Hello, wonderful world.
夏の陽射しは生い茂る青葉に遮られ、緑道のタイルをまだらにそめた。
透き通る青空の下には、夏を象徴するような入道雲が湧いている。
18歳の夏休み。
多くの友達が受験勉強を始めるなか、俺はやりたいこともなく、茹だるような毎日を送っている。
高校で出された課題に手も付けず気づけばもう8月半ば。
バイトに行く気もなく、家から一キロ程の距離にある寂れた公園に足を運んだ。
その場所で意味のない散歩をはじめてから、はや一時間。
何か叫びたくなるような懐かしさが胸を締め付ける。
子供の頃に思い描いた夢は、もう色褪せてしまって、かつての輝きはない。
いつか、そんな日が来ることはわかっていた筈なのに。
いざそれが訪れるとこんなにも怖い。
ある日誰かが言った。
「夢は結局夢なんだよ」
その意味を、今更ながらに思い知る。
その通りだった。
最初から敷かれたレールを歩けば辿り着く夢なんて、味気ないに決まってる。
頑張って、努力して。
それでも大多数が夢半ばで挫折して行くことも、今ならわかる。
じゃあ俺は何で生きているんだろう?
何が成せるだろう?
この人生に何の意味があるのだろう?
ニートや引きこもりが蔓延する世の中に生まれた。
ゲームやネットが流行する世の中に生まれた。
非現実を愛する世界に生きてきた。
……思えば。こうして空を見上げることさえ、久しぶりだったような気がする。
下を向きすぎた。
そろそろ終わりにしないと。
自分の生きる理由を見つけにいかないと。
大きく息を吸った。
生き返る心地がする、なんてことはないけれど。
現実ときちんと向き合う時が来たんだ、なんてことを思った。
―――――――♪
澄んだ歌声が聞こえる。
懐かしさを感じるその声の方へと目を向ける。
木陰に腰掛けて、女性が歌っている。
「―――――辿り着く場所にある自分を
それまでの自分が誇れるように―――――」
名も知らない歌。
名も知らない女性。
ただその声と詞はあまりにも懐かしくて。
その場所に立ち尽くした。
「―――――いつか描いたあの日の夢を
将来の自分が描けるように―――――」
穏やかな歌声は風に乗る。
優しい音色だ。
風に揺られた葉の音すら、女性の歌声に華を添えていた。
まるで今の俺を歌ったかのような。
「―――――さよなら wonderful world.」
それが余命3ヶ月の柏木夏希との出会いだった。