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破魔の力  作者: 天解 靖
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第17話(地獄日記―大戦級の悪魔―)

地獄と過去を見る能力、

この力を得てから朝霧の世界は一変した。

鏡面に映るのは、もはや自分の顔だけではない。

意識を集中させれば、時空を超えた光景が浮かび上がる。

とはいえまだ始めてから日が浅いので訓練も兼ねて軽めの案件を与えられていた。


澄は自宅の銅鏡の前で深呼吸をした。


(この鏡、物心つく前から毎日磨いてたな、だからなのかな。

 もしかして磨くことで心が遷っちゃったのかな?

 本当の私は常夜にあって、

 ここにいる私は仮初めだとしたら……余計なことは考えるな私、

 意識を集中させるんだ!)


朝霧は余計なことを考えるのが得意な子だった。


「ええっと、今日は地獄の様子をさらっと見て、

 青野さんの悲劇のワンシーンを見て涙し、

 蒼さんのずっこけシーンを見て笑うという流れですかね」


そう言って鈴を鳴らした。キーンという音が長く鳴るように設計されている。霊脈協会謹製の破魔道具、「澄の鈴」。


これは朝霧の声紋を再現し銅鏡の固有振動にあわせてある。この鈴を鳴らすことで銅鏡は共鳴し、操者の意識とリンクすることで地獄や過去を映し出す。また、地獄でこれを使用すると魔を退け邪気を払うと言われている。なお、澄の鈴を使いこなせているのは朝霧のみだ。


「地獄……相変わらずグロいですねー

 そういえばダンテって人が地獄と天国を観光したって

 誰か言ってたけど本当かな? ちょっと見てみよっと」


そう言って朝霧はもう一度、鈴を鳴らした。


「ああ、これ有名な地獄の門ね。

 ヘビメタのジャケットみたいでカッコいいですねっていうか

 誰も来ないね、やっぱり創作だったんだー」


朝霧は暇だった、こんなことが仕事になるなら早いとこやってればよかったと思っていた。暇だったので鏡に映った地獄の門をピンチアウトした。


「おおっ、さすがロダン先生にデザイン頼んだだけはありますね。

 ディティールが素晴らしい。中央の上らへんにいらっしゃるのが、

 あの有名なおっきなほうのトイレしてる人。

 さらに上には中二病が直ってない男子高校生三人の

 土魔神召喚ポーズ……にしてもなんでみんな全裸なんだろね。

 今だったらお目覚めな人たちに怒られちゃうよ」


一瞬、キーンと耳鳴りした朝霧は何かに気づいた。


「んっ? 本か何か……だね」


朝霧は携帯を取り出し青野にメッセージを送った。


「写メで送ったんですけど見えてます?

 左上に本みたいなのが挟まってて」


「ほんと、本みたいだね」

「そのギャグはスルーしますね」


「……澄っち、これガーズで調べてみるよ。

 ユーも同行してみる? 悪魔退治ないし」


「私は無理なんで離れたところから応援します」


「わかった、澄っちは気にしないで」


青野は三人を呼んだ。岩城、清水、剛田たちだ。


「っというわけで澄っちが見つけた

 『地獄の門に挟まってる本を確認しに行こう』

 っていうのが今回のお仕事だよん」


「あの、青野さん。本には何が……」

「それを調べるのが目的だね」


三人は顔を見合わせた。



――霊脈協会謹製の破魔道具、勝手扉。この扉を使うと最大、辺獄までジャンプすることができる。

禁忌の代物であるため霊脈堂の中でしか使用できない。片道用と往来用があり使用後は灰と化してしまう。


地獄の門は、予想以上に威圧的だった。


「でけぇな……これ」


パウロが見上げる。

高さは十メートルを超える金属のような石造りの門だ。常に開いたままで奥へと続いていた。門の表面には無数の彫刻と、刻まれた銘文をペテロが読み上げた。


「一切の希望を捨てよ、この門をまたぐ者よ」


「左上の縦枠、だよね。あれじゃない?

 こういうのってパウロの役目じゃん、汚らしいから私は触りたくない」


ヨハンは顔をしかめた。


「なんでいつも、こういうのは俺の役目なんだよ」


パウロはため息をつき、跳躍し地獄の門から取り出した。


「ほれっ」


「ちょっと、ばっちいから私に近づけないでよ。

 しかも何かネバネバしてるのついてるし、そこ。

 何か表面に文字が書かれてるよ、取説なんじゃないの。

 なんて書いてある?」


「ペテロ呼んでくれ」


そう言ってパウロはペテロに本の表紙を見せた。


「古い言葉だ、トスカーナ語だな」


そこには、こう刻まれていた。



【マジで読まねーと知らねーぞ一覧】

①触れた者は手がただれ、目が焼けるかもな

②この本を開けば知りたいことだけ文字が浮かび上がるぜ

③内容を知ったとしても人に伝えることができねぇ

④書き写したとしても判読させねぇし

⑤写メでも無理、世の中そんなに甘かねーぞ

⑥この本は地獄日記と呼べ。

 悪魔やその類についての活動が細かく記録されてんだ

⑦地獄の門より持ち出すことはできないぜ

 (持ち出せば消え失せ、元の場所に戻される)

⑧スゲーだろ!



「なんでこんなに砕けた表現になるの?

 しかも最後のスゲーだろっていらないよね」


「多分、パウロが持ってるからだ。

 この本は持ったものの言葉のレベルで表現されるみたいだ」


「ぷぷぷっ、またしてもパウロの語彙力」


いらっとしたパウロは地獄日記をヨハンに突き付けた。腰を抜かしてしりもちをつくヨハン。


「じゃーから近づけんなっつーの!

 それさぁ、私とペテロが触ると死ぬってことだよね……んっ?

 ところでペテロ、パウロの手が光ってる」


「そうか? ペテロ、俺の手が光ってるか?」

「いいや、光ってない。ヨハンお前の思い過ごしだ」

「いやいや、どうして――光ってるっしょ、それ!」


「今日の本題はそこじゃないだろ。手間取らせるなヨハン、開くぞ!」


ペテロとパウロは手の光をごまかすのに精一杯だった。


「パウロ、多分、僕らには見えないようになってる、ヨハンは読めるか?」


「私も読めない……というか何も書かれてない」


パウロが表紙を開くもペテロとヨハンは文字を見ることさえ出来なかった。


「じゃあ俺だけか、読むぞ」


内容はこうだった。

(まあ、これを音読しても誰も意味解釈できない仕組みになってるがな。

 おめーにだけ、おめーが知りたいことを地獄日記から要約してやったぜ。

 つまりこうだ。お前は無惨に敗れる。

 もちろん他のヤツが犠牲になればその限りじゃねえ。

 それぐらい強いってことだ。

 英雄になれるって言った方が気持ちよかったか?

 地獄には人間界のいう時間というものはないが、そろそろ現れるぞ。

 そういうサイクル、輪廻っていうのか業っていうのか、

 おめーらのカルマのせいだな。

 それは一つ一つは小さい虫とかコウモリみたいな弱い奴らだが、

 その数は京の単位を軽く超える。桁違いの数ってことだ。

 まあ、しっかり準備して頑張れよ、以上だ。健闘を祈る。

 ……まぁ祈る相手もここにはいないがな)


「パウロ、どうだった? 何をしゃべってるのか分からなかったぞ」


「らしいな……いったん戻ろう」


そう言ってパウロは地獄日記を打ち捨てた。


「パウロ、それ雑に扱っていいの?」

「構わない、戻るぞ」


ペテロは思いつめたパウロの様子を察して勝手扉を開けた。三人は霊脈堂に戻ってきた。


「蒼、俺をクロノグラスで見てくれ。何が見える?」


「ん? 明日の撮影でセリフミスってる」


「やっぱり堅いな、こいつは俺にしか伝わらないように出来てるようだ。

 ピーーーって話らしい」


「翔君、何自分でピー音使ってるのかな? お仕事中だよ」


蒼がそう指摘しても変わらなかった。


「いやだから、ピーーーってことだよ」


「あのね、同じギャグは二度やるなって決まってんのわかる?」


「蒼、ちょっと待て。

 翔、直接その内容を口にできないならお前の表情から

 何か深刻な状況に僕らはなってしまうってことなんだろ」


「そうだ……おおっ、今度はちゃんと答えられた」


岩城は考えた。


(悪魔とその類との戦いのことだ、大戦級のと近々遭遇する。

 そのために必要な準備が必要ってことだ)


「わかった。おやじさんに相談して準備しよう。翔、一緒に来てくれ」


「ピー」


「おみゃーはおしゃべりインコか!」


岩城と剛田はすぐに東京霊脈堂のラボに向かった。



「あのー澄ですけど。今日の私のお仕事ってアップでいいですか?

 いいですよね? いいのかなー?」




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