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学園都市アステラルテ  作者: 順砂
第二章『何も知らないお姫様達』
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第1話「入学」

先行版と基本的には変わりませんが、ちょっとだけ登場キャラが増えています。

 アステラルテ第三中等高等学校は三校あるアステラルテ大学系中等教育学校の内の一つでルーベイ区に存在する。開校は約百年前、三校の中で最も学科、生徒数が多く、敷地面積も広い。ことに面積に関しては市内の公的施設の中でアステラルテ大学に次ぐ二位の広さ(但しアステラルテ大学は第三学校の約五倍の面積)を誇る。

 また留学生の割合も他校が全生徒数の一割に満たないのに対して、ここでは例年三割から四割を留学生が占めており、また学校としてのレベルも高い。

 アステラルテ大学系学校の制服は共通してベストが基本であり、その上に指定の黒いコートやジャケットがある。ベストは学校ごとに色が違い、第一学校が濃紺、第二学校が深緑、第三学校が蘇芳である。それにベストと同色のネクタイ、男子は白シャツに紺のスラックス、女子は白のブラウスに白鼠色のスカート――これが制服となっている。但し夏は式典を除きベスト無し、半袖も認められている……。


 ここにその制服の規定に準じた格好をしている一人の少女がいた。

 白い長髪で、碧眼、すごく綺麗な、やや背の低い少女。半袖にラズベリーレッドのベストが似合っていた。

 アステラルテ第三中等高等学校中央大講堂――ここで中等部入学・高等部進学式が行われていた。壇上ではアステラルテ大学総学長の肩書きを持つ老人が滔々と何事かを語っていたが、おそらくその話を聞いている人間はここでは半分もいないだろう。

 ではこの少女――ハルシェイアはどうだろう?

 ハルシェイアは真面目である。聞く気はある。

 が、残念ながらほとんど耳に入っていなかった。

 何故か?

 皮肉な話、その総学長が述べた祝辞の冒頭通り――期待と不安でいっぱい、だったのだ。

 

「あ、あれ…?メイア?…ジンス?…ベティ、…?」

 そんな気持ちでいっぱいだったハルシェイアは、大講堂から出た津波のような生徒達に翻弄されて、一緒に並んでいたはずの友人、メイア達を見失ってしまっていた。

 キョロキョロと見渡してみるものの、講堂の外では多くの人影が蠢いており、それだけでハルシェイアは気後れしてしまう。

(え、えっと…、この後、中等教養科校舎前でクラス発表、のはず…だけど)

 場所は寮から一番近い北門から大講堂へ来るときに通った途中にあったので、一人でも行ける。しかし、みんなで行こう、と約束していたのだ。

(ど、どうしよう…。先行ったほうがいいの?それとも…)

 そこへ行くことが分かっているわけだから、当然、そこへ向かうのが一番確実である。しかし、もしかしたら自分を捜してくれているかもしれない。

 そんな凄く簡単なことが、簡単なことだからこそ、ハルシェイアを悩ませていた。

(えっ…と――?)

「そこの、あなた――」

(?)

 ハルシェイアが右往左往とわりと剣呑な声で話しかけられた。振り向くと、きつい香水の匂い。そこに居たのは四人のグループ、三人が女子で、一人が男子。話しかけてきたのは険の強い黒髪の少女、その横には少しタレの眼の栗毛の少女、その二人の後方には金髪を豪勢に結い上げた美少女、そして少し太ったくすんだブロンドの髪の少年がいた。

「あ、あの?」

「邪魔です。ここは、セラフィナ様がお通りになるのですよ」

「え…えっ?!」

 と、言うが早いか、その少女はハルシェイアを押しのけようと手を伸ばすが、その手は咄嗟に反応したハルシェイアが一歩退いたことで空振りに終わり、少女は不機嫌そうに睨め付けた。

(えー、と…なに?)

「アステラー、こんな子、放っておけばー?」

「…そうですね」

 妙に間延びした口調の栗毛の少女が言うと、アステラと呼ばれた少女は眉にしわをよせながらも納得したように肯き、ハルシェイアを一瞥してから先頭に立って歩き出した。その後、すぐ栗毛の少女――これは完全にハルシェイアを無視して――、その後すぐ、金髪の、おそらくこれがセラフィナだろうが、何故か勝ち誇った用に通っていき、最後に少年が嘲笑を浮かべて、そのまま中等科校舎へ続く道の向こうへ去っていた。

「………え、えっとー…、今の、なに…?」

 あまりのことに呆気に取られたハルシェイアはそのまま固まったように彼女たちの後ろ姿を見つめるしかなかった。

 そのまま、それを見送ると、今度は知った声で愛称を呼ばれる

「あ、ハル、いたいた、こっちこっち」

 と、声がした方を振り返ると、道のちょうど反対側に栗毛の少女――ベティこと、ベティアナ・カモドが手を振っていた。

 ベティは同じ寮の中等科一年生で、ジンスのルームメイトだ。入寮の次の日にジンスから紹介された。

 何でもアルナジェン中東部のイステルーア王国の商人の娘で、商業科志望とのこと。趣味と実益を兼ねて様々な職種の店をリサーチするのが趣味らしく、ハルシェイアも数日前、メイア・ジンスと一緒にベティに色々と連れていってもらっていた。

 ベティの横には、微笑んでいるメイアと少し苦笑いのジンスもいて、ハルシェイアはホッと安心した。ちなみにこの四人がそのまま本年度の第二女子寮新一年生の全員となっている。

 ハルシェイアが小走りで三人の方へ向かうと、ジンスがそんなハルシェイアに悪戯っぽく言った。

「ハルさん、ハルさん、一人で心細くて泣きそうになっていなかったかなぁ〜?」

「……なって、ない、もん」

 ジンスのからかいに、ハルシェイアはちょっとだけムッときて反論した。実際、泣きそうにはなっていなかった、はず…である。ちょっと、色々な意味で困惑したものの。

「本当かなぁ?本当かなぁ?」

「ほん…むぎゅ?!」

 本当、と言おうとしたハルシェイアだったが柔らかい衝撃を受けて言葉を噛んでしまった。

「やっぱ、ハルはかわいい!」

「っ〜」

 少し背の高いジンスに抱きしめられた、少し背の低いハルシェイアはちょうどジンスの肩口に顎が当たり巧くしゃべることが出来ず藻掻いた。本気で引き離そうとすれば、色々な手段でそれをすることもできるのであるが、そんなことをするわけにもいかず、為すがままとなるしかなかった。

 助けを求めて、まずベティを見たがベティはいかにも面白そうにニヤニヤ笑って、「ガンバレ〜」と唇だけで伝えてくる。

(…ひどい)

 なので、今度はメイアに目線で意志を伝えると、メイアは頷いてくれた。

「…ジンス、ハルが困っているわよ」

「だって、こんなに可愛いんだよ?」

「それは、認めます」

(あ、れ…?)

 メイアは笑顔でハルシェイアの白髪を柔らかに撫でた。その暖かな手で温かい気持ちになるのだが、それと同じくらいなんだかちょっと裏切られたような気もした。しかしながら同時に、ハルシェイアは、なんとなくこのままでいいかなぁ、とも思う。なんだかんだで、ちょっと嬉しかったのだ。

「…あのね、あなた達、凄く目立っているんだけど?」

 そこにハルシェイアにとっては幸か不幸か外から声がかかった。キリっとした女性の声。

 いつの間にそこに来ていたのか、少々呆れたようにハルシェイア達を見ていたのは、柔らかそうな眩しい金髪を肩下まで伸ばした長身の美女だった。傭兵科ということを示す剣帯から細身の剣を下げている。彼女のことはハルシェイアを含めて、四人全員が知っていた。それもそのはずである。

「寮長先輩?」

「ミーア先輩?」

「女神さま…じゃなく、寮長さん?」

「ミーアさん?」

 それぞれ、ベティ、メイア、ジンス、ハルシェイアにそうやって呼ばれたのは、ミーアスティア・リュ・アランフォス、高等部傭兵科三年でハルシェイア達が生活している第二女子寮の今年度の寮生長だった。

 新入生には、一昨日の夜、寮生の顔見せを兼ねたささやかな寮内パーティーがあり、その時、上級生は欠席者一名(ジグルットの妹、カティ)を除き紹介されたのだ。

 実はハルシェイアは、その前に、真夜中の裏庭で凄く印象的な出会い方をミーアとしたのだが――ハルシェイア自身は気にすることではないと思うものの――本人の名誉のため黙っておくことにしてある。

 それはともかく、ハルシェイアが現実の彼女に眼を戻せば、後輩達に呼びかけられたミーアは掌を見せて笑って挨拶した。

「おはよう、みんな。入学おめでとう」

「「「「ありがとうございます」」」」

 四人は声を揃えて御礼を言った。ジンスもハルシェイアから手を一旦離す。

「それはそうと、少し周り見た方がいいよ。あなた達、良くも悪くも目立つんだから、ね」

 見れば、確かにものすごく見られている。ジンスはそれに初めて気がついたのか、恥じたように頬を赤くして、そこを人差し指で軽く掻いた。対して、メイアは何事もなかったように平然と微笑んでおり、ベティにいたってはむしろ周囲に手を振って愛嬌を振りまいていた

 ただ、その視線の半数近くは現在、ミーアに向いている気がするのは、おそらくハルシェイアの気のせいではない。そういった意味では、ミーア自身、人のことは言えず、よくよく目立つ美人だったのだ。

「ところでミーア先輩?たしか、高等部三年生の先輩方は、今日登校はなかった、と思うのですが?」

 そうミーアに訊ねたのはメイアだった。すると、ミーアは困ったように苦笑いした後、はぁ〜、嘆息した。

「今年度の傭兵科の総代、押しつけられたの…」

 そして、少々わざとらしく肩を落とした。

 この学校の総代とは各科の生徒の代表を指す(但し、中等科と高等本棟四科合同生徒会は会長と称す)。その決定方法は各学科で異なり。傭兵科では慣例として本来は最高学年(三年)の首席がなるらしいのだが、首席の人物の性格が少々変わり者で、周囲も教師もその首席までもが、皆次席のミーアを推したらしいだ。

 そのため、今日、傭兵科新入生説明会のため登校となった、とミーアは少々疲れた様子を作りながら話した。

 訊ねたメイアは「おめでとうございます」と祝いの言葉をかけるべきなのか、「それは…災難ですね…」と声をかけるべきなのか迷ったようで、

「ああ…それは…」

と曖昧に口ごもってしまったが、良くも悪くもそんなことを気にしないベティは、

「ごくろーさまです」

と、ごくごく軽い調子で返した。

「ふふ、ホント、ご苦労」

 それを聞いたミーアも気を悪くした様子もなく、むしろ笑っていた。面倒は面倒だけれども、総代という職を悪くは思っていないのかもしれない。

(…うん、本当は、すごい、ことなんだよ、ね)

 ハルシェイアそんなこと思って、それを口に出す。が、悪い癖というか、いつも通りというか。いざ口に出すといまいち自信なさげな口調になってしまう。

「あ…、でも、総代…って、すごい、ですよね?」

「ハル、“?”をつけなくてもすごいって」

 ハルシェイアのちょっとぼけた(ようになってしまった)感想にジンスがツッコミを入れる。

「あ…、ぅ…そういうことじゃなくて。すごいのは、すごい…じゃなくて、えっと…」

「ふふ、ハルちゃんの言いたいことわかっているから、ね?ようは、凄いのは良いこと、ってことでしょ?ありがとう」

「あ、えっと、ど、…どういたしまし、て…?」

 この応えでいいのかなぁと、ハルシェイアはミーアを見上げて、首をちょこっと傾げる。そのハルシェイアの仕草を目の前でしっかり見てしまったミーアは一拍目を見開いた後、左手で口を押さえて呟く。

「これは、まずい…」

(え…まずい…?わ、私、何か、しちゃった、の?)

「まずい――これは可愛すぎるっ!」

(…………へ?…え?!)

 ポフっという感覚と共にハルシェイアの視界が真っ暗になる。ハルシェイアの頭は柔らかくて温かい何かに包まれていた。

「ねぇ、なんでこの子はこんなに可愛いの?」

 そうすこし興奮したように言ったミーアはハルの顔をそれなりの大きさがある胸にうずめつつ、その髪を撫でていた。

(っ〜、だ・れ・か〜)

 またもや藻掻く格好とハルシェイアだったが、遠目から奇異の目で見る野次馬と温かい目で見つめるメイアとベティ、それに同志を見つけたようなジンスが居るのみで、数十秒後、我に返ったミーアが手放すまでハルシェイアに救いの手が差し伸べられることはなかった。


入学式というか、その後のちょっとした風景。

うざいぐらいにハルシェイアが可愛いことをアピールw

ちょっとやりすぎたかも…と反省中。


2010/10/12修正(メッセージによるご指摘による)

・「とミーアは少々作れた様子を作りながら喋った、」→「とミーアは少々疲れた様子を作りながら話した。」

・(…うん、本当は、すごい、ことなんだよ、ね」→(…うん、本当は、すごい、ことなんだよ、ね)

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