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学園都市アステラルテ  作者: 順砂
間章
32/88

第1話「ダッテンの話」+後日談


 

 子供の頃読んだ騎士物語。

 主人公の騎士は勇敢で正しく忠誠心に溢れた勇者だった。

 騎士は生涯仕えると決めた主君たる王のために七つの試練を受けることになる。

 毒の沼の魔獣を倒し、

 蛮族の住む地の洞窟から黄金色の両性鶏を持ち帰り、

 人を誘惑する悪魔を祓い、

 盗賊に奪われた王の首飾りを単身で取り戻し、

 西の果ての島で海獣を退治し、

 聖ヘイリトロスの頂に登り“全なる者”の神託を受け、

 そして最後には魔族の国さらわれた王女を救い出し、王女と結婚する。

 読めば読むほど胸が高鳴り、そして自分もそうありたいと思った。

 高貴な主君に仕える、立派な忠義の騎士。


 しかし、そんなの子供の読む「下らない作り物語」から卒業させられ、真っ当な教育や現実を知り始めるとそんな思いは薄れていった。

 でも最近、何故か悪夢の中でそんな憧れを思い出す。

 それは現実の自分とあまりにかけ離れてしまったからだろうか…―――




 何故こうなったのだろう。そう、彼は自問した。ここ半月ずっとそんな問いを続けている…この薄暗く汚い部屋で独り。床に座り、寝台を背に項垂れて

「あぁ…うぅ…」

 小さく呻く。呻いたところで何も変わらない。

 そう半月、半月も何も変わりがなかった。

 いや、正確にはちょうど今日変化はあった――彼はちらりと机の上の封が開いた手紙を見た――それも最悪のほうへ。頭を抱える気力ももう湧かない。

 有り体に言えば、彼――ダッテン・エルゲイ・アリヌ・オードダルトは絶望していた。

 彼はゴリウス王国の名門軍事貴族の出身である。もっと正しく言えば、最近、再興した名門だった。ここ数代は国王軍百人長止まりだったのが、彼の父の代になって、彼の父は摂政閣下の覚えめでたく、侍従騎士団を構成する四枝隊の一つ青隊を任されるまでに出世したのだ。

 その父が、家門の繁栄のため、お前には期待している、とそう言って自分をこのアステルテに、摂政の姫セラフィナの護衛兼学友として送り出したはずなのだ。にもかかわらず――

(なんなんだよ、これは…っ!)

 今日届いた便りにあったのは――父からの絶縁状だった。不覚を取って摂政閣下の孫娘を傷つけた(もっとも未遂であるが、ダッテンの父にはそれは些細なことらしい)息子など息子ではない、とそう簡単に書かれていた。その前には摂政様の怒りを買ったことや家督はダッテンの弟にということがしたためられていたが、ダッテンにはもうどうでも良かった。

 これで本当にダッテンは居場所を失った。セラフィナには見捨てられ、摂政には怒りをもらい、家には捨てられ――もうどこにもいられない。

(僕は――どう、すれば……いっそ)

 死んでしまおうか、とも思う。でも、できない…いや、それ以前に何かする気も起きなかった。

「…ぅ、ぅ――」

 もう泣くこともできない。既に枯れ果てた。ただ呻くだけ。

 そんな自分が情けなかった。酷く情けなく惨めだった。

 逃げ出したかった。同時に助けて欲しかった

 悪夢だと思いたかった。でも、いくら経ってもそれは醒めない。

(何が、いけなかった?操られたこと?驕ったこと?逆恨みしたこと?――自業自得かもしれない、でもだからといってなんでだよ、なんでこんな…)

 後悔していた。それ以上に理不尽だとも感じていた。

 だが、そんなことを考えていても事態は改善しないし、その方法も分からなかった。

 今、自分にあるのは煩わしい照光がカーテンによって遮られた暗い部屋だけ。それだけの世界。そんな自分の世界もきっとすぐに失うことになる。ここは、摂政閣下の孫娘セラフィナ様の邸宅なのだから。むしろ事件の後もここに置いてくれた温情を感謝すべきなのかもしれない。

 もっともそれが自分に対して姫が興味を示していない証左だとしても。

 そんなことを思って自嘲する。

「フ…ふふ…フフフ…アハハハハハ。アハハハハ―――」

そして、何かが決壊したようにダッテンは笑う。笑いは止まらなかった。

 枯れたと思った涙も出てきても、止まらなかった。

 その時、がちゃりと音がした。

「?!」

 ノックもせずに扉が開いたのだ。腫れ物を触るように接してくる屋敷内の人間でこの部屋に来るのは食事を運んでくる侍女ぐらいなものであるが、流石にノックをしないなんてことはない。

 無礼なそのことよりもダッテンは純粋に誰が来たのだろうと思った。

 ふと良い香りがした――それにしては強烈な、何処かで嗅いだことあるような…

「…?」

 そして、現れたその人物にダッテンは驚くこととなる。

「え、あ…?!」

「あら、何か楽しそうでしたわね、ダッテン?―――それにしても随分、お痩せになったこと」

 そのように傲岸不遜な態度で、ずかずかとダッテンの部屋に入ってきたのは、なんとセラフィナだった。ダッテンと違い登校していたのだろう、制服を着ていた。

 ダッテンは訳が分からなかった。従者の部屋を主人が訪ねるなど、少なくともゴリウスの貴族社会では一部の例外――それこそ王が病身の功臣を屋敷に見舞う等を除き、あり得ないことだ。だから最初、こんな部屋に彼女の姿があるのは、絶望の中見た白昼夢かと思った。だが、目の前にいるのは本物だ。廊下にはアステラとハルニーもいる。

「……セラフィナ、様?」

「ええ、そうですわよ」

 ダッテンの目の前にいたセラフィナは、当然でしょう?というように風に言った。

「――しかし、この部屋、すこし臭いますわね。ちゃんと掃除していますの?」

 まったく、ここはわたくしの屋敷なのですよ、と彼女は文句を言う。ダッテンはそんな彼女が何しに来たのかわからなかった。いくら何でも、そんなことを言いに来たわけではないし、そもそも興味のない自分にいまさら何の用なのか。

 とうとう追い出されるのかとも思ったが、それならば別に主人たるセラフィナ自らそれを伝えに来るのはおかしい。衛兵にでも命じて叩き出せば良いのだから。

 だから怪訝に思い、セラフィナの様子を注意深く窺う。

 そうやって見たとき、初めてセラフィナの首に包帯が巻かれているのに気づく。が、それを聞く前にセラフィナが先に口を開いた。

「まぁ、それは明日でもよろしいですわ――それより、あなた勘当されたようですわね?」

「な…」

「オードダルト家からわたくしにそのような旨の書状が届いておりました。そうそう、お祖父様も大変ご立腹なされているとか?」

「……ぅ」

 ダッテンは何も言えない。受け入れてしまっている事実だから。同時に思う、やはり、と。セラフィナは自分を追い出しに来たんだ、と。

 だからもう自棄になって叫ぶ。

「お、追い出すならただ追い出せばいいだろう…!なんでわざわざ追い詰めること、言うんだよっ!」

 ダッテンは今まで溜めていた淀みをはき出すかのようにセラフィナに怒鳴り散らす。しかし、当のセラフィナは怪訝そうな顔をするだけだった。

「――あら、わたくし、何時あなたを追い出すなんて言いました?」

「っ、え……?だ、だけど、今、摂政閣下がお怒り、と……」

 そこで初めてセラフィナが不快な表情を見せた。ダッテンはそれがなぜだかわからない。彼はセラフィナとハルシェイアのやり取りを聞いていなかったからだ。

「……確かにこの屋敷はお祖父様に買っていただいたものです。しかし、今は私の屋敷ですわ――その屋敷に誰を置こうが私の自由…そう思いませんこと?」

 セラフィナは言いながら、カツカツと音を立ててダッテンの前へ行くと、傲岸な様でダッテンを見下した。しかし、その瞳は驚いて見上げるダッテンの目をしかと見ていた。

「もしここに居たいというのであれば、今まで通りここに住まわせてさしあげます――それで、あなたはどうしますか?どうしたいですか、ダッテン・エルゲイ・アリヌ・オードダルト?」

「え…僕は――」

 悠然と明朗な声音でセラフィナに問われて、何を、どうしたいんだろう、と今更ながら、そうダッテンは思った。結局、こんな遠くに来たのは、家の繁栄と出世のためだった。でも、それは一度失われた。

 ただそれ以上にセラフィナのハッキリした声はダッテンの胸の奥に響いていた。

 だが、だからといって答えなどすぐには出せない。

 そんなダッテンの様子を眺め、セラフィナはどこか悪戯っ子のような笑みを浮かべてこんなことを彼に言う。

「もし、今、特にやることないのでしたら、改めて私に仕えてみません?」

 その言葉にダッテンは驚く。

「え……あ、そのいいのですか、摂政様が――」

「ここでお祖父様は何か関係あって?」

 また摂政の名前を出したダッテンをセラフィナは睨め付けた。と言っても、よくよく見れば本当に不快そうと言うよりもわざとそう言う風に見せているような、そんな感じではあった。

「…それに、それは当事者である私が取りなせば良いこと。何も問題はありませんわ。――それで、どうかしら?もし特にやりたいことが無いのであれば、それを見つけるまで私に仕えません?」

 言葉だけなら、任意の提案であるが、それは実の所、強制的な命令であった。意志の強い言葉、美しく傲慢な立ち姿、印象的な瞳の色、高貴な風格、全てがダッテンに強制していた。

「………ぁ」

「それで、もし私に仕えて下さるというなら、後悔はさせません。満足行くまで――こき使って差し上げますわ」

 セラフィナは傲岸不遜な笑みを浮かべる。優雅なのに、どこか獰猛な笑みだった。そんなセラフィナの力強い表情は初めて見た――否、そんな人間の表情は初めてだった。その瞳がしっかりとダッテンを見ているのである。

 正直、最初ゴリウスを出発するとき、セラフィナに良い印象はなかった。高飛車で、人を、自分を見下すそんな感慨しか抱けなかった。このまま三年間、おべっかでも使って仕えれば良いと思っていた。ただ、摂政一族の側付きになったのは誇らしかったし、将来が開けた気がした。それだけだった。

 それが今変わった。それも大きく。

「私は少し変わってみようと思うの、努力をしようと思うのよ。お祖父様の孫でも、執政家の長姫でも、未来の王妃でもない、ただのセラフィナ・ムアラベー・ティムリス・カースティルヌとして」

 ダッテンはもう悩まなかった。逆らえなかったし、逆らうつもりもなかった。

(僕は――)

 見つけたのかもしれない。それこそ、昔読んだ騎士物語のように。

 七難八苦を越えても忠誠をもって仕えられる主君に。例えそれが愚かな自分の勘違いであったとしても、この瞬間ではそれは意味の為さないことだ。少なくとも、この瞬間、純然たる事実として彼女はダッテンの主として君臨していたからだ。

 だから素直にこう思ったのだ。

「それは、楽しそう…だ、な――」

と。

 そしてダッテンは笑みを浮かべた。自嘲以外では久々に笑ったかもしれない。それに対してセラフィナも笑みを返し、ダッテンの目の前に手の甲を差し出す。

 そして、ダッテンはそこに迷わず口づけをした。それを見て頷き、セラフィナが言う。

「これは私と貴男の契約――その間には誰も居ません。陛下もお祖父様も家もない。私は貴男を見ましょう。そして、貴男は私をその眼でしかと見なさい――それが私達の基本契約です。よろしくて?」

(セラフィナ様が僕をみて、僕がセラフィナ様を見る――摂政様も陛下も関係なく…?あぁ、そうか――そうなのか――僕を見てくださるのか…この僕を……)

「心得ました、我が主―――私、ダッテン・エルゲイ・アリヌ・オードダルトは貴女を見つめ守りましょう。そこには誰もなく、我らのみ。貴女の命に従い、貴女のためならば身命を賭して耐え抜きましょう…」

「――貴女の忠義に報いましょう。ここに契約は成りました」

 ダッテンが自分でもよくすらすらとそんな言葉を言えたと思う台詞に、セラフィナも少し呆れたように言う。

「――しかし、即興にしてはずいぶんと仰々しく、情熱的、ですわね?…たしか、『ローリンド卿の騎士物語』でしたかしら?」

「はい――もっとも、元々は姫との結婚の誓いをちょっと変えたものですが…あ、でも、そんな意図は無いですよ」

 セラフィナはそんな少々失礼な言葉に少々むくれたように、

「知っていますわ!!」

と返した。


 この日、ダッテン・エルゲイ・アリヌ・オードダルトは生涯の主君を見出した。それは彼が騎士となり、自分の居場所を見つけた瞬間でもあった。

 物語の騎士のようにはおそらくなれないだろう。それでも彼は良かった、これから美しく賢くなられるだろう主君、セラフィナに仕えられるというなら。







 「後日談」




 それから三日後、ダッテンは事件の後、初めて登校した。ここ半月の間の最大の変化は担任が替わったことだ。担任だったリーバイ教諭が免職となったため、副担任であったプリメラが昇格した。ただ、このことにダッテンは驚かなかった。

 前担任リーバイが免職となったのは、ダッテンの主人であるセラフィナに暴行を働いたことに加えて、不当な成績操作を行ったことが認められたためである。だから、ダッテンはそのことを当日、セラフィナ本人に聞いて知っていた。

 それはそれで気になったが、ダッテンにとっては例えそのままリーバイが担任のままであったら、心情的に非常に辛かった。薄情ではあるが、リーバイと顔を合わせなくとも良いことは幸運であった。

 だが――

(事前に聞いていたが――)

 教室でのダッテンやセラフィナ達に向けられる視線は冷たかった。しばらくぶりに登校してきたダッテンには、特に。

 それを示すように彼らは現在、事件前の中央ではなく、廊下側の後ろに座っている。

 ダッテンは別に事件前からクラスメイトのことをどうとも思っていなかったが、流石にこれは痛かった。

(――むしろ、だから…今、こうなっている、のか?)

 ダッテンは内心自嘲した。

 クラスにとって自分は腫れ物。それを冷ましてくれる友も居ない。自業自得ながら嘆息せずには居られなかった。

「…ハぁぁぁ~」

 ダッテンは机に突っ伏した。授業まではまだ十分弱もある。この間が今のダッテンには非常に辛かった。

「…あ、あの――」

 そんな彼に声をかける者が一人いた。

「ん?――ん?!」

 あまりにもおどおどとしたか細い声だったため、最初寂しさからくる幻聴かと思ったダッテンだったが、それが現実のものと気がついて、彼は飛び起きて声の主を見た。

 目に飛び込んできたのは、白。白い髪。碧の瞳がこちらを心配そうに眺めていた。

「…な――あ」

 ダッテンは驚いて声も出せない。何せ、相手は最も合わす顔がない人物。

 彼が逆恨みをし、彼が襲い、彼を返り討ちにし、彼を救った少女――ハルシェイアが目の前にいたのだ。

 その彼女がちょっと緊張した様子で話しかけてきたのだ。そして、何を言うのかと思えば、こんなことだった。

「――傷、大丈夫?……あの、ごめんね、あんな方法しか、なくて…」

 本当に心配そうに謝ったのだ。てっきり罵られるか、そうじゃなくとも恨み言でも言われるんじゃないかと覚悟していたダッテンにとっては意外なことだった。

「…わ、私、ああいう風にしか出来なくて…その、…」

「――……あのな、僕がお前に謝ることがあっても、謝られる筋合いはない」

 ダッテンは正直呆れていた。殺されかけて謝る馬鹿が何処にいるのかと。もっとも、あの時、ハルシェイアを殺しかけたという実感はない。殺されていたかも知れないという感覚はあっても。

 実を言えば、悪い夢を見ていたようではあったが、あの時の記憶がダッテンにはあった。

 あれは尋常ではない力だった。自分がとても強くなった、否、強くなったのだ。にもかかわらず、この目の前の小柄の少女に簡単にいなされてしまった。むしろ、圧倒されていた。

 多分、少女にはダッテンを殺して止める術もあっただろう。でも、それをとらず救ってくれた。ハルシェイアはダッテンの、いわば恩人だった。

 その恩人が、目の前で、ダッテンに謝っていた。

「でも…、私、ひどいこと、言ったみたいだし、やったみたいだし…それに、怪我させちゃって、その――」

「あのなぁ…それ以上は嫌みなんだが…分かっててやっているなら、怒るんだが?」

「え、そんな――つもり、じゃ…ごめ――」

「だから、謝るなよ――ああ、もう、なんだ…、むしろ感謝しているんだよ、こっちは!!」

 ダッテンは感謝したいのに、唖然というか、なんというか、なんだかよく分からなくなって、思わず立ち上がり怒鳴り気味に言ってしまった。驚いたような教室中の視線がダッテン達に集まる。

 前に座っていたセラフィナ達はずっと様子を見ていたせいか、それに驚きはしていなかったが、二人のやり取りに半ば呆れたように半ば諦めたような顔をしていた。

 それに気がつきダッテンはおずおずと座り、冷静になってから怒鳴り声に萎縮してしまったハルシェイアは、優しく…とはいかなかった落ち着きを取り戻して話しかけた。

「だから、なんだ…その、な…もう謝るなよ?」

「で、でも…その――」

「あああ、もう、だから、お前の僕の感謝をうけとけばいんだよ」

 少々目線が上のダッテンの言葉だったが、苛立たしさとともに照れ隠しも感じられていて、むしろ好ましいものだった。それを感じ取ったのか、ハルシェイアの表情が和らいだが、彼女は早々に、

「ごめ――」

と言いかける。ダッテンの視界の端でセラフィナが笑っていて、ダッテン自身も内心溜息をつきかけた。そのときだった。

「――ありがとう、ダッテン」

と、ハルシェイアが満面の笑みで笑ったのだ。ダッテンは思わず固まる。セラフィナやハルニー、お堅いアステラですら息を呑む。

 ダッテンは最近、余裕がないから忘れていたのだが、ハルシェイアはよく見なくても可愛らしい容姿をしている。それも花の可憐さと月の美しさを兼ね合わせたような、そんな器量だ。ただ、いつもおどおどと自信無さそうな上に、オシャレには無頓着なのか、派手なメンバーと一緒にいて埋もれがちなため、未だ人の口に上ることは少ない。それも時間の問題だろう。おそらく、もうクラスメイトは気づき始めている。彼女が一番輝いて見える武術基礎の授業での姿を見ているから

 特にダッテンは実戦時のハルシェイアをある意味特等席から見ている。その姿をおぼろげながら思い出す――あれは、壮絶な美しさだった、と。

 彼はその目の前で、その同じ顔に微笑みかけられたのだ。息が止まるかと思った。魔法にかけられたように鼓動が早くなって、体が熱くなる。

 思わずダッテンはハルシェイアから顔を背けてしまった。この笑顔は凶器だった。

「…な、なんで――?」

 しかし、悲しいかな、当の少女はそんな自分の容姿のことなど気にも止めない。それが彼女の良いところでもあり、悪いところでもある。ここでは、後者だった。

 ハルシェイアはダッテンに顔を背けられたことに傷ついていた。

「あ、いや…その…」

 ダッテンもそれに気付いて言い訳しようとするが、巧い言葉が出てこない。そこで、流石に傍観者に決め込むだけなのも不味いと思ったのか、セラフィナが、

「ダッテンは、感謝されて照れただけですわ、あなた気に病む必要はありませんわ」

とフォローを入れると、ハルシェイアは「照れているだけ…?」と小さく呟いた後、納得したのか小さく頷いた。それがまた小動物のようだった。

 その仕草だけで、ダッテンは胸の高鳴りを覚えた。あまり認めなく無かったが、なんとなくダッテンはどういうことかわかってしまった。

 そして、そんなダッテンの気持ちを知ってか知らずか、セラフィナ達がダッテンを見てニヤニヤしている。

 ダッテンは思わず頭を抱えた。ハルシェイアが心配したように覗き込んでくるが、まったくの逆効果だ.

(くそっ、なんか良い匂いするし…ああ、顔を近づけるな――)

 ダッテンはさらに頭を抱える。


 数十秒後、どこで様子を見ていたのか、流石にダッテンを哀れと思ったメイアがハルシェイアを巧いこと回収していった。

 その際、意味ありげな笑みを投げかけられたが、その意味など考えたくもなかった。

(憂鬱だ…)

 明日からのことを考えると前途多難で落ち込みそうになる。

 ただ、以前と比べると、何故か、ちょっとだけ、晴れやかであった。



 しばらく間章で短編連作のような形で、本編で拾えなかったようなことや第三章の伏線になりそうなことをやってみようかと…。


第一弾は第二章、道化に道化にされて良いところ全くなかったダッテン君のお話。

そういやぁ、ダッテン君、まともに設定すらしていなかったと、あらためてキャラ作りしながら書きました(酷


それしても、ハルシェイアがなんか少し…うざい子w

これ以上はうざくならないようにせんと(汗


次の第二弾は…本当は本編で名前だけ出てきた某皇女さまの話にしようかと思っていたのですが、まぁ舞台がアステラルテではないということで、番外編としてブログ入りに…。

なので、次はあの人の話か初登場の人か…という感じです


それでは…。

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