第03話(野性の証明1―新たなパウロ―)
剛田(翔)の確保のため、
岩城(譲)と清水(蒼)は、彼がいつもたむろしている運動公園へ向かった。
「君、今捨てたゴミを拾いなさい」
岩城は静かに剛田へ求めた。
「あっ僕、捨ててません」
「あなたがどう思うかではなく、
皆がどう思うかです。
ゴミを拾い、ゴミ箱へ」
剛田はゴミを踏みつけにして言った。
「どこにゴミがあるって?
どこにもねーだろ」
「翔、やめとけよ。
また面倒はごめんだぞ」
岩城は剛田の足元を見て言った。
「君の足で踏みつけにしているゴミを拾いなさい」
「そこの人、あなたがどう思うかではなく、
皆がどう思うかですよ。
足元のゴミを拾い、ゴミ箱に捨てな」
剛田は五歩下がって言った。
「戻ってきなさい」
歩き去ろうとした剛田は気づけば岩城の前にいた。
「チッ、お前か?」
剛田は唇をゆがめ、岩城をにらみつけた。
「耳はついているようなので安心しました。
あなたがどう思うかではなく、
皆がどう思うかです」
剛田はゴミを投げ置いた。
「ゴミ箱が一杯だったんでね、
ご覧の通り道がきれいになった。
一歩前進だ、俺の話も聞いてくれるよな?」
剛田は岩城に歩み寄っていった。
「俺の貴重な人生の時間、
どうやって返してくれんだよ!」
「時間はもらうものではなく捧げるものです」
岩城は剛田とすれ違いゴミをゴミ箱へ捨てた。
「君のために僕も貴重な時間を費やしてしまったよ」
岩城は剛田に歩み寄りながら続けた。
「だからとは言わないが、
君の貴重な時間を僕に捧げて欲しい。
この通りだ……」
岩城は深々と頭を垂れた。
意外な展開に剛田の仲間も岩城の最敬礼に驚いた。
「偉そうなこと言って、
結局あんたも今まで出会ってきた大人と同じ感じだぞ。
同じってことは同じ目に遭っても文句ねえってことだろ、そうだろ!」
剛田は岩城に殴り掛かろうとした。
「それは当たらない」
「なんでだ、動けない。それよかその青白炎は何かの演出か?」
「もう見えるのか……ならこれはどうだ。
タワーシールド」
岩城の霊力によって構築されたらせん状の塔の上に剛田はいた。
「おおっ翔スゲー、宙に浮いてる。何か手伝ってやろうか?」
「うるせえっ、いつもみてぇに黙って見てろ!」
「暴れるな、落ちると骨が折れるぞ」
岩城の言うことを聞かず剛田は飛び降りた。
「ちょうどいい、プロテスト後はケンカできなくなるからな。
あんた強いんだろ、最後に相手してくれ」
岩城は手招きで合図した。
剛田はそういうと岩城に突進した。
「ノーマルシールド」
「なんの!」
ガンッ!という衝撃がシールドを弾き飛ばした。
剛田が岩城に迫った。
「誰だか知らねえが腹筋固めな」
岩城は剛田の獣のような目を静かに見ていた。
「噂通り、ただの力自慢だな、
人を痛めるのは趣味じゃないが」
気づけば剛田は岩城の肘鉄を顔面くらっていた。
剛田はひるまず次の拳を岩城に向けた、
途端に地面が迫ってきた。
「どうした、いよいよ転んでしまうぞ」
岩城は剛田に身をあずけ関節を極めた。
「合気のまねか? せこいことすんな! 堂々と打ち合え」
「良いのか? 丈夫そうだから四割ぐらいで行くぞ」
二人が間合いを取った瞬間だった。
「動くなよ、スパイクシールド」
また剛田の自由が奪われた。
「硬い。きかんようだから……では一割で」
岩城がつぶやくと剛田は笑ってこたえた。
「ハッ、手加減するんか? 意味わからん」
「スプリングシールド、リリース」
岩城は腹に触れただけだったが剛田の膝を地面につかせた。
「ゴハッ、ゲホッ……」
岩城はしゃがんで剛田の様子をうかがった。
「どうした、腹の具合でも悪いのか?
仲間に担いでもらうんだな」
「おめーナニモンだ、元チャンプか?
今まで強い相手と戦ってきたが……息ができないほどの拳は初めてだぜ」
「僕はただの教会職員だ。
世界一になって金を稼ぎたいなら、
まず僕を倒してからだな。
あるいは……負け犬らしく大人しくしていればいい、
親切な誰かが情けをかけてくれるぞ」
「ちょっと待てよ、今カチンと来たぞ」
負け犬という言葉に、剛田は全身の毛が逆立った。
少しばかりの遊び心も消えた。
「翔、やめとけよ。
さすがに社会人相手にすると刑事モンだ。
しかも堅気の堅気だ。
お前もこいつらの炊き出しで飯食ったことあったろ?
筋がちげーぞ、翔!」
岩城は見逃さなかった。
彼の手から霊力があふれ出していた。
「蒼!」
剛田は岩城が見ている方向に視線を向けた。
その逆側から剛田めがけ、霊脈からジャンプしてきた清水が宙を舞った。
(じゃなきゃこっちか)
「うらぁ!」
剛田は裏拳を繰り出したが清水は上下逆さまにひらりとかわし、空振りした剛田に口づけをした。
「Bang♪」
「何を……した」
剛田は突然、霊力が抜けてしまい地面へばりついた。
意識はある、力もあるが動けなかった。
拳を握ろうとしたが、ピクリとも動かない。
自分の体でないみたいだった。
「ふふっ、君のはちょっとイカれたスパイシー味だねって……ッ!」
彼女は腹と喉を抑え、膝をついた。
視界は歪み、焦点が合わない。
瞳孔が開くたび、剛田の霊力が流れ込んだ。
「ううっ、おげぇ!」
全身の筋肉が収縮し息もできない。
彼女は身もだえながら地面に倒れた。
「蒼、早くキャンセルしろ!」
「やべーよ、翔のやつ遂に人をやっちまった!」
「譲さん、彼は私たちが想像する以上の膨大な霊力を持ってる。
これはすごいね、前任のパウロに匹敵するかも……会ったことないけど」
「蒼、キャンセルだ!」
「ううん、だめだめ、まだまだ。
せっかく口づけしたんだから最後まで見ないとね」
少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
彼女は剛田を見ながら続けた。
「彼のそれは怒りと悲しみだけ、
仲間にするのは危険だよ譲さん、
この子はヤバすぎ、二番目の子にしよう。
それとも譲さんこの子のために命を張るの?」
「いいからキャンセルするんだ! 蒼」
彼女は震えながら剛田の方に手を向けた。
「ラバーズ……キャンセル」
「岩城は剛田に拘束具を投げつけた」
「譲さん、こいつはとんでもないバケモノだ。
とても背負いきれない、二人でさえも」
彼女は自分の角膜に映し出される未来と流れ込む感情を受け止めきれず気を失った。
「蒼、そんなことない。
それに僕はもう覚悟を決めてる。
僕は君たち二人を信じることにしたんだ。
大丈夫、きっと上手く行くよ」




