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ライトオブクラウン

折れた忠誠

作者: SUN3
掲載日:2026/05/18



ディルクは、騎士の家に生まれた。


ヴァルグレイ家は代々、国に忠誠を誓ってきた家系であり、その教えは言葉としてではなく、日々の振る舞いそのものとして子供たちに刻み込まれていく。


上の兄ローガンは実直だった。


融通は利かないが、迷いもない。命じられれば疑うことなく従い、剣を振るう。その姿は、誰が見ても「正しい騎士」だった。


下の兄ハルトは柔軟だった。


政治の空気を読み、言葉で人を動かすことができた。それでも剣を取れば一流であり、騎士としても不足はなかった。


二人とも、強かった。


そして、迷いがなかった。



ディルクは、そんな二人に憧れていた。


国を守る剣として立つ姿は、眩しく、揺るがず、それだけで価値があるように思えた。


だから、剣を振った。


毎日、繰り返し、ただひたすらに。


同年代の中では強くなっていった。


だが、それでも兄たちには届かない。


それでも、やめなかった。


やめる理由がなかったからだ。



やがて、王太子の側近候補に選ばれる。


それだけで、周囲の視線が変わった。


評価されたのは実力だけではない。


「王太子に近い」という事実が、人の態度を変えた。


ディルクはそれを理解していた。


それでも、その立場を誇りに思った。


それは、国に近づいた証だったからだ。



縁談が舞い込む。


相手は、外交を担う伯爵家の令嬢だった。


「もう、剣を振るう必要はありません」


初対面で、そう言われた。


ディルクは少しだけ考え、それから答える。


「毎日していたことなので、やらないと身体に悪いんだ」


それは本心だった。


剣を振るわない自分を、想像できなかった。



令嬢はため息をついた。


「そんな時間があるなら単語の一つでも覚えてください。日常会話程度ならすぐできるでしょう?私は十歳になる前にできましたわ」


ディルクは困ったように笑う。


外交の知識など、これまで必要としたことがなかった。


「すごいな、イリス嬢は。僕も頑張るよ」


軽く言う。


だが、令嬢は笑わない。


「先日も同じことを聞きました。あなたの頭は悪いのですから、人より努力しなければなりません」


言葉は鋭かった。


ディルクは手を握り込む。


掌にあるのは剣ダコだった。


それが、自分の積み上げてきたものだった。


それだけが、自分の誇りだった。


「……手厳しいな」


絞り出すように言う。


それでも、否定はしなかった。



ディルクは決めた。


剣ではなく、別の形で国を守ると。


外交を学び、役に立つと。


それが、忠誠の形だと信じた。



学園に入る。


環境は変わり、人も変わる。


その中で、一人の少女に出会った。


「あなたの献身的な忠誠は、皆が認めています」


突然の言葉だった。


ディルクは一瞬、何も返せなかった。


少女は続ける。


「でも、あなた個人の気持ちはどうなの?自分のことを考えてあげて」


その言葉は、理解できなかった。


理解する必要も、感じたことがなかった。



少女はディルクの手を取る。


剣ダコと、ペンダコ。


二つの痕をなぞる。


「頑張ってきたのね」


その一言で、何かが揺れた。



「俺は守りたいんだ。この国を。家族を。だから、俺個人のことはどうでもいいんだ」


言い聞かせるように言う。


それが正しいと、信じていた。


だが、声はわずかに震えていた。


理由は分からなかった。


ただ、涙がこぼれた。



本当は。


褒められたかった。


認められたかった。


頑張っていると、言ってほしかった。


だが、これまで誰もそれを言わなかった。



少女は言う。


「ディルク。あなたは頑張りすぎている。少し休んでも大丈夫。自分を労ってあげて」


その言葉は、初めて与えられた許しだった。


ディルクは、それを拒めなかった。



やがて、ディルクは少女に傾いていく。


それが何を意味するのか、理解していた。


それでも止めなかった。



そして、婚約を解消した。


誠意を示すためだった。


中途半端なままではいられなかった。



結果は、明確だった。


家から破門された。


すべてを失った。



それでも、後悔はなかった。


腕の中に残ったものが、一つだけあったからだ。



学園の屋上。


風が吹いていた。


ディルクは一人で立っていた。


「ディルク?」


振り返る。


少女がいた。


「一人で行こうとしているの?」


その声は静かだった。


「家から破門されるとは思わなかった。甘かったよ」


ディルクは笑う。


だが、その顔はやつれていた。


「ここから飛び降りようと思う」


それは、事実だった。



少女は一歩近づく。


「一人にしないで、連れていって」


迷いのない言葉だった。


ディルクはわずかに目を細める。


「いいのか?」


「お願い」



ディルクは少女を抱き寄せる。


屋上の柵の外へ出る。


足場は不安定だった。


それでも、手は離さない。



見つめ合う。


言葉はなかった。


必要なものは、もうすべて伝わっていた。



ディルクは少女を抱きしめたまま、体を預ける。


ためらいはなかった。



その瞬間。


ディルクの中で、忠誠が静かに折れた。



守るべきものは、もう変わっていた。



二人の身体は、風に引かれるように落ちていった。

この短編は、乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜の中に出てくるゲームの内容です。

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