告白 -1
『このように、僕から平坂君へと手紙を書いたのは初めてのことだと、記憶している。そして、そうであろう』
平坂が今朝、野崎から渡された手紙の冒頭部だ。
いつもの手紙かと思っていると、中から二通の手紙が出てきた。
一通は山上から野崎へ。
もう一通は野崎から山上へ。
『こんなものはいらないであろう。しかし、これを言っておかないと死ぬに死ねない。僕は、そう、僕は君をだまし続けていたのである。』
平坂は嫌な焦燥感を覚えた。
『さて、何から話すべきだろうか。まずは、事の始め、であろうか。そう、初めは、山上から僕への手紙であった。同封しているから読んでほしいと思う。
もちろん、言い訳にしかならぬが、事の次第を説明しようと思う。そして、それを許して欲しい。
山上の手紙には、“代筆”を続けてくれ、と書いてあった。そして、君への好意も同時に認めてあった。驚き、しかし、困惑した。
一つは、山上の願いだ。
もう一つは、山上の好意の告白であろう。
もう、察しはついているであろう。そう、僕は“代筆”を始めたのである。三か月ほど前からであろうか。君は知らなかったであろう。だから、山上への好意を、僕が君からの手紙で読むことが出来たのであろう。
一時は山上を恨み、嫉妬した。死してなお、僕を苦しめ、そして、君から好意を得ているのだから。
何と愚かであったろうか。悪いのは僕である。僕は己の脆弱さを恨まねばならなかった。あの時、僕は人の倫理をもってして、山上の願いを断らねばならなかったのであろう。
しかし、僕は脆弱であった。そして、愚かであった。一か月ばかし、と頼まれたのに、僕は止める勇気がなく、そのまま、ずるずると続けてしまったのである。恐かったのである。何かが。恐らく、君に嫌われ、信用を失うことであろう。友人など、といっていた時期もある。だが、君はただの友人ではない。その事に気付いたのは、いつの事であったろうか。もう、裏切りをしていた頃であろう。
『K』は自殺した。自分の歩んできた道を踏み外したことに悩み、自殺したのであろう。
僕は道なぞは持っていない。しかし、なけなしの良心―本当になけなしの、悪魔に売り払った残りカスぐらいの良心と、君を想う気持ちが、君への裏切りに耐えられないと悲鳴を上げるのだ。自業自得と思うであろう。実際、そうである。自業自得である。
しかし、僕は耐えられないのである。己のしてしまった事に怯え戦いているのである。これから、どう償って、どのような顔をして生きればよいのであろうか。君は、僕の愚かさのせいで、もう今は亡き山上に恋心を募らしてしまったのである。
もう、生きてはいけまい。生きてはいけないであろう。
しかし、これを言わずして、どのやって死のうというのであるか。
平坂。好きだ。恐らく、恋であろう。
しかし、僕は愚かだ。このような愚か者に恋をする権利なぞ、あるまい。だから、君は・・・。いや、止めておこう。この先は野暮というものであろう。
では、君のこの先、一生の多幸をあの世から祈るとしよう。それぐらいの権利は僕にも残っていてほしいものである。
では、平坂。
ごめんなさい、ありがとう、先に逝く、さようなら
野崎 尊』
続きます。




