第19話(アウトフロー ―決戦の行方―)
一番早く到着したのは黒田、朝霧、赤羽のガーズだった。
「朝霧、見えるか?」
「ああ……見、える」
本栖湖に近づくほど剛田の悲しみが強くなって行き、朝霧は近づきたくなかった。
「朝霧、見えるかって聞いてるんだ!」
「黒田、赤羽――岩城さんと清水さんはここにはいない。
剛田さんはもう拘束具もラバーズ・キスも効かない。どうする?」
朝霧の声が震えていることに黒田は気づいていた。
「朝霧、剛田さんのこと好きか?」
「好きだ、大好きだ……助けたい」
黒田の問いかけに朝霧は感情を抑えられずにいた。
「なら付き合え、赤羽お前もだ。
剛田さんまで逝かせないぞ!」
三人はようやく剛田のもとにたどりついた。
霊力同士の摩擦によって生じる熱で剛田の首からは煙が上がっており、皮膚の焼ける匂いがした。
「これはひどい……もう止められない」
「朝霧、うろたえるな!
練習通りにやるぞ、剛田さん聞いてます?
あなたは僕たちの進むべき道を示す灯だ。
これからも多くの人を救い、癒してほしい。
聞こえてますか、剛田さん、剛田さん!」
黒田はラテン語でとなえ始めた。
(手を置いてくだされば、救われて生きるでしょう。
衣に触れさせていただければ、病苦から解放されるでしょう。
患い人よ、清くすると言いなさい)
「汝、我が秩序に静まれ!」
黒田がとなえると徐々に剛田の霊力は落ち着きを取り戻していった。ただ剛田の霊力が三人の体を貫くたび、魂が傷つけられるように痛かった。
それは剛田が今まで背負ってきた痛みでもあった。
「崩れるな朝霧、あともう少しだ。朝霧!」
既に朝霧は気を失っており、黒田と赤羽に支えられていた。彼はもう霊力を伝える躯でしかなかった。
「剛田さんからもらった霊玉よりも、えぐいパワーだ。
こんなん聞いてねえぞ黒田!
そろそろ俺も朝霧の分まで負えなくなってる。
黒田、押し返されてるぞ!」
「剛田さん、お願いです。
戻ってきて下さい……剛田さん……戻ってきて」
黒田は繰り返し剛田に語りかけていった。
剛田は両腕を落とし、うなだれるように気を失った。
「やった! 赤羽、朝霧」
赤羽、朝霧につられて黒田も倒れたが、その手を離すことはなかった。
「剛田さん、これ相当つらいっすね……」
本栖湖の水面は鏡のように輝き、月を背負った剛田を映していた。
この星はまだちゃんと動いているようだった。
そのことは、この星だけが知っていた。




