥争いには関係しない上に、それに…安全だ」

「…?まぁ、確かにそれはそうですが…?」

 リスティはいささか訝しげに父親を見たが、父親が言うことなのですぐに納得した様子を見せた。それを見ていたハルシェイアは、内心肯く。実を言えば、安全という点においてはランディオと同意見だったからだ。ランディオが述べた通りであるし、さらに言えば傭兵科総代のミーアも居る。あと、ハルシェイアはいまだに何度も顔を合わせたことがないけれど、ジグルットの妹も魔法科に飛び級して入った天才だ。そして…

(デボネさん…)

 寮監のデボネ。いつも彼女の槍を使った“運動”に付き合っているハルシェイアだが、彼女の実力はいまいちよく分からない。だが相当強いはずだ。それは槍を扱う一挙手一投足でわかる。

(この人は…多分、知っている、んだ…彼女の正体)

 いまだにハルシェイアは彼女の過去を知らない。おそらく何処ぞかの軍属でかなりの地位にあったと推測しているが、それ以上はわからない。

 目線をランディオにやると彼は小さく頷いた。

(肯定…なのかな?)

 そして、ハルシェイアも頷いた。

「わかりました…リスティを寮に案内します」

「え、ハル?」

 何をどうしてハルシェイアがそのような結論に至ったのか分からないリスティは頭の上に疑問符を浮かべながらハルシェイアの顔を見た。

「ああ、どうか娘のことをよろしく頼む」

「え、え?」

「はい――じゃあ、行こう、リスティ」

 ハルシェイアはリスティに手を差し出す。

 そして、友人と父親の間で目を白黒させていたリスティは一拍置いてから諦めたかのように、

「もう好きにしてくださいませ」

と嘆息した。


 そんなことがあり、今、ハルシェイアはリスティを抱えて屋根から屋根へ跳び渡っているのだ。もちろん本来なら危険な行為であり、それ以前に城内での無許可の魔法使用は、緊急回避時を除けば禁止である。

 今回のこの状況がそれに当てはまるかどうかは分からないが、一応、ばれないように陽属魔法“調光”を使って、周囲から見えにくくしてある。“調光”はそもそもは自身の周囲や任意の場所の光を操る魔法である。普通は暗い場所を明るくするために使用されるものであるが、ハルシェイアは少々のアレンジを加えて光の屈折率を変えて周囲から見えにくくしているのだ。もっとも目をこらせば結構見えてしまうのだが、それは止まっている時だ。今は主に下方に向けて“調光”を展開している。屋根上を跳んでいている今の状態ならば、例え下で気付くものが居ても目の錯覚か勘違いだと思うだろう。

(思ったより…落ち着いている…)

 途中で跳び越えた旧城壁通り、今平行するように進んでいる聖行通りにも確かに門外に集まった、ないし城内で解散させられていた抗議民衆達が進んでいるのが見えた。だが、暴徒というよりかは単に行進、それも軍隊のようにきちんとしたものではなく、意外とまばらだ。それ以上に気になるのが、

「教会兵…」

であった。通り沿いには多くの教会兵や騎士達が護衛に当たっていた。もちろん、この地域は大聖堂と隣接し、同時にアステラルテ大司教麾下殉教団(教会軍地方師団)本部とセルバリス聖堂騎士隊本陣が存在する(但し殉教団中央旅団自体は郊外に駐屯。城内には一個中隊規模のみ常駐)。当然、この市南東部でまとまった人数を素早く動員できるのは、市警や市騎士団よりも教会なのであるが、それにしても早い。

(教会は…あらかじめ知って…)

 開門されることを知っていて、警備の兵を用意していたとしか思えない。そして、それを喧伝しているわけではないが、隠そうともしていない。あからさまな示威行為だ。

 この事件を利用して政治的に影響力を強めたいのは理解出来る。しかし、

(……教会も市長派もこんなにみんなの生活、壊して本当にどうしたいんだろう…?)

とハルシェイアは思わずにはいられない。ここ数日、街中とくに騒動が起きた城内東半部は街に人気が少なく、活気が消え失せていた。

 おそらくこの状態だ。学校も臨時休校だろう。

(…多分、休校、だよね?)

とは言え、いまいち自身も無かったので、そのことについて意見を求めようと、リスティに声を掛ける。

「ねぇ、リスティ?」

「……」

「あれ?――あっ」

 返事がないのでリスティを見ると、屋根から屋根へ飛び移る際、大きく揺さぶられた彼女は真っ白な顔をして朦朧とした状態、半分失神している状態になっている。

「り、リスティっ?!」

(下に降りなきゃ!)

 その様子を見たハルシェイアは慌てて路地裏に降りた。だから、注意を怠ってしまったのだ。そこに何があって、誰が居るのかを。

「――おぉ?!空から美少女が降ってきたにゃん」

(にゃ…ん?)

 着地したハルシェイアの目の前には、目を丸くした少女が一人。赤みがかったブロンドの髪と琥珀色の瞳が印象的で、ハルシェイアよりも背が高い。二、三歳年上のようだが、顔はやや幼く見える。そして、着ているのは白を基調とした制服――たしか聖学堂中等高等学校ものだ――で、簡易の武装をしている。

それより何よりハルシェイアが自分の失態以上に気になってしまったのは…

「にゃん?」

「おやおや、カワイイにゃん」

 一つにはこの語尾だ。猫の真似なのだろうが、意味がよくわからない。

「気にするな。そいつは変な語尾をつけるのが趣味なんだ。しかもたまにそれを変える」

 そうこぼしながら少女の背後から溜息をつきながら少年が現れた。少女と同い年ぐらいだろうが、背は高めで、手足も長い。黒い髪にブラウンの瞳、顔も少々エラが張っているが一般よりかは整った顔立ちをしている。同じく聖学堂の男子制服を着て、槍をかついでいた。

「そそ、だから気にしないで…にゃん」

「……」

 何だか無理につけたような語尾に、少年は呆れたように一瞥した。

「ふぅ、僕はエルナス・フェビオスエ、聖学堂中等科三年騎士科候補生。それでこっちのが――」

「アルナティア・ドリズホール、十四歳。同じく三年騎士科候補生だにゃん。只今、実習の巡回をばっくれ中にゃん」

 アルナティアはそう言うと自分の腰をポンっと叩く。腰から下げた彼女の得物が軽く揺れた。ハルシェイアが気になっていたもう一つはこの得物だった。

 柄の辺りを中心に反った姿、糸巻拵の外装。長さも反りもほぼハルシェイアのそれと同じ――太刀だった。ハルシェイアは自分以外で太刀を扱う人間を初めて見たのだ。

 その視線に気がついたのかアルナティアがハルシェイアの顔を覗き込むように言う。

「んー?あなたは、自分以外で太刀持っている人は初めてかにゃん?」

「あ…はい」

「私も“本物”持っている人は初めてにゃん」

「本物?」

 刀は貴重な一品だ。当然、贋作も出回っているだろうが、ハルシェイアは今まで見たことがなかった。ただ、アルナティアの口調はただ偽物を見たことがあるという口調ではないように思えた。

「うん、本物は初めてにゃん。私が見たことあるというか、なじみ深いのはダイハイツ刀にゃんだな。って知ってる、ダイハイツ刀?にゃん」

「ダイハイツ刀?」

 ハルシェイアは首を傾げた。耳にしたことも無かった。

「まぁそりゃあ、知らにゃいよね。刀好きのどこかの某小領主が、好きが高じて刀の複製をさせて、――まだまだ粗悪品にゃんだけどにゃん。ついでに言えば、その刀術も編み出したりしているにゃん。ちなみにうちのじいさんにゃあ」

 無理に語尾をつけているせいだろうが、何となく言葉が明瞭としない。ただアルナティアが言いたいことは、

「えっと…その…つまり、ダイハイツ刀なら見たことがある、ということ…?」

ということだろう。

「にゃん♪――あ、でも、この子は違うから。ちょっとした貰い物よ」

 太刀の柄を軽く撫でて言った彼女の言葉には、癖であるというふざけた語尾が付けられていなかった。何か意図があるのか、無意識なのかは分からなかったが、おそらく本人にとって何か特別なのであろう。一瞬、見せた何とも言えない透き通った笑みがそれを物語っていた。

 そこで話が終わったことを確認して男の方、エルナスが言葉を発す。

「それはともかく、君たちは?――あと、とりあえず彼女を降ろした方が良いだろう」

「あ…!は、はい」

 エルナスに言われて、未だ横抱きにしていたリスティを降ろして、近くの壁を背に座らせた。そして、エルナス達に向き直る。

 魔法の使用に関して多少の問題はあるものの、緊急措置の範囲内であると言えるし、それ以外には特に問題は無い。下手に嘘をつくよりかは、本当のことを話すことにした。但しリスティの素性など一部都合の悪いことは隠して。

「えっと…その…、私はハルシェイア・ジヌール。第三学校中等科一年…です。あの…昨日、友達の家に泊まって、第二女子寮に戻る途中です」

「その子もか?」

「はい」

「なるほど……」

「あの?」

 そのままエルナスが黙ってしまう。何か拙い点があったかと内心焦る。が、杞憂であることがすぐに判明することとなる。

「私達もねー、何故か今日、急に学校での泊まり込み実習があって、何故かタイミング良くこんな事態になったら、学生の私達も慈善協力ってこと動員されたにゃん。だから、つまりは、別に魔法の緊急措置がどうの、そういうのは判断する立場にはないってわけにゃん」

 言ってアルナティアは片目を瞑る。安心すると同時にこっちの考えが読まれていたことにどきりとした。何であろうか、ハルシェイアにとって彼女は何だか心臓に悪い人間の気がする。

「明らかに治安的に問題のある人物でない限りな」

 ハルシェイアは当初、この聖学堂の二人も教会の人間と考えていたが、学生なので当然と言えば当然であるのだが、どうやらそういった教会上層部とは若干の温度差があるようだった。表情の変わらないエルナスはよく分からないが、アルナティアは明らかに皮肉っている上になんだか面倒くさそうである。

「そんなわけでやる気の出ない私達はここでサボっていたわけにゃん」

「俺まで一緒にするな」

 憮然とした様子でエルナスが言う。

「まぁまぁ、相棒でしょ、にゃん」

「………」

 渋面を作るエルナスの顔を猫のように覗きこんでアルナティアが澄んだ声で言う。

「それにこんな茶番つきあえないと思っていたの本当、でしょ?」

「……否定はしない」

 エルナスはさらに憮然とした面持ちとなるが、アルナティアはそんな相棒の姿を見て笑った。そして、ハルシェイアに向き直り言う。

「んーと、だからまぁ心配するにゃん」

「えっと…?」

 これはどういう事なのだろうかと思わず勘ぐってしまう。心配とは、どこまで見透かされているのだろうか。魔法使用までのことなのか、リスティのことまでもなのか。後者はないとは思う。しかしながらアルナティアの軽そうな言動の裏にはそう思わせる何かを秘めているような気がハルシェイアにはした。無論、気のせいかもしれないが。

「だから、まぁ元々、その子休ませるだけのつもりだったんでしょ?にゃん。予定通り休んで、それから寮に戻ると良いということにゃん」

「……あの、えっと――そう、します」

 リスティを見れば少し回復したようで、まだ顔はやや青いがハルシェイアと二人のやり取りを真剣な眼差しで見つめていた。

「だが、流石にここから再び屋根伝いに、というのは見過ごせない」

 エルナスは上を見上げてハルシェイアが降りてきた屋根を一瞥した。

「ん、まぁ…たしかににゃぁ。常識的に?」

「えっと…その…」

 正論なのでハルシェイアは気まずそうに押し黙る。確かに褒められたことではないし、この二人が罪に問う立場にないとは言え、緊急回避の魔法使用も実際には怪しいのだ。

「じゃあ、そうだにゃん。私たちで護衛して送るってのはどうにゃん?一応、教会側の人間だし、万が一の場合でも融通利くにゃん、多分」

「……お前、公然とサボる気だろ?」

「にゃん」

 アルナティアがにやりと笑った。もうこの流れでは無理矢理にでも彼女は護衛としてハルシェイアに付いてくる気だ。もちろん、既にハルシェイア達に拒否権はないし、有っても意味をなさない。

 それに意外と渡りに舟なのかも知れない、とハルシェイアは思った。末端とは言え、確かに公然と民衆を守る形と成っている教会側の人間と一緒なのは現状都合が良いのかも知れない。それにこの二人はこの事件に関わりたくはないようでもある。リスティに視線を向けると彼女も肯いた。

「あの…お願いしても、良いですか?」

「にゃん♪」

 アルナティアが良い笑顔になり、エルナスは仕方なさそうに嘆息をした。

「教官に許可を貰ってくる」

「よろしくにゃん」

 立ち去るエルナスにアルナティアは手を振りそれを一瞥したエルナスはもう一度溜息をついた。


 エルナスが教官に持ち場を離れることとその理由を告げに一旦、この場から離れ、この場には他の三人が残った。そんな中でアルナティアがただ面白そうにハルシェイアを眺めていた。

「あ…あの?」

 じろじろと見られて、ハルシェイアは大いに戸惑う。それが好意であるのは分かる、しかし、それは最近、よく他の人に向けられるようになったそれとは若干違うような気がした。だが、嫌ではない。

「ん~と、可愛いにゃあ、と思って――」

(……?)

 その言葉に違和感を覚え。空気が変わる。そして、

「――ね、っ!!!!」

 一閃。アルナティアが突然、抜刀した。ハルシェイアに向けて。

「っ…?!」

「ハ、るっ…?!」

 リスティの声にならない悲鳴。甲高い金属音。

「っ?!」

「にゃん」

 ハルシェイアは抜刀途中の状態の黒姫でその一撃を受け止めていた。そして、瞬時に後ろに下がってリスティを庇うように正眼に構えて立つ。

(突然、なに?)

 あまりにも読めなかった彼女の行為にハルシェイアは大いに戸惑う。訳がわからず、次の行動を警戒する。

 彼女の一撃は鋭かった。完全に油断していたのもあるが、それ以上にアルナティアは巧く、そして、あそこで防がなければハルシェイアは確実に殺されていた。

 だから、ハルシェイアは殺気立つ

 が、

「にゃははは。ごめん、ごめん、にゃん」

と彼女は笑いながら、あっさりと無防備に納刀してしまった。まるで、冗談であったかのように。

「……え?」

「なっ」

 ハルシェイアは虚を突かれたように疑問符を浮かべ、先ほど違う意味で青くなったリスティは驚きの声を上げる。

「な、な、な、何ですの?!あなたはハルを殺しかけて、ごめん、って。謝って済む問題じゃありませんわよ?!」

 そして、いまいち状況が理解し切れていないハルシェイアに代わりリスティがアルナティアに対して激昂した。

 それに対して、アルナティアは、その印象的な琥珀色の瞳を一瞬、しっかりと閉じてから、

「絶対にあなたは私のこの一閃では斬られないと思ったから。だけど、本当ににごめんなさい」

と言って、静かに頭を下げた。おちゃらけた雰囲気からの突然の変化に一瞬にしてリスティは毒気を抜かれたが、それでも友人を殺されかけたことを許せずはずもない。

「だから謝って済む問題では……!そもそも、なんでこんことを」

「やってみたく…なった、かな?強いて言えば」

「やってみたく…ですって?!」

 その不明瞭なアルナティアの答えにリスティが再び憤激する。

「あなたはやってみたくなったら、人を殺そうとするのですか?!とんだ辻斬りですこと」

「こんなことするのは初めてだよ。それにこの子は絶対に殺されないと思ったから。実際、死ななかった――そうね、それを私は試したかったのかもね」

「な、な…あなたは!!!」

「あ、あの、リスティ、お、落ち着いて――私、大丈夫、だから、それに――」

「ハル?」

 リスティはハルシェイアの雰囲気が変わったことに激昂しかけていたことも忘れて、彼女を見つめた。

 そして――

 金属音。

 ハルシェイアが黒姫を抜き放ち、アルナティアが今度はそれを刀で受け止めていた。

「これで相子、です…から」

 そう言ってそのままでハルシェイアはわずかに微笑んだ。その笑みは綺麗だが、何処か壮絶だった。リスティは斜め前に踏み出したハルシェイアの横顔に見たことのない表情を見て息を呑む。

 だが、誰もが飲み込まれるその表情と正対したアルナティアはすぐに面白そうに笑った。

「あはははは。たしかにお相子だにゃん」

 それを合図にしたかのように双方、刀を納める。

「………一体、何が何ですの…?」

 リスティが心底、疲れたようにつぶやく。そんなリスティにハルシェイアはなんとなく「ごめんね」と謝ったが、リスティは「もういいですわ」と何か諦めたかのように返した。

「私からも本当にごめんなさい」

 アルナティアも謝るが、リスティは、

「本当にもう良いですわ…怒っていたのが急に馬鹿馬鹿しくなりましたの」

と溜息をついた。

「にゃはは」

「り、リスティ…?」

 ハルシェイアはリスティを怒らせたとおろおろ狼狽えるが、大してアルナティアは彼女がもう本当に怒っていないことを察して笑う。

「まぁ、その、仕掛けた私が言うのも何だけど、仲良くしましょう、二人とも。できればこれからも。改めて言うけど、私はアルナティア、アルナ、もしくはアルナさん、アルナ先輩好きな呼び方でどうぞ。にゃん」

「え…、え、えっと」

「では、アルナ先輩。私は、リスティ・ペティル。リスティで構いませんわ」

「あ、私は…ハルで。その…先輩?」

 先輩と呼び慣れない敬称にハルシェイアは軽く首を傾げた。

「うーん、かわいい子達に『先輩』って呼ばれるのはちょっとした快感にゃん。で、リスティに、ハルね。よろしくね――同じ街にいるわけだしにゃんとなく長いつきあいになるかもしれないにゃん」

「よろしくお願いしますわ」

「よ、よろしく…お願いします」

 リスティはすこし素っ気なくそれでいて悠然と、ハルシェイアはぺこりと軽く頭を下げて改めて挨拶した。


 この路地裏の出会いは、アルナが言う通り本当に長い、長い不思議な関係の始まりになるのだが、この時は言った本人ですら、それは少しの予感でしかなかった。だが、この偶然の出会いが一つの時代を作る者たちの出会いであることは後の歴史が証明していくことになる。


本当にお待たせしました。

第3章第16話「路地裏の出会い」になります。


10月末から1月末まで怒濤の三ヶ月なんとか乗り越えました。

お陰で1月末から2月初に体調崩してぐだぐだになりましたがorz


今回は2名の新キャラ、めんどくさいしゃべり方をするアルナと真面目なエルナス君の聖学堂コンビです。少しだけ、ナムカプの零児・小牟や元ネタ(?)のスパロボのキョウスケ・エクセレンのイメージ入っているかもしれません。

本当は次章登場の予定だったのですが、ちょいと先行して登場して貰いました。


次は多分、早ければ半月、遅くとも通常通り一月以内で頑張ります。

あと、もし誤字などがありましたら、ご指摘頂ければ幸いです。


2011/07/29 指摘により誤字修正

(誤)だが、誰もが飲み込まれるその表情と正対したリスティはすぐに面白そうに笑った。→(正)だが、誰もが飲み込まれるその表情と正対したアルナティアはすぐに面白そうに笑った。


2013/06/25 誤字修正

(誤)(…・多分、休校、だよね?)→(正)(…多分、休校、だよね?)

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