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破魔の力  作者: 天解 靖
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第06話(夢の始まり―蒼の覚醒―)

清水 蒼。

それが彼女の名前だ。

普通の家庭に生まれて普通に生きてゆくはずだったが、変化は早く訪れた。


「ねぇ、ママ。

 おばあちゃんそろそろ天国に行くみたい。

 お電話したあげて」


「どうしたの蒼?

 そんな縁起の悪いこと言って……」


確かに祖母は医師から長くないと言われているが、今日明日の話ではないはずだった。

その時、母の電話が鳴った。

すぐに喪服の準備をする親たちを幼い清水はじっと見ていた。

チラッと時折、自分の方を見る大人は別の世界の別の生き物のように思えた。

冷たくて少し重い、疑念や畏怖のような感情が清水の柔らかい部分に流れ込む。

これを期に清水は未来を大人に伝えるのはやめ、心を閉ざすことになる。

清水が見る未来は大人にとって都合の悪い残酷な結末が多かったからだ。


「人は痛がりだから見て見ぬふりをするんだ」


自ずと清水は人が望む答えにあわせるようになった。


「適当にあわせて、適当に間違って、

 ずっとこのルールっていうか歯車にのっかってれば

 これ以上悪くならないし、テレビの向こう側は私とは違う世界、

 結末が分からないって楽しそうだな」


清水は思春期を迎えた頃、部活で仲良くなった子と少しだけ打ち解けた。

自分の試合を待っている間は建物が作る日陰で休んでいるのが常だった。


「ねぇ蒼、私ねテニス選手になるのが夢なんだ」


スマホをいじりながら清水はこたえた。


「へー、でも今さぁ、股関節ケガしてんじゃん。

 ちゃんと休まないとだよ?」


瞬間、清水は後悔した。

何気ない、いつもの会話として返してしまった。

うかつだった。

彼女の怒りと悲しみが清水に流れ込んできた。

過ぎた時間は戻らず、残酷な間だった。


「あのっ、」

「あのさ、ケガのことなんで知ってんの?

 親にも誰にも言ってないのに……気づいてんのは蒼だけ。

 私のショートクロス、カウンターできんの蒼だけ。

 大して筋トレしてないのにちょいちょい私に勝てんの蒼だけ。

 なんかさぁ、蒼ってさぁ、人外だよね。

 推薦も一番早くとって卒業まで消化試合かもしれないけど、

 取り柄のない私はこれでやってくしかないのよ!」


その子は心の中でもっときつい言葉を使っていたようだった。


「マリちゃんごめん……マジごめん」


とっさに清水は自分の手で左目をふさいだ。

右目からは一滴、涙が頬を伝った。

比較的、彼女との楽しかった思い出を自分の角膜に映し出される未来で傷つけたくなかったのだ。

彼女の心の中に清水に対する硬いものが出来上がったことに気づくまで時間はかからなかった。


「私はここにいるべき人間じゃない、私は誰にも必要とされてない、

 私は望まれてない。誰も私に期待しない、

 私が頑張ると周りが不幸になるからだ……私は透明人間だ」


清水は建物のコンクリートと地面のアスファルトに自分が混ざってゆく感じがした。

去ってゆく彼女を見ながら、恐る恐る手を下ろすと彼女の未来が見えた。

角膜の中の彼女は志望校のスポーツ推薦を勝ち取れたようだった。


「マジ良かったね、目標に一歩前進。マリちゃん……がんばって」




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