第08話(悪魔講義―この世のからくり―)
「弟よ、譲兄さんが悪魔講義してくれるぞ、大人しく聞きなさい。
子供に大人しくって言っても通じないかな? ダメか~この子、ププッ」
「なんだ蒼、おめーケンカ売ってんのか?」
「譲さん、何だか翔君コワです~紅一点なのに私……うるうる」
「何が紅一点だ、
世の中は言葉しゃべる生き物とそうでない生き物の二択なんだよ!」
「翔、彼女は……」
剛田はあんぐり開け、いろいろ妄想してしまった。
「むっ! ごめん二人付き合ってたの?」
「キャン!」
「蒼、お前はポメラニアンか!」
清水は思わず岩城に抱き着いた。
「蒼、さらにお前自分の価値観、人に押し付けて楽しむタイプだろ?
いるんだよなーこういうウルトラ・マイン」
「んじゃこらっ! 表でろやい」
清水は剛田に掴みかかろうとするが人差し指で止められてしまう。
「ムムムムムッ!」
(翔と蒼……こいつらまとめるの思ったより時間がかかりそうだ)
「えー、それでは授業始めます。まず大枠からね」
そう言って岩城は語り始めた。
霊脈士、彼らの世界観はこうだ。
天国と地獄がありその境界面に人間界がある。対立する二つの力、善と悪、天使と悪魔、天界と魔界、表現は違えどもどちらかの、特に地獄の勢力が増すと人間界が侵されることになる。
その際、悪魔やその類が人間を誘惑し、そそのかし、ののしり、悪行へおとしめてゆく。
人間である霊脈士は一時的に地獄に踏み入れ、彼らと戦い押し返すことが役割なのだ。
「譲さん、じゃあ怪獣映画みたいに建物や橋が壊されたりはしないの?」
「そうだよ蒼、しかも天国や地獄は時間という概念が働かないから、
そこへ踏み入れてる間は人間界では時間が経過していないことに
なるんだよ面白いだろ?」
「譲兄さん先生、何だか釈然としませーん」
「どうした翔?」
「神様って全知全能、
ウルトラスーパーマックスなチートキャラっすよね?
なんで俺たちが頑張んなきゃいけないの? ちーっと違うよ」
「ちゃんと韻をふめてよかったね」
「神様に頼んだら?」
「そうだね、翔」
「神様やる気ないの」
「そういうんじゃないけどね、翔」
「そもそも神っているん?」
「良いこと言うね、翔」
「えっ?」
「翔、君は今、神学を学びたいって言ったよね。確かに言った」
岩城の目がキラリと光った。そして剛田は後悔した。
(ヤバい、兄さんにもこんな地雷が……)
「言ってません」
「何を言うんだ翔、言葉では語りきれない、
しかし言葉しか持たない私たちは神を言葉で語ってゆくしかないんだ。
数千年の時を経てもまだ神を語り切れていないんだよ。翔君!
まずイエスによって語られ、
そして理性によって語られるところまで来たんだ。科学ともいうけどね」
「あの、譲お兄さん?」
「翔君、未だ見果てぬ地平線の向こうに神がいるとしたら
それは言葉で語れると思うかい! いいや語れない、だがしかしだ!
人は神を語ることをやめられないのだよ。
もし人が魂同士で語り合えるとしたらなんて素晴らしい事なのだろう。
そう思わないか?」
「マジごめん、蒼も俺も圏外なんだ。話進めてもらっていい?」
「ああ、まずはイエスの……んっ?」
「じゃなくって霊脈士の話ね、兄さんごめん」
「さわり部分だけでもダメ? やっぱり」
「俺たちそのために大人しく座ってる」
岩城は神学を熱く語ってくれる同士を求めていたが二人はやはりそうではなかったようだ。
「どこまで話したっけ?」
「ええっと、人間界には直接的な害はない。
戦って戻っても時間経過はなしの二点だよ。俺が知りたいのは
『いつどこで』奴らを検知して、
『どのように』地獄入りして、
『どうやって』戦うのかの三点だよ」
「地獄では眠らないしお腹もすかない。つまりいつでも戦えるってわけ。
霊脈士は常時、霊脈と接続しているから霊脈が検知したら
強制的に現場に飛ばされる。戦術は大きく三つに分かれていて対空戦、
地上戦、対地中戦に分けられて各々破魔道具が用意されているんだ。
大戦後は対地中戦が多いね、後は見てのお楽しみだ」
「風呂入ってたらどうすんの?」
「大人の事情で検閲が入るに決まってるだろ、それ以上聞くな」
岩城はそう言って二人の首にスタンプを押した。
「これはあくまで形ばかり、暗示みたいなものだ。
これで常時、霊脈と接続されることになる。
蒼は前任の青野さんから位相変換のやり方を、
翔はおやじさんから一通り破魔道具の使い方を
レクチャーされて来てくれ。ちなみに悪魔退治は滅多にないよ、
そんなに気を張る必要なないから」
「ねえ、兄さん……」
「どうしたの翔?」
「万が一、負けるようなことがあったらどうするの?」
「一番有効な手段が一つだけあるんだ」
「もったいぶってないで、それは何?」
「逃げる」
「逃げんの! じゃあはなっからやらなきゃいいじゃん」
「そうは行かないだろ、自分さえよければっていうのが一番良くない」
「いやいや、それとこれとは違うだろ兄さん」
「なら正直にこたえるよ、翔。
信仰だ。自らの信仰を自ら問うてる」
「負けるってことは信仰が足りないってこと?」
「そう言うことでもないんだけど、もしかして神学を学ぶ気になった?」
「俺は兄さんがやってるからついてってるだけだよ」
「翔、逃げる時はみんなで逃げよう」
剛田は岩城に言われたことがなぜか気になった。
ただ、その理由を深く考えることもせず、そのままにしていた。




