代筆 ―1
『君に手紙を書く日が来るとは、僕にも思いはしなかったよ。
最初に断わっておくよ。少々汚い字で申し訳ない。書き慣れていない左手で書いているのだ。練習したんだが…ダメだな。
さて、君がこの手紙を読んでいるという事は僕はもう死んでいるのだろう。まだまだやり直したことがあるが、まぁ、しょうがない。覚悟はできている。
君にお願いしたいことがある。平坂君に僕が死んだことを黙っていてくれないか?母や父にも口止めをお願いしているから、あとは君が黙っていてくれていたら完璧だ。1か月ほど、辛いかもしれないが、頼みたい。そして、願わくば――こんなことを君に頼む僕はひどいな――僕をよそって平坂君と文通を続けて欲しい。無論、ひどいことを頼んでいる自覚はある。無理ならば無理で良い。
なぜ、こんなことを願うのか、と君はいぶかしむだろう。なぜならば、僕は平坂君が好きだからだ。今、彼女に知って欲しくない。・・・なぜだか、僕自身にも理解できない。恐らく、意味の分からぬ自尊心や利己心からであろう。
兎にも角にも、野崎君、頼んだよ。
最後にこれだけ言っておこう。
今までありがとう。先に逝く。ごめん。さようなら。
山上 時政』
僕は二度、山上の手紙を読み返した。
昨晩死に、山上の母から連絡をもらい、今日、御通夜が放課後にあった。そこで手紙を渡された。
平坂にも言おうか言わまいか悩んだが…。言わなくて正解だったのか。
ブレザーの内ポケットから一通の手紙を取り出す。
「・・・僕は‘’代筆‘’するべきか・・・否か」
山上の遺志を継ぐならば、するべきであろう。
人としての倫理に基づくならば、するべきではなかろう。
僕は悩んだ。
そして、思い出す。平坂が山上の手紙を楽しみにしていた事を。
だから、僕は、
倫理を悪魔に売り払った。
平坂の手紙を開ける。
彼女らしい上品な手紙である。
震える手を抑え、便箋を伸ばす。
『お手紙、ありがとう。拝見しました。』
女の子らしい丸文字ではなく、流れるようなすっきりとした文字である。
内容は他愛もないことである。
山上の代筆をしていたから、内容は知っている、つもりだった。
しかし、どこか焦燥に駆られる。
自分を利用して、山上が内緒話をしているようにも思える。
僕は頭を振り、一度机上の電気スタンドを消し、もう一度付けた。
そして、いつも山上が使っていた便箋を取り出し、‘’代筆‘’を始めた。
プロローグの方には一週間に一回程度の投稿と書きましたが、もう少しペースを上げていこうと思いました。・・・というより10月から大学が始まるので忙しくなると投稿を忘れそうなので、というのが理由なのですが。
今回は楽しんでいただけたでしょうか?楽しんでいただけたのなら本当に、本当に嬉しいです。
なにか、改善点や気付いてことがありましたら、お教え下さい。
次の投稿は9月の10日になりそうです。もしかしたらもっと遅れるかもしれません。その場合はご了承ください。