表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破魔の力  作者: 天解 靖
14/20

第14話(王の散歩―愛の平原―)

岡山県岡山市北区。ここには古墳が点在している。その中にある千足古墳に人らしき、人らしからぬ「それ」がいた。


すぐに現役のガーズ。

黒川、清水、剛田は現場へジャンプしていた。


「ペテロ、今まで戦ってきたやつとは違う。こいつは人間界にいるぞ」


それは三人に気づいて近づいてきた。

少し足元がおぼつかないようでふらついていた。


「相手は人間だから攻撃できない。どうするペテロ」


「ヨハン、パウロ。あいつは霊脈史に一度だけ登場している。

 その名は『無為の王』だ。

 無為の王は人の『のどぼとけ』に受肉する。

 受肉の際は対象の人間から承諾を受ける必要があり、

 前回の登場は二十世紀初頭だ」


王はさらに近づき三人を見下ろして言った。


「神に加担する者たちよ、我は『無為の王』だ」


パウロは歩み寄り、首をつかんだ。


「俺はパウロって言うんだよろしくな!」


もしかしたら自分の手(神の骨)が持つ力によって祓うことができるのではと思ったからだ。

だが、何も起きなかった。


「うぬも我と似たようなものか……しかし覚悟が少し足りていないようだ。

 うぬら言わせるところの信仰というものだな。

 それが足りん、足りんのだ。

 それでは我を帰することはできぬぞ」


「なにを! その首へし折ってもいいんだぜ」


ペテロはパウロの肩に触れた。


「パウロ下がるんだ。

 仮にこいつが地獄側にいたとしても、あらゆる攻撃が効かない。

 幸いなことに奴からの攻撃はない、害はないんだ。あるのは口だけだ」


「そうだ、口だけだ。人の口は禍いを招くがな」

「何がしたくて来たんだ!」


パウロは嘲った、王も嘲って言った。


「何も……強いて言うならこの躯を借りて散歩しに来た。

 こやつは快く引き受けてくれたぞ。少し酒に酔っていたようだがな。

 真ん中のお前、美男だな。酒に酔わされて気分が良い、そばに寄れ」


そういうと王は階段の踊り場に腰をゆっくりとおろした。大暴れできると思っていたパウロは肩透かしにあい、どうでもよくなってきた。


「ペテロ、ヨハン帰ろう。俺たちは暇じゃないんだ」


「だめだパウロ、こいつはその口で人を堕としてゆくんだ。

 前回、こいつは国を傾け落としている。ここでけりを着けないとマズい」


「傾落とは心外だぞ。

 我の心からの言葉をただ口から発していただけなのに」


「ヨハン、四国街道を東へ少し行ったところにコンビニがある。

 きのこの形をした――あのお菓子とお茶を買ってきてくれ」


「えっ、意味爆死なんですけどペテロさん」


「多分、上手く行くから。こいつは日本のコンビニの『極み』を知らない」


「きのこじゃなくてもいい? 私、たけのこ派なんだけど」


「ヨハン甘けりゃどっちでもいいだろ、両方買ってこい」


ヨハンはそんなもので状況が良くなるならと買い出しに行った。


「ヨハン、急げ、パシリは走れ」

「パウロ、お前にはハバネロ買ってきてやる」


ヨハンとパウロが仲良く言い合ってる間、ペテロは新約聖書の一節を思い出しつぶやいた。


「イエスは空腹を覚えられた。

 お前には実りがない……だから僕たちはここにいるんだ!」


王は苦虫をかみつぶしたような顔をして言った。


「やめてくれ、よしてくれ、興味がない。

 ただただ人として生きていた時、

 ただただ地獄で暮らしていた時、それでも我は見たことがない。

 見てないものは存在しない、存在しないものは信じえない。

 だから神を信じない」


ペテロはしっかりと王の目を見て批判した。


「信仰がないものはカオスしか生まない。

 お前は無為であることでコスモスを体現しているのだろうが

 生み出しているものが全く違う、糜爛だ!」


「ほう、難しい言葉を操るのだな。ところで名は……ペテロで良いか?

 ペテロと名乗る者よ、それはとらえ方の問題だ。

 獣が人を襲っても山が火を噴こうとも、それをカオスとは呼ばんだろ? 

 人間の営みがどんなに醜くとも人は自然の一部であるから

 カオスではない。そもそもコスモスとは何なのだ?

 地獄がカオスだとして天国がシステム、

 さしずめ人間が住んでいるここがコスモスなのだろう。

 ゆえに我の居場所は地獄ではなくここなのだ。

 だから我はここにいる。ほら、我を我で証明したぞ。次はなんだ?」


ペテロは思った。今日のために神学を学んできたのだと。不本意ではあるがペテロは遂に神学の友を得た。と同時に考えた。


(霊脈史には、無為の王は首をはねられ、四肢は塩漬けにされ、

 心臓は焼かれるなど考えられうる様々な方法で処刑されたという。

 人の意志で地獄の側へ追いやったのだ。

 時を経て天国と地獄のちょっとした均衡の歪みを利用して再び現れた。

 歴史を繰り返してはいけない。ここで連鎖を断たねば!)


ペテロは切り出した。


「神こそが森羅の中心である。

 王よお前は見たことがないのではなく見ようとしていないのだ。

 だから万象をとらえることが出来ない。それ足りうるのは信仰の力だ。

 一度でも見ようとしたことはあるのか?」


「ふん……そう来たか……ない、ないな。銀貨二枚を出さなかったからか?」


ペテロは続けた。


「善はシステムで、悪はカオスだ。

 コスモスは善によって生み出された愛の平原だ。

 決して悪によって上書かれたシステムではない。それはバグだ。

 王に命ずる、我が秩序に従え。さもなくば去るがいい!」


王は踊り場に肘をついて少し空を見た。


「なかなか手厳しいな」


少しばかり沈黙があった後、ヨハンが息を切らせて戻ってきた。


「ちょっと! 一キロ弱あったじゃないの、いい運動だったわ。

 はい、これ注文の品ですわい」


王は表情を変えずコンビニ袋をまさぐり始めた。


「そそられるのはこの……待ってプリン……と読むのか?」


「アホ、『抹茶ぷりん』だ。食えばわかる」

「ダメダメそれは私のおやつ!」


王は包装を開け食べ始めた。


「なんぞ、これは……この躯の言葉を借りるならば

 『これ、うめぇぁでほんま!』だな」


「ペテロ、なんだか俺たち訪日客おもてなしって感じになってるぞ」


パウロに目配せをしてペテロは言った。


「王よ、これが……」


王はペテロの言葉を遮った。


「それは『言わんでも分かるけぇ、だまっとれぇや』ということだ。

 この世とあの世の端境で従者が我を待っている。

 その者にこのコンビニ菓子というものを自慢しようぞ。

 ペテロと名乗る者よ……また会おう」


だんだんと王の存在が希薄になって行くのを三人は感じた。


「いつもお前を見ているぞ。ここでは我々から逃れることはできない」


パウロとヨハンはこのカオスな状況から抜け出せると思いほっとしていた。


「そうだお前らに銀貨二枚をやろう―― 近々、強そうな悪魔が訪れる。

 その時までにしっかり準備しておくんだな……我は去るぞ、

 ペテロとやらの……その論、なかなか捨てたものではなかった。

 また会おう」


語っていた躯はうなだれてしまった。


「もしかして終わり?」

「終わりだ、多分」

「じゃあ帰れる?」

「ああ、帰れる」


「ちなみにこのおじさんどうするの? ほっといたら風邪ひくよ」


「ヨハンが買い出しにいったコンビニに置いて行こう」


ヨハンは残りのお菓子を食べようと思った。

パウロが確認するもコンビニ袋の中身はなかった。


「ない、他のがない! あの人、ちゃっかり全部もっていっちゃった。

 ゴミぐらい捨ててけよ、ここは日本だぞ!」


清水は少し言いにくそうな感じで岩城の顔色を伺った。


「にしてもあの~、

 コンビニまではジャンプしたら早いような気がしますが……」


「ヨハンそんなことのために使ったらだめだよ。ちゃんと歩こう」


三人は約一キロほど歩いてコンビニに向かった。


「ねぇ、二人はコンビニ商品で何が一番好きなの? 私は鮭おにぎり」


「俺は野菜コーナーの果物」

「僕はスムージーかな……」


「なんだ、みんな甘党なのね……あっ思い出した

 今日はそろそろ閉店するっていってたよ。

 なんやかんやあるらしいってことで」


「それを早く言え! 走るぞ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ