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学園都市アステラルテ  作者: 順砂
第二章『何も知らないお姫様達』
20/88

第3話「旧書庫」

 ゴリウス王国は大陸北西部ルーデレイナの五王国の一つで、五王国最大の面積と第二位の国力誇る大国である。

 ルーデレイナ南東を領域とし、北はヴェッセ山脈を挟み同じ五王国のルメゲン王国(面積二位、国力三位)、西は五王国最強のアーディ王国、南は南の大陸へ繋がるローム地方、南東にアラウント商業連合、東はすぐに大陸中南部地域アルナジェンとなっている。

五王国の中では唯一、イステ教を国教と奉じ、西の護教国イステルーアを自称するなど、イステ教が非常に強い地域でもある。

また三国時代、現在のルーデレイナ全域を支配したルーデ・ベルテン王国の正統な後裔であることを自認している。また、ルーデ・ベルテン王国が太陽帝国の正式後継者と称していたため、それは同時にその事実は彼らゴリウス人にとっては自分たちこそ太陽帝国の正しき末裔である証明でもあった。そのため、ゴリウス人は良くも悪くも自尊心が非常に高いと言われ、そのため他国人との軋轢も多く聞く。

 ゴリウスからまっすぐ東へ、つまりアステラルテの方へ向かう東西大街道(アステラルテ周辺ではベルテン街道。第一章で殺人鬼が来た道)は比較的平坦な上整備された部分が多く、さらに治安も良いため、その線上最大の都市アステラルテには非常にゴリウス系の人が多い。ゴリウス人の共同体や公使館もあり、アステラルテでの在外系勢力では聖教国・イステルーア王国(両国はほぼ一体)を除けば最大の規模を誇る。



「ハル…ごめんなさいね」

 廊下を歩きながら、メイアはハルシェイアに謝った。おそらく、少し頭が冷えて、友人を巻き込んでしまったことに改めて気がつき、反省したらしい。

「ううん、こっちこそ、ごめんね。私の所為で…だから、ありがとう、メイア」

 ハルシェイアはメイアに握られていた手を優しくきゅっと握り返す。

「そうですわ、謝るべきはあの教師です。あなた方が互いに気負うことはありませんわ」

 そう、声高に発言したのは一緒に退出してきたリスティだった。立ち止まって、ハルシェイアはその顔を眺めて、

「…えっと?」

と困ったように首を傾げた。それを見たリスティは瞬時に察して溜め息をついた。おそらく、先ほどのやり取りからそうではないかと思っていたのだろう。

「私は、リスティ・ペティル 市内出身。政治科志望。今度はちゃんと聞きましたわね?たしか、ハルシェイア・“えす”・ジヌールさん?」

「…あ、あの…ごめんなさい、“えす”は言い間違え、なの…」

 ハルシェイアは少しだけうそをついた。“えす”は確かに言い間違えではあるが、ハルシェイアの名前ではあるのだ。ハルシェイアの爵位抜きのフルネームはハルシェイア・ジヌール・エステヴァン、ジヌールが生まれたときの元の姓で、エステヴァンが現在の姓――養父の姓――、普通はハルシェイア・エス・・テヴァンと名乗っていた。つまり、その“えす”なのだ。

「あら…そうでしたの?では、ハルシェイア・ジヌールさん…私もハルとお呼びしてよろしいかしら?」

「うん…私もリスティって、呼んでもいい?」

「構いませんわ…それで、えっとあなたは…?」

 リスティはメイアを見る。先ほどの自己紹介では、メイアまで回らなかったためにリスティは、毅然と担任へ反旗を翻した同級生の名前を知らなかったのだ。

「アルメイア・フリューケル、ルメゲン出身で、魔法科志望です。よろしくね、リスティさん。あと、私のことは良ければ、メイア、と」

「わかりましたわ…メイア。――で、あなたは一体、何かしら、たしかハインライさん?」

 そうやって、今度、リスティが見たのは、関係もないのに三人を追うように教室を出たあの男子生徒だった。硬質の黒髪を後ろで束ね、背はメイアと同じくらい、背が少し低めのハルシェイアより若干高い程度、眼鏡をかけた顔は多少険が強いが造作が良く、数年もすれば女子が黙っていないだろう。

 ハルシェイアとメイアも興味有る目つきでそちら見た。ただ、二人の見るところは違う。人柄を見ようとするメイアと、それ以上を見ようとするハルシェイア。

(……この人、すごく鍛えている…。しかも、無駄が、ない。…剣、かな…?)

 ハルシェイアは彼と、その所作を見て、そのように感じた。実力のほどはわからないが、もしかすると実戦経験があるのかもしれないと、ただの勘であるがハルシェイアは思った。

 三人の異性にじっと見つめられた少年だが、まったく表情も変えずに口を開いた。

「……私もあの教師から教わることは何もない、そう思ったから退室した。それだけだが?」

 ハインライは、ほとんど顔を変えず、当然とも言うかのように、冷え冷えした声で言った。これだけで彼の性格が垣間見えた気がする。

(それだけ…?って…それで、いいの…?)

 それを聞いたリスティも同様の感想を抱いたようで、呆れたように彼に言った。

「それだけってあなたねぇ……――まぁ、私も結局、同じ穴の中ですが」

 リスティは溜め息をついて、わざとらしく額に手をおいた。

「あの…そろそろ、いい…かしら?」

 そうハルシェイア達に声をかけたのは、教室を出た最後の一人、副担任のプリメラである。漫才のようなその緊張の欠ける会話に少々呆れたというか、毒気を抜かれたというか、そんな顔をしていた。

「すみません、プリメラ先生。ですが教室に戻るつもりはありません」

 プリメラの前に立ち、ぴしゃりと言ったのはメイアだった。しかし、そう言われたプリメラは少々困った顔をしただけで、逆にこんなことを彼女たちに言う。

「まぁ、そうじゃないかなぁ?とは思っていたから、そんなことは言うつもりはなかったのだけれど…――私は話を聞きたいだけ」

 メイアと、それにリスティが少し意外そうに、ハルシェイアは元から彼女には好印象だったため、安堵したように、ハインライは思案げにプリメラの顔を見る。

「とりあえず、廊下は何だし――そうね、あそこがいいかな…ついてきて。ね?」

 語尾のほうに少々不安な気持ちを滲ませていたプリメラの言葉だったが、それが逆にメイアや、おそらく何か意図があるのではと疑っていたハインライに一応の信頼感を与えたようで、ハインライが頷くと、メイアもいつも通りとはいかないが、少し態度を柔らかくして、

「…わかりました」

と、言った。


 ハルシェイア達がプリメラに案内されたのは、教室のある中等部本棟の北側、渡り廊下で渡った第二棟奥の旧書庫という札がついた小さな部屋だった。

「ちょっと、遠くてごめんねー」

 プリメラが鍵を開けると、中から埃臭さとともに古い本特有の匂いがふわりと漂ってきて、古い本が好きなハルシェイアの心が躍る。

(あ…、いけない、いけない…そんなことをしている暇はないんだった…)

 しかし、すぐに本題を思い出し、本棚に駆け寄りたい衝動に自制をかける。

「そして、散らかっていてごめんなさいねー。……というか、ここを授業の合間に一人で整理しろとか無理よねー、ハハハ…はぁ〜」

 プリメラが乾いた笑いをした後、がっくりと肩を落とし、嘆息した。

 後でハルシェイア達が聞いた話だと、この第二棟と旧書庫は中等科が出来たときから、存在し本棟図書室(現在は第三棟に移る)が出来るまでは狭いながらちゃんと生徒達が使う図書室として機能していたらしい。その後は、版の古い本や歴代の教師が趣味で収集して置いていった本などが集められていった。最近になって旧書庫の管理の問題が教職会議で問題となり、結果、その(面倒な)管理は若輩のプリメラに押しつけられることとなった、と、そういうことらしい。

 その旧書庫はプリメラが狭いと形容したようにそんなに広くなく中央に縦一辺に三人、横に一人、つまり八人座ればきつそうな長机と丸椅子があり、三方が本棚囲まれて、窓はあるかも知れないが見えない。なので、光源はこれだけは最近付けられたのか真新しい魔力灯のみだが、新しいだけあってなかなか明るい。本を読むには十分である。

本は本棚のみならず、その上や床、机の上まで乱雑に置かれていた。流石に机の上や周辺はある程度整理されているが、他の部分は酷いもので埃がうずたかく盛られているようなところまである。

 たしかにこれを一人で片づけろと言われたら途方に暮れるかもしれない。もっとも、その割には少しも現在形で片づけられているようには見えないのではあるが。

「まぁ、好きなところに座って」

 そう促されて、真っ先にリスティが扉から見て一番奥に座り、ハインライが向かって右側、そしてメイアとハルシェイアは並んで左側に座る。プリメラは手前に着席した。

 プリメラは全員が座ったことを確認すると、皆の顔を見渡してから、言葉を発した。

「じゃあ、いいかしら?と、言っても聞きたいのは一つ…、あなた達はこれからどうするの?ということなんだけど…」

 そう言われても元より引っ張られた形のハルシェイアには案があるはずもなく、そっと隣のメイアに視線が送る。メイアは頷くと目線だけでリスティに了解を得てから回答した。

「私はリーバイ教師が発言に対して正式な謝罪をするまで、彼の教えを請いたくはありません。担当教科も、ホームルームも。でも、それ以外の授業は受けるつもりです。…いえ、これは、我が侭…かもしれません…だから、受けさせもらいたい、と言う方が適切なのかもしれません」

 メイアの言葉は、明確な答えというよりも曖昧な方針に過ぎず、それを自覚しているのか多少の自身の無さを漂わせていた。しかし、事前に計画もなにもない突発的なことであり、これは仕方がないとも言える。

 この意見にリスティも頷く。ハインライは無反応だがおそらく同様だろう。

 しかし、プリメラは当然と言えば当然だが難しい顔をする。

「たしかに、リーバイ先生の態度や発言は問題だと思うわ。だからと言って、学校としてはホームルームと担任の先生が担当なされる授業だけに出なくて済むということにはならないわ」

「ですが…」

 メイアが悔しそうに唇を噛む。

「それでも、よ。――ただ…心情的には味方したいのよ。いくらなんでも、理不尽よ、あれは――私も、言葉尻とられて悔しいし」

 本当に悔しかったのか、悔しいと言うと同時に、軽く掌で机を叩いた。そのあと、表情を軽くする。

「だから、一つだけ、提案、というより入れ知恵、があるのよ。本当はいけないと思うんだけど――ここに、担任と副担任に事前に渡された入学予備試験の結果があるんだけどね…」

 と、プリメラが教室から抱えていたファイルをそこで初めて開いた。プリメラはその内容の一部を読み上げる。

「ハインライ・オルデヌール・ファンタヴィオン、全百四十四人の二位、雪組では一位…、リスティ・ペティル、全体の五位、クラス二位…、アルメイア・フリューケル、全体の十一位、クラスでは四位、ハルシェイア・ジヌール、全体の十七位、クラスでは五位、ただし歴史は満点…――まぁ、こんな感じなのよ…多分、学園としてもこれをおいそれとは処分はしづらいでしょうね〜」

「?!」

「それは…」

「それって…」

「なるほど…」

 つまりはここにいる全員は今年の新入生でも暫定的に上位陣ばかりなのである。特にハインライの全体二位、リスティの全体五位の成績は大きい。

 プリメラは頷いて、それからいたずらっ子のようにニヤリと笑う。

「そして、まだ総学長はお帰りになられていないわ…多分。ね、リスティ・ペティルさん?」

「…?……?!なるほど…、わかりましたわ」

 言葉を投げかけられたリスティは一拍置いてから、プリメラの言葉の意図を理解したようで、プリメラと同じような笑みを浮かべた。

(え?…え〜、と…どういうこと?)

 ハルシェイアは分からず首を傾げてメイアを見るが、メイアを分からないと言った様子で首を傾げた。

「…話がみえないのだが?」

 ずっと沈黙していたハインライが、そこで初めて声を出し、怪訝そうに訊ねた。しかし、プリメラは、

「多分、行けば分かるし、早く行かないと総学長がお帰りなられてしまうわ」

とだけ言った。リスティも「そうですわね」と同調して立ち上がる。

(え、それって…?)

「つまり、総学長に直談判する、と?」

 ハインライが驚いたように声を上げた。

「そうなるかしらね」

 プリメラがしたり顔で言った。


 正午。今日はこの時間が下校の時間となっていた。

「まさか…こんなに上手くいくとは…」

 ハインライが感慨深げに呟いた。

 総学長との交渉を終えて第三学校本部棟から出てきたハルシェイア達は歩きながら、ほっと肩の力を抜いていた。現在は荷物を取りに行くため一年雪組の教室へ向かっている。

「コネはこうやって使うものですのよ」

 今にも高笑いしそうに誇らしげな感じで言葉を発したのは、この総学長との交渉の最大の功労者と言えるリスティだった。

 アステラルテ大学総学長は、アステラルテ大学とその三つの系列中等高等学校を束ねる存在でその全教職員を選挙者とする選挙で選出され、市民議会の承認を経て任命される。アステラルテ市でも、市長(行政)、議長(立法)、法院長(司法)、評議会長(公安)、大司教(宗教)と並ぶ六役の一つとして数えられる重職であった。

 なぜそんな、人物とリスティは知り合いなのか。それをハルシェイア達は交渉前に、この本部棟にある総学長の控え室へ行くまでに説明された。

 それによれば、リスティの父親の母の弟――つまりは大叔父――が、この総学長であり、リスティとは親戚同士なのだそうだ。

 そもそも、リスティのペティル家は、アステラルテ建市以来の名族で、代々、市長や議長を輩出するような家柄。現に祖父は先々代市長、父は現財務長官とのこと。であるため、アステラルテで産まれ育った人間にとって、ペティル家の存在は当然関心事で常識に等しく、産まれも育ちも市内というプリメラにとって、個人情報を見るまでもなくリスティと総学長との関係もその辺りで容易に推測が可能な事だったのだ。

 ただそんなことは市外からきたハルシェイア達はしらない。だから、メイアはその素直な驚きを改めて言葉にした。

「まさか、ご親戚とは」

「ええ、大叔父様はお子さまがいらっしゃらないから、昔から可愛がって貰っていますの」

 その総学長から、リーバイのホームルームと授業の出席を拒否するという特例を認めてもらうために引き出した条件は四つ。

 一つには該当時間に所定場所――これは旧書庫となった――に居ること。

 二つに毎実力テストで、この全員の平均点が、クラスの同人数の上位陣を常に越えること(さしあたっては月末の新入生実力テストがある)。かつ全員がそれぞれクラス十位以内の成績を修めること

 三つに、一人でもこれ以外の問題行動で指導を受けないこと。

 四つに、他の授業には病欠など正当な理由がないかぎり、しっかり出席すること。

 これら四つの条件のどれか一つでも満たせなければ、リーバイ教諭に謝罪しその授業に戻るか、もしくは相応の処分――事実上の退学を余儀なくされる。

 これらの条件は一見厳しいようだが、実のところ非常に甘い。テストの点数はまだ全員の実力を確かめたわけではないが、入学予備試験をみればおそらく達成できるだろう。あとの三つも普通に生活していればそうそう問題はなさそうだ。

(あれ…?…よく考えると、一番危ないの…私?)

 この中で予備試験の結果が最下位なのも、この間も騎士堂の兵士を転ばしちゃったりと咄嗟に何するかわからないのもハルシェイアだった。

(足…引っ張らないようにしよう…)

密かに誓うハルシェイアだった。

「プリメラ先生、明日は旧書庫に登校して、半日授業説明でよろしいんですよね?」

「あ、ああ、うん、そうなるわね」

 メイアは一緒に中等部教室へ戻るプリメラに明日の予定を確認していた。プリメラは明日からこの四人の仮担任を務めることになっている。しかし、そのプリメラは若干上の空だった。

「先生…?どうかなされましたか?」

「え?あー…、なんというか、ようはあれよ、緊張した…。だって、総学長よ、総学長」

「ですが、大叔父様と会おうと言い出したのは先生ですわよ?」

「それは…そうなんだけど…、ほら実際、会うと。だって、総学長だよ、総学長。私は下っ端の教師。き、緊張しないはずないでしょ?」

 そう言うプリメラの目は若干涙目だった。総学長という言葉を繰り返し言っているところをみると、どうやらまだ緊張が解けていないようだ。凄いのか、凄くないのかよく分からない先生である。

「それにしても、なんで先生は私達に協力を?」

 もっともな疑問をメイアが口にした。それにプリメラは首を傾げる。

「ん〜…言葉にすると難しいけど、一言で表すと、教師、だから?――ああ、ちょっと、私、偉そうだわ。でも、うん、そんな感じ」

 そう言って、少し照れる。いまいち的を射ない答えだったが、誤魔化しているという感じではない。これはこれで真摯な答えなのであろう。だからメイアも、

「そう、ですか」

とだけ応えて、頷いた。

 そんな様子を気にしながらもハルシェイアは、自然と一番後ろへ位置することになったハインライの横に並んだ。ハルシェイアは彼のこと凄く気になっていたのだ。廊下出て会ったときは、変わった人、とだけ思ったのだが、プリメラがフルネームを呼んだとき、その名前がひどく気になった。

 ただそれから、ハルシェイア自身が引っ込み思案のことも重なり、なかなか話せなかったのだ。

「あ…あの、えっと…うん、と…あれ?」

(…あれ?ど、どうしよう??…私、ここにきてから、こんなの、ばっかり、だよう…)

 勇気を出して話しかけてみたもの、何をどう話すか緊張で飛んでしまったのだ。すると、逆に話しかけられたハインライが訝しげにハルシェイアに声をかけた。

「たしか…ハルシェイア・ジヌール、だったかな?」

「…あ、うん。ハルシェイア・ジヌール…ハルで、いいよ。あの…、その…王族、だよね?」

 どこのとは、ハルシェイアは言わなかった。と言うより、先走って言えなかったことに気がつけなかったのだ。しかし、ハインライはそのハルシェイアの言葉に全く驚かず、

「確かに私の父はエンガスト国王オベルトだ。もっとも、私は末子の第三王子だが」

と当然のように肯定した。

 ハインライの生国であるエンガスト王国はアルナジェン北端に位置する王国で、北は世界最大の山脈、オルデリスティル山脈に接し、国土の半分は山地となっている。山脈を挟み北東はジャヴァール、西は中央山地、すぐ東にはジャヴァールからアルナジェンに入るボウスン峠があり、また領地を、山脈沿いを行く天井街道が貫く交通の要地でもある。

 またそのような土地のため北方民族の侵入や、ジャヴァールが統一するまで不安定だったモルゲンテ地域からの勢力や野盗の流入などが相次ぐ土地であり、歴代の国王は武芸を家臣百姓ひゃくせいに奨励し、強力な軍隊を作り上げ、アルナジェンでは「北の強国」もしくは「尚武の国」として有名である。

 実際、ハルシェイアもジャヴァールからアステラルテへ来るとき、エンガストを通っており、その国風を示すような質実剛健な雰囲気を持つ街並みを見ていた。

 しかし、ハルシェイアには別の意味でエンガストとはなじみ深い。それを図らずも、ハルシェイア自身ではなく、ハインライが指摘した。それも、これもまた当然のような口調で。

「君の義父君は、私の叔母の従兄にあたる」

「っ?!」

 ハルシェイアは突然言われたその言葉に肩を強ばらせて驚いた。

(どう、して…知っている、の?)

 ハルシェイアの養父、ガンジャス・エステヴァンは、エンガスト王国の出身なのだ。それも代々将軍を輩出する武門の次男だったが、約三十年前、将軍である父親に反発して十四にして国を飛び出したのだ。

 だから、ハルシェイアにとっては話に聞いてなじみ深かったのだ。

「な、なんで…?」

「?…ああ、何故分かったか?ジャヴァールの動向は我が国に大きく影響する。その上、統一の英雄はエンガスト出身…自然とガンジャス・エステヴァンの情報は集まる。その中に、私と同い年の養女がいるというのを見て気になっていた。ハルシェイア・エステヴァン、白髪、旧エンコスで拾われ、元の姓はジヌール。君だろう?」

「あ、ぅ」

 そう理路整然と言われて、ハルシェイアは思わず頷いてしまった。

(当然と言えば…当然、だよね。父さんって有名人だし。よく考えると、私も有名人、なんだよね…?こんな西の方ではしられていないだけで…)

 もう少し、そう言うことを自覚するべきかも、などと考えていると、

「ハル、それにハインライさん、どうかしたの?」

と、少し遅れたことを心配したメイアが振り返って二人に聞いた。

「え…、え、あの、あのね…」

 誤魔化そうと必死な様子のハルシェイアに、助け船を出したのはなんとハインライだった。

「彼女の養父がエンガスト出身らしいので、その話を少ししていたのだ」

「…あら、そうでしたか。ハル、邪魔しちゃったみたいね」

「…あ、ううん。ごめんね…、メイア」

 ハルシェイアが少々の罪悪感から心底申し訳なそうにメイアに謝ると、メイアは笑って「いいのよ。ハル」と言って、前を向いた。

 それを確認するとハルシェイアは、助けてくれた横のハインライの顔を見る。ハインライはそのハルシェイアの視線に気がついたようで、静かに片目を閉じた

「わざわざ、言うことでもない。それに、隠しておきたいようだったから…」

 そこで、ふっと今まで鉄面皮だったハインライが優しく笑った。たった一瞬だったけれども。

 ハルシェイアは驚いて、目をぱちくりさせた後、

「…ありがとう」

と、ハルシェイアも笑った。



ちょっとご都合主義的かなぁ、と思いつつ…。


本当は総学長との交渉もあったのですが、大した内容ではない上に、中だるみになるかなぁ、とカット。


あと、現在「小説家になろう」のエラーでアクセス数閲覧できず、どのくらい人に読んでもらえているのか確認でないのでちょっと不安です…。


2010/10/12修正(メッセージによるご指摘による)

・「普通はハルシェイア・エステヴァン名乗っていた。」→「普通はハルシェイア・エステヴァンと名乗っていた。」

・「学園としてもこれをおいおいとは処分はしづらいでしょうね〜」→「学園としてもこれをおいそれとは処分はしづらいでしょうね〜」

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