代筆ー2
翌日の朝。京都府内のとある公立高校に通っている僕は水曜日なので当然のごとく学校に登校した。ブレザーの内ポケットには僕が‘’代筆‘’した手紙がある。
何度となく、倫理が手を操ろうとしたが、それを山上の亡霊が止めた。
もう秋だというのに、太陽がジリジリと照り付ける。
周りを歩く人の中には上着を手に持っている人もいる。
汗がタラリと頬を流れる。
教室につき、自席に向かうと同時に平坂の席を見た。
いる。
友人と話しながら、その一つに後ろでくくった長い髪を揺らしている。
鞄を机の上に置く。ブレザーをその上に置く。内ポケットから手紙を取り出す。
「-平坂」
平坂に近づき、後ろから話しかける。声が揺れる。
「あ、野崎君。おはよう」
平坂が髪を揺らして、振り向く。いつものごとく、眼鏡が似合っていない。コンタクトにでもすれば良いのに。どこかゆるい雰囲気がある。
「手紙、山上から」
震える足を激励し、平坂に手紙を渡す。少し汗でよれている。
「ありがとう。読むね。あ、平坂君にもありがとうって」
「言っとく」
もう、言えないが。一生、永遠に。
「野崎君、現国のプリント、した?」
「あぁ、そういえば。やったと思う」
そんな場合ではなかった。存在自体、忘れていた。
「夏目漱石の『こころ』でしょ?読んだことある?」
「いや、無いが…。どんな話だ?」
「えーとね、」
と、
キーンコーン カーンコーン
チャイムとやらが鳴った。耳障りだ。話を続けても良かったが、生真面目な平坂が話をまとめた。
「あ、鳴っちゃったね。じゃあね」
「・・・ああ」
そういって自席に戻らざるおえなくなる。友人など元より少ない。その内の一人が死んだんだから、さらに少なくなった。しがらみが少なくて、楽ではある。寂しいとはたまに、思う。
一限目は現国だ。何か右目の調子が悪い。
教師の言っていることはおもしろくない。先に『こころ』を読み進める。
教科書は読みづらい。しかも、第三部の一部のみ、とは、手抜きにもほどがある。すべて載せるべきであろう。
『精神的に向上心のない者はばかだ』
なんだ、精神的向上とは。まさか、『K』のような学問や宗教にのめりこむことではあるまい。まさか『私』のようなエゴにのみ従って生きることではあるまい。『K』は愚かだ。自殺した。自分の理想とする道を踏み外したからといって自殺しているようでは、この世は自殺者ばかりになるであろう。残るのは坊主か、神父か、一部のエリートか、あとは理想も何もないバカばかりであろう。
と、唐突に「死」というものが頭を侵食し始めた。
いつかはたどり着いてしまうゴールだ。どうしようもあるまい。
そのゴールが先か、今か。それだけだ。
では、死ぬ時は一体、どんなものであろうか。
ふと山上に聞いてみたくなった。
一生聞くことはできないけど。
一体、どんなのであろうか。
お久しぶりです。今回も楽しんでいただけたでしょうか?楽しんでいただけ
たのなら光栄です。
もし、あなたが野崎の立場なら、”代筆”しますか?もしよければ、教えてください。
今、僕は引っ越し中で、家がごたごたしています。しかし!そんなことはお構いなく話は続きます。次の話は9月14日か15日に投稿します。
感想、改善点、その他何か気付いたりコメントがありましたら、感想欄に書き込んで下さい。ぜひ、反映したいです。
では、季節柄、ご自愛くださいますよう、お願いいたします。
また、お会いできることを楽しみにしています。