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学園都市アステラルテ  作者: 順砂
第三章『異邦の地にて』
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第15話「感謝」

 襲撃から一時間ほど経ち、ランディオと共にハルシェイアは寝着にショールを羽織った状態で応接間にいた。似たような格好でリスティも居る。先ほどまでは警備主任や住み込みの使用人たちが出入りしていたが、今では此の部屋には三人のみとなっている。

 被害は不幸中の幸いと言うべきかランディオの部屋の一部の調度と窓とバルコニーのみで、人的被害は見られなかった。

「さて、改めて礼を言わせてもらおう――ありがとう」

「私からも、お父様を救って頂いてありがとうございます――ハルに助けられるのはこれで二回目ですわね」

「あ、…でも…その」

 親子に続けざまに感謝を伝えられて恥ずかしくなる。それにリスティを助けた一回目は先月の学校での事件のことなので、あれは助けたというよりもリスティがハルシェイアの巻き添えにあっただけなので、むしろハルシェイアの方が申し訳無く思っているものだった。なので改めて感謝を伝えられるととても戸惑う。

「ここは素直にお礼を受け取るものだよ」

 ランディオはそんな風に複雑そうな顔をしたハルシェイアを優しく諭す。それは年長者からの率直な諫言でもあったのだろう。

「あ…はい、どういたしまして?」

 それでも少し自信なさげなハルシェイアに、ランディオは軽く苦笑し、リスティはやれやれといった感じで笑っていた。

「感謝され慣れていないのだな、君は」

「え…えっと、多分、そんな感じ、です」

それを聞いて、リスティが興味深げに目を細めた。

「ハルがジャヴァールではどんな生活していたか聞きたい所ですわね…どうして教会の暗殺者を退けることができるのか…などを含めまして」

「…あ――あの…リスティ」

 当然の疑問だろう。だが、同室のメイアには全て話した今でもジャヴァールでのことを他の人に話すのは躊躇われる。

 ハルシェイアが口ごもったのを見て、リスティは仕方なさそうに微笑んだ。

「いつかで良いですわよ――ただしなるべく早いうちに確実に」

「あ…うん。そのありがとう…」

「約束ですからね、絶対に話してくださいね」

 ものすごく良い笑顔で念を押される。その迫力にハルシェイアは思わず喋ってしまいそうになった。

「あ、うん、かならず…」

「なら良いですわ――それでお父様、この後、どうなさるの?」

 そこでリスティはハルシェイアから自分の父親に向き直った。ハルシェイアと話していたときの柔らかな顔つきと打って変わって、リスティは鋭く真剣な眼差しになる。

その娘の視線に応えるようにランディオは肯く。 

「事態をなるべく早急に、それも我々の手で収めることが肝心だろうな…そのためには――」

 ランディオが「我々」と付け加えたのは明らかに教会を意識した言葉だ。教会に過度の介入させることは、アステラルテの主権を維持したいランディオにとって敗北に等しい。それも昨晩の事件があっては余計に。

「――馬鹿を大法廷にたたき込む、ですわね。早急に、私達の手で」

 父の言葉を、娘リスティが続けて言う。それにランディオは大きく肯いた。

「そのために、カリウス総騎士団長にも協力を願いたいのだが、今のところは返答らしい返答はないな」

「慎重な方ですから」

 揶揄でも皮肉でもなくリスティはそのカリウス総騎士団長なる人物をそのように評した。ハルシェイアは会ったことはなかったが、ハルシェイアの記憶が正しければ、

「あの、総騎士団長って…確か、騎士アラスの義兄、ですよね?」

ということだったはずだ。端的に言えば、カリウス総騎士団長の妹がアラスの妻なのだ。アラスの奥さんにまだハルシェイアは会ったことはないが、そんな名家出身である奥さんの方が十歳ほど年上のアラスを口説き落としたと聞いている。どんな人なのか、偶に屯所に姿を見せるらしいので、その機会が来るのをハルシェイアは密かに楽しみにしていた。

「そう言えば、彼女は騎士アラスに…ふむ、彼なら――」

 ランディオは思案するように顎を撫でる。おそらく既存のルートで反応らしい反応が返ってこなかったため、アラスを通したルートもあるのではないかと思いついたらしい。もちろん、それがどの程度の効果なのかも分かった上で、だ。

 少なくとも現状よりかは情報のやりとりが滑らかになる可能性が高い。

 そして、目の前にそのアラスの部下がいる。

 ハルシェイアもそのアラスの意図が分かった。

「あの…騎士アラスに訊ねてみましょうか?」

「ああ頼む。話だけでもいい、通しておいてくれるとありがたい――あとはデルペールが来てからだな…」

 ランディオはややもどかしそうに眉間に皺を寄せるて瞑目する。その後、何をすべきか改めて考えているようだった。

「?」

 それよりも、初めて聞く名前が出て、ハルシェイアは首を傾げたが、リスティが小声で「父の秘書ですわ」と告げた。

「それで、私たちはどうしましょうか。寝ようにももう夜明けですし、目も冴えてしまいましたわ」

 リスティが言うように外を見れば、空が白み始めていた。今日は十曜日なので学校は休みだ。少々寝過ごしても何の問題は無いが、あのような事件があったあとだ。ハルシェイアはともかくとして、リスティは寝づらいのかもしれない。

 もしかするといまも少し強がっているのかもしれない。それはハルシェイアにも分からなかった。

「私は…どちらでも…大丈夫、だよ?」

「うーん、そうですわね…じゃあ、とりあえずベッドでまどろみましょうか」

「ごろごろする、ってこと?」

「まぁ、そうとも言いますわね」

 それも楽しそうだとハルシェイアは思った。なんか、とても贅沢な気がした。

「それではお父様、私とハルは一度部屋にもどりますわね」

「あぁ、ゆっくり休みなさい」

「はい、では、ハル――」

と、リスティがハルシェイアを促したときだった。正面口の方が騒がしくなる。

 ハルシェイアは溜息が出そうになった。

「……また、何かありましたわね」

「吉報なら良いが」

「……」

 だが、良い知らせと期待することを言った本人、それについて何も言わなかったハルシェイアも含めてここに居る人間はそのようには何故か思えなかった。根拠は、しいて言えば空気だ。

 空気が何かざわめいている。そんな気がしたのだ。

 そして、その根拠無い不安はすぐに証明される。

 慌ただしく部屋に入ってきた使者はランディオにこう告げたのだ。


「申し上げます!先ほど東南二門の大門が解放され、多くの抗議者が市内に流入しましました!」


 少なくとものんびり「ごろごろ」する雰囲気では本格的になくなったようであった。


えっと、短い…ですよね?

いつもより遅くなった上に本当に申し訳ありません。


忙しかった11月から解放されたと思ったら、12月も結局、忙しくなったとかいう…。

というのもレポートの長さが半端無くなっておりますorz

四分の一終わって1600字×12枚…とか。ナニコレ?


そんな感じでスローペースですが、月一更新はなんとか守りたいと思いますので、よろしくお願いします。


またこんな状態ので気をつけてはいるのですが、誤字脱字、文章の誤りが増加してしまう可能性がありますので、気になった点はご指摘頂ければ幸いです。


2013/06/25 誤字修正

(誤)そんな名家出身である奥さんほ方が十歳ほど年上のアラスを口説き落としたと聞いている→(正)そんな名家出身である奥さんの方が十歳ほど年上のアラスを口説き落としたと聞いている

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