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学園都市アステラルテ  作者: 順砂
第三章『異邦の地にて』
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第4話「ようこそ、第六警衛小隊へ!」

(さて)

 アルテは片付けに手を動かしつつ、新しく手伝いに来た女の子をつぶさに観察していた。銀髪で背は同じ年代の子に比べると少し低めか、印象的な碧の瞳に可愛らしい顔つき。きっと殆どの人が美少女と言うだろう恵まれた容姿をしている。

 しかし、どうやら内気な様子で、どことなく自信なさげだ。ただ、それが逆に可愛いし、俯いて声も小さいものの透る声をしているので言葉はハッキリ聞こえて、むしろ印象に残る。

(ん~?……本当に彼女が?)

 アルテは内心首を傾げる。

 アルテが彼女を知ったのは、一月半前の、市内を騒がせたあの殺人事件の時。小隊管区内でも事件が起き、その時、同郷であるという円卓騎士のシブリスに連れられてきたのだ。

 その時、彼女は顔見知りの惨殺死体を見たのにも関わらず、冷静に傷の状態等を確認していったのだ。たった十を少し過ぎた程度の少女が、だ。

 その違和感が拭えず、アルテはすぐにその事を隊長のアラスに報告し、アラスも何か思い当たる節があったのか、彼女の身元を調査することにしたのだ。

 その結果が最近出たのだが…

(ハルシェイア・ジヌール・エステヴァン、ジャヴァールの賜地名貴族〔ジャヴァール独自の制度、功により地名付きの爵位を特別に授かった貴族。但しその地名の領主ではない〕で、リーヴァント子爵。義父は通称『傭兵王』と呼ばれるガンジャス・エステヴァン上級将軍、本人も独立近衛連隊隊長で、最年少大佐……う~ん?)

 まったく、そうには見えない。報告書にはもっと詳しいことが書いてあったが、どちらかといえばそちらの経歴の方が嘘くさい気もしてくる。

(うーん、やっぱり普通の女の子、よね?)

 その当の本人と言えば、現在、アルテの指示の元、とりあえず床で崩れかけている書類の山を直しつつ軽く埃をとっていた。おどおどした態度だった割に、仕事ぶりはかなり良い。なにより非常に真面目で好感が持てる。

 でも、それだけである。まったく物騒な経歴を持つ人間にも見えないし、不審な点も特に見えない。

(さて……)

 どうしたものかと悩む。自分の他にこの事を知っているのは隊長のアラスのみ。そのアラスは今日は区警に顔を出した後、夜番なので当分屯所には帰ってこない。

「ふぅ」

 思わず息をつく。すると、何か下手をしてしまったのかと思ったのが、びくりとした様子でハルシェイアが手を止めてハルシェイアがこちらを見ていた。

「ああ、違うのよ。ちょっとした考え事」

「え、あ、そう、なんですか?」

 ハルシェイアは首を傾げる。ちょっと安心したのか表情が柔らかい。正直、アルテは可愛いと思った。

(ま、もう少し…様子、見てみましょうか…)

 とりあえずそう結論づけて、アルテはハルシェイアを手伝うために手を伸ばした。


 ハルシェイアが作業を初めて四十分ほど、とりあえず一角は整頓して見られるようになった。ただ中身に手を出したわけではないので、結局の所、根本的な解決にはなっていない。

(これは…結構、大変?)

 アルテの話だとこの程度のことは空いた手でやっていたらしいが、少しすると山が大きくなって崩れる、それでまた掃除だけはすると、その繰り返しだったらしい。

 そのアルテはもうすぐ昼番の終わりなので今日の日誌と半日分の報告書をデスクで書いている。

外見れば五時を少し過ぎて日が傾き始めていた。

「あの…えっと、どうしましょう…か?」

 とりあえず一つのことが終わったので、ハルシェイアはアルテの背中に訊ねてみる。すると、アルテは座ったまま振り返り、ちょっと悩んでから、

「ん、ああ、そうね…この時間から整理するのも、掃除するのもちょっとねぇ…あ、じゃあ、こっちきて。日誌の書き方覚えてくれると助かるのだけど?」

と言って、手招きをする。

「あ、はいっ」

 ハルシェイアは小走りで近づく。その時だった。

「只今、もどりましたっ!」

「ただいま」

 屯所内に二人の男性が入ってきて、ハルシェイアはびくりとした。一人は十代後半ぐらいの中肉中背の男で、もう一人は二十代半ばの背が高い男、どちらも警衛小隊の制服を着て、胸にはこの小隊所属を示す胸章が付けられていた。

「アレ?なんかかわいい子が…もしかしてこの子がバイトの子ですか?」

 十代後半ぐらいの隊員がアルテに訊いた。それに対してアルテはあからさまに溜息をついて言う。

「そうよ…というか、バガル、あなたは一度会っているはずなんだけど?」

「え?」

 バガルが首を傾げる。

 だが、ハルシェイアは確かに見覚えがあった。そして、この小隊の人間を見た場所と言えば自ずと限られてくる。

(えっと……あの時の、現場で最初に応対してくれた人、かな?)

 シブリスと小母さんの家に行ったとき警戒線を守っていた兵士がこんな人だったはずだ。

 それはすぐに記憶違いではないということが証明される。

「バガル、ほら例の、騎士シブリスと……」

 そうバガルに指摘したのは、帰ってきたもう一人の警衛兵。こちらもハルシェイアの記憶にある。直接話してはいないが、たしか現場に居た。

 その同僚の言葉でバガルも思い出したのか、

「ああ!あの時の」

と相槌を打って、うんうんと頷く。アルテはそんなバガルを呆れたようにジト目で見つめる。それでも何となく仲がよいように見えるのは不思議である。本人達、とくにアルテに言ったら怒られそうだが。

 ちなみにこの場にもう一人いる警衛兵は軽く苦笑気味だった。きっと、いつもの光景なのだろう。

 そんな様子に一瞬、呆気に取られていたハルシェイアはハッとした。大事なことを忘れていたことに気がついたのだ。

「あ…、あの…お久し…ぶりです」

 ハルシェイアは恥ずかしそうに二人に挨拶する。

「あ、こちらこそ」

「私の方は、ほとんど初めましてだね――フレングス・コウェルテン兵長です」

 軽く挨拶したのは年若いバガル、簡易ながら丁寧に自己紹介してくれたのはこの場で最も年上に見えるフレングスだった。

(……階級も一番上、かな?)

 ジャヴァールとアステラルテでは軍の階級に差異があるが、アステラルテの軍階はたしか下から、二等兵、一等兵、伍長、兵長、一等兵長…と続いていくとハルシェイアは記憶していた。

 フレングスが兵長、アルテが伍長、バガルは分からないが、会話からしてアルテより高いとは思えなかった。

 そのハルシェイアは推測を裏付けるようにアルテがフレングスの紹介に補足した。

「フレングス兵長は、うちの隊の副隊長代理なのよ」

「まぁ、ドルチン副隊長が騎士団に入ってしまって、小隊の中で私が階級が上だったというだけなんだけどね」

 そのあと、フレングスはぼそりと、アルテの方が適任だって主張したけど結局…、と肩をすくめてつぶやき、当のアルテやバガルが苦笑した。副隊長代理を決める時、色々とあったのかもしれない。

 それはともかく、その微妙で、それでいて和やかな雰囲気に戸惑いつつハルシェイアは、

「あ、ハイ…あの、私、ハルシェイア・ジヌール、です。二等兵…扱いになるん、ですよね?」

とアルテに確認の視線を送りながら二人に自己紹介した。アルテは首肯する。先ほど、便宜的に階級は二等兵になると説明されていたのだ。

 とは言っても同時に臨時の事務員だったらそこまで明確に階級を気にすることはないとは言われているが、軍属経験のあるハルシェイアはやはり気になってしまうのだ。

 そんな彼女の内心とは関係なく、次にバガルがハルシェイアに自己紹介をする。

「俺はバガル、バガル・テム一等兵だ。よろしくな」

「こいつは呼び捨ててでいいわよ」

「え、そ、そんな~!?」

 少し大げさな様子でアルテに抗議の声を上げるバガル、それに対してアルテは笑っていた。こんな様子だからアルテはバガルをからかうのが楽しくて仕方がないのだろう。

 なんとなく、隊内の力関係が見えたような気がハルシェイアにはした。

「あ、あの、これからよろしくおねがいしますっ…!フレングス兵長、バガル…さん!」

 ぺこりとハルシェイアは頭を下げる。

「ああ、よろしく」

「……なんで、さん付け…でも、呼び捨てじゃないだけ…?」

 さわやかに挨拶を返したフレングスに対して、バガルのほうは何か腑に落ちない様子で何かをウンウンと唸っている。そのバガルの反応にハルシェイアは不味かったのかとアルテの顔を見たが、アルテは笑いながらお茶目に片目を瞑った。


 ハルシェイアの勤務初日はそんな感じで過ぎていった。この日は結局、隊長のアラスには会えず、断ったけど夜道アルテに送られて――途中で夕飯を奢ってもらい――寮に戻った。






 ハルシェイアが帰寮してから数時間後、深夜でも灯りが付くルーベイ区第六警衛小隊屯所から出てくる二つの影。男女で小隊員には見えない。

 

「日給一人三十八アウブ、か……切り詰めれば、なんとか?」

「まぁ、しっかりした所だし、正直厳しいしから、当面は仕方ないんじゃないかしら?」

「まぁなぁ…しかし、ある意味、お尋ね者のオレ達が警衛小隊?」

「お尋ね者で結構よ…何か悪い事したわけじゃないわ。それに面接でも問題なかったじゃない」

「いやまぁ、こちらの事情は話していないしな~。まっ、ジャヴァールの勢力圏じゃないし問題ないか」

「当然よ」


 そんな会話を楽しみながら彼らの夜は更けていった。


ゼミで使う『九暦』読んでいたら、投稿忘れそうになりました…。

いつも投稿前に直しを入れているのですが、急いでやったので今回ちょっとおざなりなっている…かも。

誤字などあったらごめんなさい。


今回、軍の階級の話が出ていましたが、実際にある軍隊の物とは若干違います。

兵長と伍長が階級上逆とか(普通、伍長>兵長で、兵長>伍長ではない)。

これは兵-伍長(兵士の五人のまとめ役)-兵士長が、兵士→一等兵・二等兵、伍長はそのまま伍長、兵士長が兵長になったという意味のない設定のため…なぜ自分がこんな設定にしたのかは、既に忘却の彼方…。


参考に本文に書かなかったジャヴァールとアステラルテの軍階級を最後に。


<ジャヴァール軍階>

統帥(王/皇帝)>(元帥(王族1名))>大将軍(1名)>上級将軍(6人)>将軍(12人+員外将軍)>准将軍>大佐>中佐>少佐>准佐>大尉>中尉>少尉>補尉>上士長>士長>上兵長>兵長>伍長>一等兵>二等兵


<アステラルテ軍階>

大将>将軍>上級大佐>大佐>中佐>少佐>大尉>中尉>少尉>一等准尉>二等准尉>上等兵長>一等兵長>兵長>伍長>一等兵>二等兵

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