アクシデント
「さて、このコンテストもいよいよ最後のエントリーです! 大激戦のガチ女装部門、大賞は一体誰の手に!? トリを飾るのは、この男だ!」
『男がもやしだから気色悪いんだ! 女だったら文句無いだろ!! 花神楽No.1厨二にして放課後倶楽部副部長、いざ参る! エントリーナンバー四番、テオ・マクニール!!』
颯爽と登場したテオは真っ黒のイヴニングドレス姿だった。露出した肩や腕はほっそりとしていて白く、ちらりと見える足も同様だ。うっすらとメイクも施してあるらしい。こうなると体の貧弱さはすべて美点となり、その浮世離れした美しさは蝋人形のような不気味さすら感じられる。美しい顔がドヤ顔で台無しだが、それ以外はスレンダーな美女がそこにいた。観客の誰もが息を飲んだ。
「うわぁ…すげぇ…」
「どうだ、これが俺様の本気だ」
「分かった、分かったからそのドヤ顔やめろむかつく」
「この最強の俺様で蒼太とヴァレンタインの仇を取ってやる」
その立ち姿と言動の落差といったら。それによって観客は現実に引き戻されたのだが。
ソウルはいつも通り審査員からコメントをもらおうとしたのだが、その前に審査員席のマイクを掴んだ人物がいた。花子だ。
「チェンジ」
「何故!?」
「違和感のない女装なんて女装じゃねぇんだよ出直して来い」
「このファニーフェイスに向かってチェンジとはなんだ! 大体そんなの個人の趣向だろうが!」
「個人の趣向で審査員して何が悪い!」
「花子、あんまりじゃないか、あんなに可愛いのに!」
「えっ、可愛い!?」
「えっ、アレックス先生何言ってるんですか」
アレックスが審査員席に詰め寄ったことで事態は思わぬ方向に向かう。そして花子がマイクを通して放った爆弾発言がこれである。
「大体アレ私のドレスじゃねぇか! お前パクリやがったな!?」
「言ったら貸してくれないだろう?」
「えっ!!?」
会場は騒然となった。ステージ上のテオは元々青白い顔をさらに青ざめさせて立ち尽くしている。何かあったのか。ソウルは動揺しておろおろとするだけである。
「おいどうした」
そこに、着替えを終えてきたであろう深夜が裏から現れた。双方から事情を聞いている。ソウルは内心ほっとしていた。彼ならば事態を収拾できるかもしれない。しかし、その期待はテオの一言によって無残に崩れることになる。
「あ…アレックス…まさかこの下着…」
「「「は!!!!?」」」
「言ったら貸してくれないだろう!」
「「…アレックスてめぇぇぇぇぇぇ!!」」
花子と深夜の怒号が響き渡ったが、一瞬先に沸点を超えたのはむしろ深夜の方であった。さすがに事態が深刻になったことから、風紀委員らが止めに入る。テオはその場で崩れ落ちる。顔面蒼白だ。何とか落ち着いたのは数分経ってからであった。その間、他の審査員は恐怖から避難していたことは言うまでもない。
「はぁ…すいませんお騒がせしました。それでは、採点です!」
「八点、九点、七点、九点、二点…合計は…三十五点!! なんと! ノハをわずかに上回ったぁぁぁ! ガチ女装部門、大賞は、テオ・マクニールに決定です!」
「いよっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
テオはガッツポーズを決め、そこに舞台裏からまだチャイナドレスを着た蒼太が走ってくる。二人は歓喜の抱擁を交わした。
「テオェならやってくれると思ってたよー!」
「仇はとったどーーーー!!」
「おめでとうございます! 以上でコンテストはすべて終了です! これより、表彰式に移ります。出場者の皆さんはステージ上にお越しください」
出場者と審査員がステージに勢ぞろいする。花子は先ほどの騒動の余波かまだ不機嫌そうだ。




