第12話(彼らの日常―頼りがいのある奴ら―)
青野と清水は普段行動を共にしている。
特段取り決めたわけではないが青野は彼を名前で呼び、清水は青野を師匠と呼んでいた。
「ねえ師匠、次の首相ってあの人になるの?」
「ごめん蒼さぁ、次の首相って次の次の首相ってこと?
それとも次の首相ってこと?」
「んぇっと、次の次の首相ってこと」
「消去法で」
「えー、あの魔法使っちゃう人!」
「そう――って私の心覗き見しないでよ」
「だって師匠、言わなそうだったから」
「守秘義務ってあるのよね世の中には、
彼に頼まれて霊脈接続作っちゃった」
「ゲッ、師匠マジ?」
「馬路源之助です。
さあ、次のクライアントにZoom In!」
「師匠、それレジェンド級のフリっすよ」
「蒼、あんた永遠のマンネリズムって言葉しらないの?
これだから若い子は浅っさいわよね。
いつまで経っても一人前になれないわよ」
「師匠クライアント側に声、通っています」
―― 都内某所の孤児院
剛田は撮影が終わり、岩城のもとを訪ねた。
「翔、無理言ってごめんな実は……」
「どうしたの兄さん、怖いんだけど」
岩城は少し間をおいて声を出した。
「今日は子供たちの合同誕生会です!
みんな出ておいで」
どこに隠れていたのか子供たちがわいて出てきて剛田を取り囲んだ。
「翔サインくれ、ネットで売りに出す」「腕相撲しよう」「肩車して!」「翔の隣に座るの……」
一度に子供たちからいろいろとおねだりされ困ってしまった翔だったが、顔は笑っていた。
「翔、事務所には連絡済だよ。今日と明日は仕事なしでいいよってだって。
明日はおやじさんが話をしたいって言ってたから顔見せにいったげて」
「わかったよ兄さん、まずこいつらを片付けよう」
剛田と岩城は子供たちと一緒に食事をし、ゲームをして楽しんだ。子供たちから解放されたのは日付が変わる前ぐらいだった。
「翔、お前はこの子らの目標だ。
霊脈士の仕事は忘れてもいい、後任はいるんだ」
「どういう意味?」
「お前の戦い方は常軌を逸している」
「つまり?」
「いつか命を落とす、誰もそれを望んでない」
「兄さん、封印派は俺を煙たがってる。
大戦は終わり、俺みたいな悪い子はいらないってことはわかってるよ」
「お前は神の祝福を受けて生まれてきたと僕は思ってる。
悪魔はそれを嫉妬しているんだ。
その手が均衡を崩しているという封印派の主張には根拠がないし、
悪魔を引き寄せていたとしても大戦前のように酷い状況か?
そんなことはないはずだ。
さらに芸能活動を通じて人にとりついている悪魔の類を払っている
事実がある。霊脈士にはできない芸当で誇るべきだ。
ここの子らだけでなく、お前が輝くことでどれだけ人が救われている?」
「だから?」
「だから次、悪魔と対峙するときは翔、お前は祈りを捧げるだけにしよう。
どうだ?」
「兄さん、一度でも兄さんのやり方に反対したことがあったかい?
やるよ、でも危なくなったら俺が前に出る。
いいね……らしくないよ兄さん、いつもより説得力がない」
剛田はなぜ今、岩城からこのようなことを言われたのか違和感を覚えた。同時に剛田はこれからの戦いのために別の何かを備えなければいけないのだと思うようになった。
「……」
岩城は黙って剛田を見るだけだった。
温かく、なぜか少しだけ悲しそうな表情を笑みと共に浮かべていた。
「兄さんは心配性なんだよ、今まで上手いことやってこれたじゃないか? 封印派とここまで仲が良い啓示派は今までなかったと思うよ。
だから俺たちは史上最強のガーズなんだ。
じゃあ、明日の午後におやじさんとこ行くよ。
今日は楽しかったよ、それじゃ!」
―― 次の日、剛田は東京霊脈堂の地下にあるおやじさんのラボにいた。
「おやじさん、どうしたの話って」
「翔、こいつに霊力をこめてみろ」
そう言って小型の破魔道具を投げ渡した。
「あいよ、何かのテストかい?」
そう言って剛田はメリケンサックをはめ、ラテン語でつぶやきながら霊力を込め始めた。
(手を置いてくだされば、救われて生きるでしょう。
衣に触れさせていただければ、病苦から解放されるでしょう。
声をかけてください、この子が目覚め歩きだすために)
ニュートン・リングはあの時と同じ様に回転し始めた。おやじさんの瞳に剛田の霊力が映る。
「翔、もっとだ。もっと込めてみろ」
剛田はおやじさんをチラッと見て、目は本気になった。
パソコンに表示されるすべてのインジは振り切れ、測定不能となり、部屋中がガタガタと叫び始めた。
「翔!」
おやじさんは止めるよう叫んだ。
「お前の手を見てみろ」
「おやじさん、これって……」
剛田は自分の手の甲に十字架がうっすら光っているのを見た。
「翔、静かに聞けよ。
お前、小さいころ見えないものが見えて、治せないものが治せ、
逆にその手が命を安らかに吸い取ることはなかったか?」
剛田は思い出した。
両親から恐れられ捨てられたこと、常に常ならざる者から見られていたこと、その手が癒しを与えたことも、意図せず奪ってしまったことも、過去の記憶が呼び起こす悲しみや怒りといった感情が剛田を支配しようとしていた。人として辛うじて、自分を保っていられるのは岩城の存在があってのことだった。
「……、兄さん」
剛田は深く息をした。
「お前は神の骨を持っている。
その正しい使い方を覚える必要があるんだ」
「おやじさん、どうすれば」
「わからないというのが今の答えだ。
ニュートン・リングは時限ブラックホールを作り出す
だけじゃないはずなんだ」
「前任のパウロを救いたいの?」
「そうだ、ゼロに近い可能性でもだ、命に代えてでも。
だがペテロではできない。翔、お前にしかできないんだ。
惑星間ジャンプは試したか?」
「それは禁忌のはずじゃ」
「プロキシマbには行ったことがある。
ニュートン・リングの検証はいつもそこでやってんだ、
霊振が凄いからな。訓練したければその星を使え、
ケンタウルス座の方向だ。お前はただでさえ目立ってるから
霊脈協会に相談すると怪しまれる。これをもってけ」
「霊脈地図ね、この分厚いの何?」
「ニュートン・リングの取説だ」
「げっ、家電の取説も読めない俺がどうやって」
「お前、好きか?」
「?……何を」
「譲や蒼のことだ。
自分が信じるものを、信じてくれる人を疑うな。
自分から決して口にするなよ。最後に一つ、それは訓練用だ。
実践では使えないし、何回か使ったら交換しに来い」
「ありがとう、おやじさん」




