『心の音』
短編その1。
長編更新までの間、この形式で月一くらいのペースで短編あげる予定です。
─朝、目が覚めたら…。
そう期待して目を開けても、いつも通りの世界が広がるだけ。
ある人からしたら、羨ましがられるかもしれない色に溢れた世界も、私にとってはただの冴えない世界。
溜め息をついて、寝巻きのままベッドから出る。
少し冷たい床に足を滑らせながら、目的の場所まで軽い足取りで向かう。
窓から射し込む朝日が、仄暗い廊下を優しく包み込むような幻想的な景色も、私の心を揺らすようなものではない。
白い扉を開けて、目的の部屋に入る。
いつもと同じ、埃が篭ったような独特で私が落ち着く匂いに包まれる。
目に映る世界からは感じられなかった想いが、胸の鼓動を少しずつ早く動かす。
そっと部屋の中央に置いてあるものに近づく。
優しく、壊れないように丁寧にそれに手を置く。
艶やかで、夜の闇のように美しい黒に塗られたそれを、微笑みながら撫で、そして蓋を開ける。
白黒に彩られたもののはずだが、私にはどんなに美しい花園よりも綺麗に見える。
「さぁ、今日もはじめましょう」
私は心の中でそう呟き、白黒の花園に手を置く。
聴こえないはずの、しかし聴き覚えがあるだろう音色を心で奏でながら、今日も私は音の無い世界を生きる。