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学園都市アステラルテ  作者: 順砂
第二章『何も知らないお姫様達』
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第7話「勉強会」

 ゴリウス出身者といざこざがあった次の日の放課後、ハルシェイアは、他の反乱組と一緒に旧書庫で月末の実力試験に向けて自習していた。これは普段は件のリーバイの歴史の授業中に行われているモノだが、入学から半月過ぎて月末に近づき、放課後にも行うことにしたのだ。

 今回の実力テストでは、語学、歴史、数学、文学、地誌、哲学、魔術理論の七教科の成績が見られる。ちなみにこのメンバーの成績は以下のような感じになる。

 ハルシェイアは歴史、文学が得意で、語学、地誌、哲学が平均かそれより少し上、魔術理論に少々不安があり、数学は入学後初めて勉強するのでかなり不安。

 メイアは、魔術理論が得意で、数学も自信があり、地誌にやや不安があるものの、それ以外はどれも中よりも上である。

 リスティは、突出するものはないが、魔術理論以外は平均的に好成績で、魔術理論は唯一と言って良い苦手教科であった。

 ハインライは…実技教科も含めてほぼパーフェクトである。

 よって自然にハルシェイアとハインライ、メイアとリスティが組み、ほぼ問題の無いハインライが、(あくまでもこの中ではあるものの)一番問題のあるハルシェイアに数学と魔術理論を教え、メイアがリスティに魔術理論を、リスティがメイアに地誌を、という風に教え合う形で進んでいた。

 ところが、今日はこの狭い旧書庫にもう一人…

「あぁ、わっかんねぇ〜!」

と、叫んだのは同年代の中では頭一つ大きい少年。先の模擬戦でハインライと剣を合わせたケインだった。短く切った金髪と彼の持つ独特の雰囲気は清潔な快活感を醸し出していた。

 ちなみに彼は、アステラルテから見て北西にあるウヌーグ公国の将軍の息子で、武術や体術は、ハインライ、ハルシェイアに次ぐ成績の持ち主だが、座学の成績はあまりよろしくない、というか悪い。

 だから彼は模擬戦以来なにかと組むことが多くなった成績上位のハインライに勉強を教えて欲しいと頼み込んだのだ。

「ハァ、何度言えばわかる…?」

 現在、ケインの講師役を務めるハインライが、何度目かの分かりやすい溜息をついた。ちなみに今は歴史である。

「だってよぉ、東部巡検使を送ったのがオッテラント帝で、東方開拓使を送ったのがババーラント帝か?ややこしい、まったくややこしい」

「前六〇二年、モルゲンテのアルト争乱を受けてハバーレス帝が東方巡検使を帝国東部に派遣、その後、前五九九年、東方巡検使の報告から東部地区の荒廃に憂慮したその子であるオーデラルト帝が東部復興を目的として派遣したのが東部開拓使だ…これは三度目なのだが…?」

「だから、ややこしいじゃんか」

(…たしかに、そう、だよね)

 端からそれを聞いていたハルシェイアはケインの言葉に内心同意した。東方巡検使と東部開拓使、確かに分かりにくいと思う。

「そもそも、さぁ、アルト“争乱”てぇことは、東部巡検使は軍事目的だろ?なのに、東部開拓使は開拓って言うぐらいなんだから、畑耕すのが目的だろう、なんでだ?」

 ハインライが驚いたように眉を上げる。また微妙に間違えているものの、ケインは時にこのように鋭い質問を飛ばす。学力的には足りていないかもしれないが、勘は悪くない、むしろ良いようである。

 そのケインの疑問に答えたのは、ハルシェイアだった。

「東方巡検使には軍人以外に、文官も多く随行していて、その中に後に左丞相になるルベレール・シュワブがいたの。彼は当地に赴いて、その荒廃ぶりを目の当たりにして、『東方巡検使報告附録』として『リドス、及びカンタール州の土地利用に関する具申書』――通称『ルベレール上奏文』――を提出。えっと、これには、ルベレールだけじゃなくて、何人かの随行文官たちが…」

「――ハルシェイア、君は自分の勉強をすべきだと思うが?」

「…あ…ぅ」

 ついつい好きな歴史を語ってしまったハルシェイアはハインライに静かに窘められて、シュンとうなだれた。ハルシェイアの横には仕方なそうに笑うメイアと、ちょっと肩を怒らせているリスティがいた。ハルシェイアは二人に数学を習っている途中だったのだ。

「ああ、でもなんとなくわかったぜ。オマケがオマケの報告したんだろ?」

「……まぁ、だいたい合っている、な…――あと、ケイン、ちなみにそこは試験範囲ではないな」

「な、なんだと…そんなの最初に言えよ!」

「……何か特別必要な知識なのかと思っていた」

「なっ」

 勉強会はこんな感じで進んでいた。数学はいまいち分からないけど、ハルシェイアはこの雰囲気が楽しくて、分からないながらも自分でも意外と思うほど、勉強は捗っていた。たまにリスティに怒られるが、これもハルシェイアにとっては楽しくて仕方がない。

 毎日色んなことがある。良いことも悪いことも、楽しいことも悲しいことも、それ全部引っくるめて、ハルシェイアは楽しいのだ。そんな日常が。

 そんなとき、ケインも論点が同じとは言えないものの似たようなことを考えていたのか、妙に切実にこんなことを呟いた。

「ああ、オレもあん時、書庫組に加わっていたらなぁ〜」

 そのまま崩れて頬を机につけてだらけた。

 それにハインライが眉をひそめたが、それに気にすることもなく言葉を続ける。

「だってよぉ、最悪だぜ。担任とお姫様方のゴリウス組。姫様方がえばり散らして、それを誰かが注意すると、担任に減点されて、さらに増長…もうみんな無視だけど、それはそれで煩いんだよなぁ…」

「それは…酷い、ですわね」

 ケインの言葉に、最初にセラフィナと事を起こしたリスティが思いっきり嫌な顔をした。

「ああ、だから結構、書庫組に入りたがっている奴も多いぜ」

「ぜひ歓迎、と言いたいのですが――これ以上は無理ですわね…物理的に」

 この書庫は誰がどう見てもせまい。故にもう人の入る余裕がない。リスティはそれを冗談めかしに言ったのだ。

「それに、私達が特例措置だから、これ以上は認めるのは無理だと思うわ」

「それは、分かるんだけどなぁ…でも、歴史もさ、こうやってハインライ達に習う方が分かりやすいし、先生だってちょっと頼りないとこもあるけどプリメラ先生の方が話分かりやすいし…あのゴリウスの五人がいなくなれば最高だよ」

 ケインは嫌気が差したように溜め息をつく。

 そこで躊躇いがちにハルシェイアがケインに訊ねた。

「あの…――」

「ん?」

「――その、あの…セラフィナさん?たち、教室で孤立…しちゃっている、の?」

「ん?!…あぁ、そうだな、ばっちり孤立しているぞ、連中。というか、あれで、しないわけがないよな。なんか、剣術部の先輩の話だと、あのセラフィナの兄貴もあんな感じに取り巻きに囲まれて、偉そうだったらしいぜ」

「そう、なんだ…」

「?」

 ハルシェイアが至極残念そうに納得したことに、ケインそれにリスティが不思議そうに首を傾げ、メイアとハインライはそんなハルシェイアの様子を静かに見ていた。


 ハルシェイアは、初日、メイアに連れられて教室を出たときに見たセラフィナの姿を思い出していた。なぜ彼女のことが気になったのか、孤立していると言うことを聞いて思い至ったのだ。

(周りに人が居て、無駄に自信満々で…でも、そう――何か、凄く、寂しそう、だった)

 何がそう見えたのか分からない。でもハルシェイアはそんな風に見えた。

 だから、と言って、ハルシェイアはだからどうする気もないし、そもそも何をどうしたらいいのかも分からない。

 ただ、あのセラフィナの姿を思い出すとスッキリしない気持ちになる。

 ハルシェイアはセラフィナによく似た、それでいて正反対の女性を知っている。だからそんな風に感じるのかもしれない。

 年上の友人で、仕えるべき主――その彼女はある時、こんなことを言っていた。

『――私ね、“皇太女のために”動いてくれる人間は欲しくはないの。それって、私が皇太女でなくなったら裏切るってことでしょう?皇太女でもある“私のために”動いてくれる人間が欲しいの。だから、私は、エディスティン・ラルス・ジャヴァールではないとダメだと皆に思わせたい――そのためなら何でもするし、何処にでも行くわ……それが、それこそが私の力よ』

 彼女はその後、揺らぎ無く優雅に笑ったのだ。そして、実際、彼女の言葉は現実によって裏付けられている。

 だから、ハルシェイアは思う。

(多分…、そういう、こと…なのかな)

と。セラフィナの抱える問題とエディの言葉は表裏一体の問題であるような気がした。

(あれ、でも…――)

 そこであることに思い当たる。

(私、…セラフィナと――一度も、喋っていない?)

 その事に気が付いて、よくもわかりもしない人間のことを勝手に推測してしまったことを恥ずかしく思うと同時に、今度、話をしてみたいと思った。

(…出来れば、仲良く…なりたいな――)



この間、アルファポリスのファンタジー部門で三十位代に入っていて驚きました。

感謝とともに、何となく人を騙しているような気分にも…。


と、それはともかく、こんな良い子のハルシェイアですが、僕の中では完全にダークヒーローないし、敵役ですw

というのも、公開できるかどうか分かりませんが、同じ世界観で構想している話があと三つ、そのうち二つに登場予定なんですが……かなりえげつないことしてくれています(という予定)。


今回、改稿と推敲に時間がかかって、昨日、更新できませんでした。

この先、一度書いたものをかなり書き直しするので、ちょっと更新ペースが遅くなる予定です。

なるべく早くしたいのですが…本当に度々申し訳ありません。


それでもよろしければ、また次回。

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