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第1話 行ってきます

神律スペア聖教会。


 それは、信仰を軸に大陸へ絶大な影響力を持つ神権機構。

 千年以上の歴史を持ち、名目上の信徒まで含めれば、大陸人口の半数以上がその庇護下にあると言われている。


 だが、この教会を語る上で決して外せない存在がある。

 教会直属特務機関――【天律法位】。

 神話を冠する十二の役職。


 その中でも、最も有名で、最も畏れられ、そして最も神秘視される存在。

 奇跡を起こす者。

 神に選ばれし象徴。

 それこそが――

 

 ◇


「第四法位【聖女】か……」


「どうしました、ブレム様」


「いや、何でも」

 

 オリヴィアは祈りを中断して首を傾げるが、ブレムは慌てて誤魔化す。


(【聖女】……只者じゃないとは思っていたけど、まさかオリヴィアがそんな大層な人だったなんてな)


 まあ、だからと言って態度を変えるわけでもないが……とブレムは思考を切り替えると、オリヴィアに問う。


「本当に何か手伝わなくて大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。つい先日この街にやってきたので、そこまで荷物が多いわけでもありませんから。

 やることといえば、2週間ほどこの教会を離れるので、その分の祈りを多めにやっておくくらいでしょうか。

 ……ブレム様こそ、いいのですか?」


 祭壇の前で祈りを終えて立ち上がるオリヴィアに問い返されるが、それが何のことを指しているのかブレムはよく分からなかった。

 ブレムが怪訝そうに見つめ返すと、オリヴィアは口を開く。


「私が本教会に帰還するにあたり、ブレム様が同行してくださることです」

「ああ、それか」


 ブレムはついさっきの会話を思い出す。

 


 10分前――。

 

「まだ言いたいことがあるかもしれないが、今日の昼頃には出発できるようにしておいてくれ。

 教会の馬車が、その時間しか確保できなかった」


 朝日が降り注ぐ教会の中、互いに見つめ合うブレムとオリヴィアに、バッカスが声を投げかけた。

 

「昼頃……ということは、出発まであと四時間ほどですね。

 ……滞在は、何日ほどになりますか?」


 オリヴィアの声は落ち着いていたが、その視線は一瞬だけブレムへと向けられた。


 ほんの僅か――迷いの色。

 それを見て、ブレムは考えるより先に口を開いていた。


「俺も」


 バッカスがわずかに眉を動かす。


「バッカスさん。俺も同行していいですか」


 短い沈黙。

 言い切ったあとで、少しだけ鼓動が早くなるのを自覚する。


「……ブレム様?」


 オリヴィアが目を見開く。

 

 バッカスは一瞬だけブレムを見つめ、値踏みするように目を細めた。

 それから、静かに頷いた。


「……ああ、構わない。

 馬車の席は余裕がある」


 

 たった数分前に自分が放った言葉をむず痒く思いながら、ブレムは苦笑する。


「オリヴィアが側にいない方が辛いだろ……オリヴィアの方こそ、俺がいて迷惑……じゃなさそうだな。よかった」


『オリヴィアがいない方が辛い』というブレムの言葉に赤面して俯くオリヴィアを見ながらブレムは苦笑し、そのまま礼拝の椅子から立ち上がる。


「じゃあ俺に手伝えることもなさそうだし、俺は家で支度してくる。集合は12時に外壁の西門だったな……準備って、何をすれば良いかな」


「――準備ですか?

 そうですね……バッカス先生いわく、本教会の別館に宿泊出来るようですので、必要なのは服の着替えくらいでしょうか。後の必需品はあちらで用意してもらえると思いますよ」


「なるほどな……ありがとう。一旦家に帰って支度するわ。また西門で」


「ええ。また後でお会いしましょう」


 まだ耳元を赤く染めていたが、それでも微笑みを浮かべるオリヴィアに手を振ってから、ブレムは教会を後にした。



(服だけで良いと言っていたけど、金も持って行った方がいいよな……)

 

 家にたどり着いたブレムは、家の戸締りを確認しながら、準備を進めていく。


 旅行はおろか、街の外に出たことすらないブレムであるが、困ったことはバッカスさんかオリヴィアに頼ろうと決意していたので、不安はそこまでなかった。


 準備に大きなトラブルはなく、順調に進んだ。

 精々、荷物を入れるバックが見つからず、物置を隅々まで探し回ったくらいだろうか。

 ひとまず大きなバックに服と下着を何着か、財布をポケットに入れて、ブレムは支度を終えた。

 集合時間までは時間があるので、店主にでも挨拶して行こうか、と考えて家の鍵を手にしたブレムは、ふと家の中に視線をやった。

 

 食卓を挟んで向かい合う椅子。

 魔術式の本が何冊も散乱したリビング。

 殆ど汚れていない台所。

 

 数週間前からつい数日前まで、たった1人で過ごしていた家。

 今のブレムにとっては、この家よりも、オリヴィアがいる教会の方が、心の落ち着く場所になりつつあった。


(……ちゃんと帰って来れるよな)


 だが、ここはブレムの帰ってくる場所である。

 それだけは、変わらない。

 

 ブレムは部屋を後にしながら、呟いた。


「……行ってきます」


 その言葉が静まり返った家の中で反響した。


少し投稿が遅れました。すいませんでした。

次回は明後日のの21:00に投稿します。

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