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第6話 無法地帯

               -Khyber Pass

 パキスタンの地方行政区画は大きく6つに分けられる。4つの州とひとつの管区、そして首都イスラマバードだ。このうち、ペシャワールを州都とする北西辺境州は、その名が示す通り国土の北西部、アフガニスタンとの国境沿いに広がっている。しかし、パキスタン政府発給のビザだけでは、外国人が国境まで行くことはできない。トライバルエリア、すなわち部族地区があるからだ。


 部族地区については説明が必要だろう。日本にはこのような行政上の概念はないし、世界を見渡しても似たような場所はほとんどないに等しい。あるとしたら、きっとそこは内戦になっているはずだ。


 部族地区はパキスタンであってパキスタンではない。パキスタンの法律は通用せず、古来より続く部族の掟が支配する。住民は武装解除されておらず、国軍とは異なる独立した自治軍が存在する。何より特徴的なのは、この国家内国家とも言うべき自治領をパキスタン政府自らが公認していることだ。


「急に許可が下りました。午前中だけとの約束なので、今日は予定を変更し、まずカイバル峠に行くことにします」


 朝食のバイキング会場で添乗員がツアーメンバーを見つけては説明していた。いきなりの朗報だ。こいつは朝から縁起が良い。


 世界史の教科書に必ず出てくるカイバル峠。アーリア人が、アレキサンダー大王が、玄奘三蔵が通ったとされるこの世界一有名な峠こそ、何を隠そう件の部族地区にある。そのため、部族長の特別な許可がない限り近づくことはできず、ツアー出発前から行けるかどうかは運次第と言われていた。


「治安状況如何では途中で引き返す可能性もあります」


 結構だ。どうせダメもとで来たんだから、行けるとこまで行ってみようじゃないの。


 ペシャワールの街を出てしばらくすると、道路沿いに粗末な泥壁の家々が建ち並ぶ一角が見えてきた。土埃が風に舞っている。窓を開けたらたちまち目にゴミが入りそうだ。


「アフガン難民キャンプです」


 思っていたイメージとだいぶ違う。一時的な避難施設というより明らかにひとつの街だ。自家用車らしき車もそこかしこに停めてある。最初はテント生活だったのが、内戦の長期化に伴って本格的に家屋が建設されるようになり、今では定住集落になっているのだという。


 やがて、行く手に大きな城門が見えてきた。カイバルゲートだ。バスが路肩に停まったかと思うと、いきなり自動小銃を肩から下げた男たちが乗り込んできた。


「彼らは部族軍の兵士です。決まりにより、警護のために同乗してもらいます」


 浅黒い肌に顔中を覆うもじゃもじゃの髭。鋭い眼光。黒い上着の袖から覗くいかにも屈強そうな腕の筋肉。強盗ではないとわかっていても、見るからに怖い。


「あの……一緒に写真を撮ってもらうことはできますか?」


 恐る恐る訊いてみた。怒鳴られたらどうしよう。機嫌を損ねられて入域許可が取り消しになったりはしないだろうか。しかし、結果は意外にもOKだった。それどころか、横に並ぶと少し恥ずかしそうにはにかむ。兵士も人間だ。偏見や先入観で見てはいけない。


 カイバルゲートをくぐるといよいよ部族地区だ。ここからはいわば「無法地帯」となる。ならず者や荒くれ者がいるのだろうか。車内に緊張感が漂い始めた。

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