赤を持つもの
木々の間を、細長く光る糸が通り抜けていった。
「はあ、はあ、はあ」
山の中の獣道を、黒いマントを羽織った男が走り抜けていく。男の右腕に握られていたのは、青い刀身を持った短槍だった。
「どこにいるッ。姿をあらわせ!」
黒い稲妻のようなエフェクトとともに打ち出された槍は、大木を数本貫いて夜の空へと消えた。
依然、シーンとした森は風すらも感じさせなかった。
男はベルトポーチに入ったものをじーっと見つめ、焦ったように周囲を見渡した。
「出てこい! {オル・デイン・スパイク・フォーリング}」
轟音とともに、無数の黒雷が雨のように降り注いだ。勝利を確信し、男はにやりと笑った。木が無数にあるこの場所には、逃げ場のないほどの雷が寄せられるようになっている。だから、彼はここまで逃げてきたのだ。
「こちらSS―Ⅳ。追跡者を撃退しました。死体の確認へ急ぎます」
ざっと、男は落ち葉の上へ一歩踏み出した。
ガザザ!
「!!」
視界が反転し、妙な浮遊感とともに足への痛みを感じた。疑問すらわくようなこともなく、男の胸には雷の槍が刺さっていた。
「……{デイン・スパイク・ラピッド(劣化版)}」
「ばかな…おれの魔法で…?」
答えることもなく、田中は足をワイヤーに吊り下げられた男へ近づいていく。彼の着用している黒い鎖帷子は、まるで消音魔法でもかかっているかのように静かだった。いつもの暗くて赤い眼をよりポーカーフェイスにした状態で、死体からベルトポーチを剥ぎ取った。
「そんな目で見るな。…これも仕事だ」
ワサワサと風が泳いだ。
星がやけに輝いて見える。
田中はそう思いながら空を見上げていた。
前の世界では星なんて見たことがなかったから、これほど美しいものの存在は、不可解で仕方なかった。
「命の輝きか…」
そうつぶやいて、
「ハハハハはハハハハ…」
命を奪う仕事を業合としている自分がいう台詞ではない。田中は思った。
死んだ男の持っていた魔信機を拾い上げ雷魔法で構成を作り変えると、その奥から上司の声が聞こえてきた。
「機密魔法の奪還だが、終わったぞ」
ぶっきらぼうに言い放てば、魔信機ごしに渋い声での返答があった。
「ご苦労。いつものところへ置いていけ」
田中は懐から取り出したSPポーションを飲み干し、魔信機を砕く。
「{転移}ウォルカ!」
田中 作造
5年前にこの世界へ転移してきてから、田中は殺人ギルド員として働いてきた。
通称(黒い葬儀屋)。そう呼ばている。
14歳の田中が一番慣れ親しんだ武器は、ワイヤーロープと短刀であり、今も使っていたりする。毎日の訓練では、人間兵器となるための改造を行ってきた。現在は大きな組織がお得意さんとなっている。




