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破魔の力  作者: 天解 靖
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第18話(アウトフロー ―決戦の行方―)

「おやじさん。ニュートン・リングの使用を認めてください」


おやじさんは黙ったままだった。火野のことがあったからだ。


「譲、今は『澄の鈴』をベースに翔が使う鐘を作っている。

 ガトリングでは弾幕を突破されるし、

 ニュートン・リングは不安定だ……打開する可能性があるならば、

 それしかない」


「それが効かなかった場合を考えて、

 ニュートン・リングはやはり外せません」


食い下がる岩城におやじさんは続けた。その声には諦めに似た感情がにじんでいた。


「時限ブラックホールの生成は神の領域だ」


岩城は静かにおやじさんの目を見て言った。


「おやじさん、話をそらさないでください。

 誰かが犠牲にならなければいけないなら私が引き受けます」


おやじさんは岩城に厳しい眼差しを向けた。

それはかつての自分を叱責しているようでもあった。


「お前、その話を後任にできるか? 犠牲になれと言えるのか?

 天国と地獄の一時的な不均衡はお前の代では終わらない。

 言うなれば永遠に続く人類の業だ。

 なあ譲よ、悪魔とその類は人類に直接手を下すわけじゃない。

 人間界で起きてしまったことは人間が裁きを下せばいい」


岩城はなぜかこみ上げてくる怒りを抑えながら続けた。


「人が蒔いたものを人が刈り取らないなら、僕はそれも引き受けます。

 大戦の英雄と称されるあなたの言葉だとは思えません」


「皆にはそう思われているのか。

 それは違うぞ、譲。

 ただの無様な生き残りだ」


そう言いながら、おやじさんは失った足を見ていた。


「兄さん、おやじさん。

 そんなに難しいことなのか?」


剛田には二人の会話が理解できなかったようだった。


「起動したらみんなでさっさと逃げればいいわけだろ?

 簡単なことだ。着任したらまず霊脈を作ればいい。

 おやじさんの時代に澄はいなかったから、

 そんな暇はなかったかも知れないけど今は違うぜ。

 兄さんは霊脈作る、俺は鐘を鳴らす、蒼は……まあいいや、

 そんな感じだよ。ダメかい?」


岩城と剛田はおやじさんを見た。

おやじさんはちらっと二人をみて、また視線を落とした


「負けたよ。鐘が完成したら連絡する」


霊脈士ガーズはキリスト復活と同時期に結成され、善と悪の均衡を保ってきた。

ペテロ、ヨハン、パウロ―― 時代を超えて受け継がれてきた。


既に霊脈は構築され、パウロが鳴らした鐘は悪魔とその類を粉々にしていった。


「ヨハン、何か見えるか? この鐘は一度鳴らすと灰になってしまうな。

 言われた通りガトリングより戦いやすい」


「緊張してるせいで何も見えないよ。

 やっぱりもうちょい細かいところまで計画

 練った方が良かったんじゃない?

 十分頑張ったよ、もう帰ろう」


「鐘もあと一つしかない。どうする?」


決断はペテロに託された。


「悪魔とその類を引きつけて……そして」

「ペテロ違うその後だ、ニュートン・リングを使うのか、

 使わないのかどっちだ。ヨハンはあんな状態だペテロが決めてくれ」


パウロは最後の鐘を振り上げて鳴らした。キーンという音が鳴り響き悪魔とその類を粉々にした。


「使い切ったぞ、ペテロ。地獄日記の通りだ」


「……」


パウロは思った。


(ヨハンがクロノグラスを使えないのは地獄日記の影響だろう。

 ペテロはおやじさんとのやり取りのおかげで迷いがある。

 こういうの何だったっけ? イエスの沈黙ってやつか。

 どうせやるならド派手に行かねーとな!)


パウロは予備も含め二つのニュートン・リングを両手に携えて空高く跳躍した。


「あっ、パウロ!」


気づいた時にはパウロを止める術がなくなっていた。


「取説読んでて良かったぜ。この際だから一度、地獄を消去してやる!」

(声をかけてください、この子が目覚め歩きだすために)


はるか上へ跳躍したパウロを悪魔とその類が追いかけてゆく。パウロは十字架のポーズを決め、霊力を一気に込めた。


「ここでいったんお開きだ悪魔ども、覚悟決めろや。

 ニュートン・リング、グラビティ・オン!」


剛田はそう言って膨大な霊力を込め一気に第五ジンバルまで形成した。


「これで終いだ。ギャラクティック・コリジョン(両銀河の衝突)!」


パウロのコマンドによって二つの時限ブラックホールが生成され次々と悪魔とその類を飲み込んでいった。


パウロは更に霊力を注ぎ込み、吸い込まれるのを免れていた。幸い、前任のパウロよりも高度がかなり高かったためペテロとヨハンは影響を受けずにいた……はずだった。


強力な二つの力に異なる力を加えると、その力は弾かれる場合がある。誰もそれを予見できなかった。


「いける!」


三人がそう思った時だった。

アウトフローによってパウロが地面へと弾かれた。


同時にパウロの霊力が霊脈を直撃したのだ。


「ペテロ! パウロは無事だよ。でも霊脈が壊れて帰れない。このままじゃ」


クロノグラスによってガーズが全滅する映像を見たヨハンはペテロに叫んだ。


「ごめん兄さん」


そう言ってペテロに首を横に振るヨハンは拘束具を取り出しパウロに取り付けた。


「血迷ったかヨハン!」


「パウロ、ごめんね。私たちは勝ったけど、ダメだったみたい。

 これ以上の犠牲はだせないんだ。ペテロが霊脈を作り直してくれる。

 それで逃げよう」


「それは俺の役目だろうが、こいつを外せっ」


「弟よ、兄の背中を見よ。それでも私に外せというか、応えろパウロ!

 兄の犠牲を受け止めろ。受け止めてから考えろ!」


ペテロは振り返らなかった、振り返ると二人を抱きしめたいという誘惑に負けると思ったからだ。


霊脈に自分の記憶をのせるためペテロは心の中から二人の記憶を取り出した。


(この通りだ……君の貴重な時間を僕に捧げて欲しい

 蒼、早くキャンセルしろ!

 僕は君たち二人を信じることにしたんだ。

 翔、僕を見るんだ!

 清水さん、僕らの未来はどう見える?

 逃げる時はみんなで逃げよう

 今日は楽しかったよ、それじゃ!

 君たちに出会えたのは神の采配だ)


岩城は最後の言葉を霊脈にのせた。


(ようやく言葉の限界を越えて神を感じ語ることができる。

 その機会を与えてくれた君たちに感謝だ、父さん、二人を頼む)


剛田や清水との出会い、初めて主演を勝ち取ったとき一緒に祝ったこと、今までの戦いで支え合って生き残ってきたこと、すべてが岩城の素晴らしい思い出だった。


岩城は最後にペテロとして叫んだ。

「主よ我を導き、この命に代えて子らを救いそして、恵みたまえ」


ペテロが霊脈と化したと同時にヨハンは二度、タップした。二人は霊脈を通じて富士五湖の一つである本栖湖へ飛ばされた。水面が大きく盛り上がり、二人は水中から岸辺へ投げ出された。ヨハンはパウロの性格を知っていたので拘束具を解くことはなかった。


「こんな終わり方があるか!」


パウロの叫びは拘束具を破壊した。その霊振は遠くにいた朝霧を呼び醒ました。


「剛田さんがヤバい!」


朝霧は黒田と赤羽に連絡し霊脈本堂へ集結し、本栖湖へ飛んだ。


「これが神の御業なら、神の意思ならば、これ以上、

 俺は神を信じられない」


ヨハンはとっさに位相変換し、ペテロとして語り始めた。


「だめだパウロ、霊脈の近くでそんなことを言ったら均衡が崩れてしまう」


「何のための……何のために俺たちは戦って来たんだ。

 こんな仕打ちがあるのか? 悪魔の存在を神が認めるなら」


「やめろ! パウロ、やめてくれお願いだ。

 先の大戦のおかげで多くの仲間が殉職して、前任者は引退し、

 後任がまだ育っていない。

 それに今まで君と一緒に戦ってきてわかったことがある、

 君は他の霊脈士とは決定的に何かが違うんだ。

 ペテロが君のことを気にかけていたのには理由があるはずだ。

 君がここで堕ちるのは良くない、とっても良くない気がするんだ」


ヨハンはパウロをなだめようと必死だった。


「ヨハン、それは神の骨のことだ。だいぶ前から知ってるよ、

 俺はもう限界だ。引き裂かれてしまった。

 兄さんが逝ってしまったのは俺のせいだ」


「それは違う、違うんだ。

 神と人間との間にある無限の差を乗り越える努力を放棄してはダメだ。

 どんなことがあっても神に寄り添うんだよ、パウロ。

 信仰を……パウロ、お願いなんだ。

 お前までいなくなってしまったら私はどうすればいい?

 言うなパウロ、言うんじゃない!」


「ごめん蒼……俺は、信仰を捨てる」


剛田の体から膨大な霊力が放出され、霊脈を傷つけ始めた。


「ブルーウォール」


清水はペテロの技を応用し、本栖湖の水を使って身を守った。本栖湖の水が剛田のそれを吸収したのだ。清水は静かに歩み寄った。


「剛田君……君は、しょうがない奴だな」


清水は剛田に近づき、ラバーズ・キスを行い、剛田のすべての霊力を自らの体に吸い込んだ。唇を離したと同時に清水と剛田を包んでいた水が爆ぜた。清水は膝から崩れ落ちるように倒れた。


「ラバーズ・キャンセル」


清水の体が耐えきれず崩れ始め、灰になろうとしていた。


「蒼、そんな」


位相変換は解かれていなかったため清水であり岩城でもある、その人は剛田に語り掛けた。

その目は穏やかで優しい眼差しだった。


「いいんだよ、こうなることはわかっていた。

 でも私はバカだから、そうならないことを少しだけ期待してたんだ。

 やっぱ因果律は変えらんない。でもこれぐらいの犠牲で済んだんだ、

 良いじゃんか……霊脈は守られた。

 君は必ず信仰を取り戻すから大丈夫。私はそれを信じてる、

 灰になろうとも怖くない。悲しまず恐れず自分の道を進むんだ。

 また会おうきっと……どこか違うところで」


剛田は、「また会おう」という言葉を聞くことなく、崩れ行く清水の手を優しく抱きながら涙を流した。



――すべては灰になった。

剛田は灰をすくおうとしたがあまりにも軽くつかみ取ることはできなかった。何度も何度もやってみるがつかめない。剛田は拳を打ち付けた、泣きながら打ち付けていた。


「一人にしないで兄さんたち」


剛田はとうとう壊れてしまった。


「俺には生きる資格がない」


剛田は両手を首にあてたが何も起きなかった。


――叫んだ。

「なぜ、苦しみながら生きなければならないんだ。

 どうして、私の命を持ち去ろうとはしないんだ。

 この期に及んで、まだ何も語らないんだ。

 神よ!」


その手は力を込めた。

体が生まれつき頑丈なため、首はびくともしない。

次に剛田は霊力を込め始めた。




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