打ち明けない心
「その、こだわりは・・・」
「こだわりは?」
「えっと・・・パン生地にたっぷりのバターを使っているので、生地の弾力がでて形を整えやすくなります」注)この世界観内での話です。
「うんうん!そうだね」
「なので、パンの中に空洞を作ることができ、薄い生地の層がたくさんできるのでサクサクとした食感になります」
男の子は自信無さげに話した。だけど・・・
「・・すっすごい!!!当たってるよ。なんでわかったの?」
ワタシは、心の底から驚いた。この店のとっておきのこだわりだから。わかるわけないよなぁと、イジワルしたつもりだったからだ。
「いえ。簡単なことです。あなたの説明を聞いていれば、わかりますよ。バターがとっても重要だということと、知識を結び付ければいいだけのことですから」
さも当たり前のようにさらっと言われては、こちらも困ってしまう。
「そんなことないよ。えーと、じゃあ次は・・・」
その後も必要なことをひとつずつ丁寧に教えていった。全て教え終わった頃にはもう夕方になっていた。
「まあ、こんなとこかな。また何か分かんないことがあったら遠慮なく言ってね」
「はい。分かりました」
女の子と男の子は今日は休んでいいと店長に言われたので部屋と家に戻っていった。
今までとは、違う部屋。たったひとつ同じなのは、写真立て。
今日も優しく笑って見守ってくれている。
「母さん。とても素晴らしいことがありました。あの子と仲を深められるでしょうか。でも、ちゃんと見ていてくださいね」
男の子はそう言うと屋根裏の小さな窓を開け、町の通りをじっと見つめた。
ドアを開けるといつもと同じ家の中。ひとつ違っているのは、女の子の胸の内だけ。
弾むようなウキウキとした気持ち。目にとまる全てが素晴らしいと思えるようだ。こんな気持ちになったのは、これが初めてだった。
女の子は部屋の窓を開けて、そこから広がるだだっ広い草原の向こう地平線を見つめた。
「ああ、ステキなことがこれからもずっと続きますように」
そっと確かめるように静かに呟いた。




